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第8章 食欲と挑戦の秋(2)
第60話 一息ついた処で
気球本体を完全に広げたところでヨーコ先輩がやってきた。
「そろそろ私の出番かな」
まさにその通りだ。
「お願いします。でも彼女達の方は大丈夫ですか?」
「今はドレスやアロマグッズを見ているよ。さて働くか」
そう言うと同時に熱気球が膨らみ始める。
「それなら私もそろそろ始めましょうか。まずは水の沸騰する温度よりちょっと上くらいですね」
くつろいでいたアキナ先輩もやってきた。熱気球が浮き始める。
なお一応籠部分の下にはアンカーがあって、フックを外さないと全体が浮かないようになってはいる。
先輩2人の強力な魔法であっという間に熱気球はスタンバイ状態になった。
「さて、初回は誰が乗る?」
「私は遠慮しますわ」
アキナ先輩は高所恐怖症だったな。
「なら最初は私が乗ってみよう」
ヨーコ先輩は乗る気だ。
「これってヨーコ様と一緒に乗れるんですか」
さっきの女子が食いついてきたぞ。
「私以外には7名までかな。あとこちらの担当は随時変更はあるけれどね」
「なら私、乗ります」
「あ、私も」
たちまちヨーコ先輩ファンクラブで第1回乗員が埋まってしまった。ヨーコ先輩お疲れ様って処だ。
勿論今は口に出して言えないけれど。
「では上昇させます」
ロックを外すとともに気球は上昇を始める。気温がやや低めなのもあってか上昇速度が結構速い。
「少し中の温度を調整しますわ」
少しゆっくりになったように見える。念のため鑑定魔法で気球全体の浮力を確認。うん、ちょうどいいかな。
一方でフールイ先輩とシモンさんは行列整理を始めた。気球が浮いた事で一気に搭乗希望者が増えたようだ。
「下から引っ張るのは初めてだけれど、身体が浮きそうで怖いな」
「気球の下降と同時にロープをたぐる程度でいいよ。校舎より低くなったら多少引っ張って着地地点を制御すれば大丈夫だろ、今日の天気なら」
ロープがほぼいっぱいになったところでちょうど浮力がマイナスになった。なかなかいい具合だ。あとはあまり速く落ちないように、下降速度を見ながらアキナ先輩にお願いすればいい。
列も大分出来たし展示品の見学者も結構出てきた。順調だな、これは。
◇◇◇
1時間に4回ペースで3時間。そんな訳で飛行は計12回。流石にこれだけこなすと魔力が大分減ってくる。
鑑定魔法で状況確認をする俺も疲れたが熱操作するアキナ先輩はもっとだろう。俺とは違って疲れた様子は見せないようだけれども。
毎回ロープを引っ張っているシンハ君の疲労はとりあえず無視。奴は頑丈人間だから。
そんな訳で熱気球をたたんでしまった後、俺はコットをひとつ拝借しテントへ、たたんだ熱気球の隣の空いたスペースにコットをセットして横になる。
寝返りこそうてないが寝心地は悪くない。特に取り外し可能な枕がちょうどいい感じ。ちょっと一眠りさせて貰おう……
ふと何か気配を感じて目が覚めた。今は何時くらいだろうととっさに思う。
鐘の音は確認していないがテント内から見える太陽の位置はまだ高い。午後2時か、せいぜい3時と言うところかな。
そして真横に人の気配がする。そーっと横を見てみる。
椅子とオットマンを使ってくつろいでいるフールイ先輩がいた。本当にすぐ真横だ。
「ごめん、起きた?」
「いえ、それはかまわないですけれど、先輩はどうしてここに」
「騒がしいの苦手」
確かに学内はお祭りで騒がしいものな。ここが一番静かかもしれない。
ただここまで近くにフールイ先輩がいるのも何か落ち着かないけれど。髪を整えた状態のフールイ先輩はなかなか魅力的だから。
ミド・リーやシモンさんと違って小柄だけれど胸はしっかり大きいし。
「でも起きたついでに質問、いい?」
声が本当にすぐ真横で聞こえるのにどきりとする。フールイ先輩とはあまり話した事が無かったから。
「ええ、答えられることでしたら」
「なら質問。ミタキの知識で死者を生き返らす魔法や方法、ある?」
どう答えるか考えた後、正直に答えることにした。
「俺の知っている限りではありません。蘇生魔法も単に意識を失っている人や仮死状態の人を起こすだけで、死人を生き返らせる訳ではありませんし」
「魔法以外の方法である?」
「俺の知っている限りありません。完全に死んでしまったら蘇生は不可能です」
「やはり」
フールイ先輩が小さく頷いた気配がした。
ふと思い出す。アキナ先輩が言っていた。フールイ先輩は父親を蘇らせるために賢者の石を錬成しようとしていたと。なら今の俺の回答は残酷だったのだろうか。
でも、だとしたらどう答えればよかっただろう。考えても考えても正しい答えが浮かばない。
ならばせめて何か気が軽くなるような台詞でも言えればいいのだけれど。そう思った時だ。
「不思議だ」
小さな、抑揚のない声でそんな台詞が聞こえた。
「何が不思議なんですか」
俺は思わずそう聞いてしまう。
「悲しくもないし驚いてもいない。死んだ人間は生き返らない。そうきっぱり否定されたのに」
先輩の声は相変わらず小さくて抑揚がない。感情がわからない声だ。
俺はどう反応したらいいのかわからず、ただ黙っている。
しばらく沈黙の時間が続く。
フールイ先輩は何を考えているのだろうか。何か声をかけた方がいいのだろうか。でも何と言えばいいのだろうか。
わからないまま、無言のまま。そして。
「そうか、既に気づいていたのか。死んだ人間は生き返らない事に。だから悲しくない、きっと」
先輩はそう、つぶやくように言った。
ほんの少しの間の後、先輩は続ける。
「アキナ先輩に聞いたかもしれない。私が賢者の石を求めていたのは父を生き返らせるため。父は私が10歳の夏、いつも通り家を出て行って戻らなかった。入っていた山が崩れて行方不明と聞いた。それきり」
先輩の台詞は相変わらずつぶやくような口調。俺に聞かせるというより自分自身に語りかけているという感じに聞こえた。
俺は黙って先輩の話を聞いている。
「そろそろ私の出番かな」
まさにその通りだ。
「お願いします。でも彼女達の方は大丈夫ですか?」
「今はドレスやアロマグッズを見ているよ。さて働くか」
そう言うと同時に熱気球が膨らみ始める。
「それなら私もそろそろ始めましょうか。まずは水の沸騰する温度よりちょっと上くらいですね」
くつろいでいたアキナ先輩もやってきた。熱気球が浮き始める。
なお一応籠部分の下にはアンカーがあって、フックを外さないと全体が浮かないようになってはいる。
先輩2人の強力な魔法であっという間に熱気球はスタンバイ状態になった。
「さて、初回は誰が乗る?」
「私は遠慮しますわ」
アキナ先輩は高所恐怖症だったな。
「なら最初は私が乗ってみよう」
ヨーコ先輩は乗る気だ。
「これってヨーコ様と一緒に乗れるんですか」
さっきの女子が食いついてきたぞ。
「私以外には7名までかな。あとこちらの担当は随時変更はあるけれどね」
「なら私、乗ります」
「あ、私も」
たちまちヨーコ先輩ファンクラブで第1回乗員が埋まってしまった。ヨーコ先輩お疲れ様って処だ。
勿論今は口に出して言えないけれど。
「では上昇させます」
ロックを外すとともに気球は上昇を始める。気温がやや低めなのもあってか上昇速度が結構速い。
「少し中の温度を調整しますわ」
少しゆっくりになったように見える。念のため鑑定魔法で気球全体の浮力を確認。うん、ちょうどいいかな。
一方でフールイ先輩とシモンさんは行列整理を始めた。気球が浮いた事で一気に搭乗希望者が増えたようだ。
「下から引っ張るのは初めてだけれど、身体が浮きそうで怖いな」
「気球の下降と同時にロープをたぐる程度でいいよ。校舎より低くなったら多少引っ張って着地地点を制御すれば大丈夫だろ、今日の天気なら」
ロープがほぼいっぱいになったところでちょうど浮力がマイナスになった。なかなかいい具合だ。あとはあまり速く落ちないように、下降速度を見ながらアキナ先輩にお願いすればいい。
列も大分出来たし展示品の見学者も結構出てきた。順調だな、これは。
◇◇◇
1時間に4回ペースで3時間。そんな訳で飛行は計12回。流石にこれだけこなすと魔力が大分減ってくる。
鑑定魔法で状況確認をする俺も疲れたが熱操作するアキナ先輩はもっとだろう。俺とは違って疲れた様子は見せないようだけれども。
毎回ロープを引っ張っているシンハ君の疲労はとりあえず無視。奴は頑丈人間だから。
そんな訳で熱気球をたたんでしまった後、俺はコットをひとつ拝借しテントへ、たたんだ熱気球の隣の空いたスペースにコットをセットして横になる。
寝返りこそうてないが寝心地は悪くない。特に取り外し可能な枕がちょうどいい感じ。ちょっと一眠りさせて貰おう……
ふと何か気配を感じて目が覚めた。今は何時くらいだろうととっさに思う。
鐘の音は確認していないがテント内から見える太陽の位置はまだ高い。午後2時か、せいぜい3時と言うところかな。
そして真横に人の気配がする。そーっと横を見てみる。
椅子とオットマンを使ってくつろいでいるフールイ先輩がいた。本当にすぐ真横だ。
「ごめん、起きた?」
「いえ、それはかまわないですけれど、先輩はどうしてここに」
「騒がしいの苦手」
確かに学内はお祭りで騒がしいものな。ここが一番静かかもしれない。
ただここまで近くにフールイ先輩がいるのも何か落ち着かないけれど。髪を整えた状態のフールイ先輩はなかなか魅力的だから。
ミド・リーやシモンさんと違って小柄だけれど胸はしっかり大きいし。
「でも起きたついでに質問、いい?」
声が本当にすぐ真横で聞こえるのにどきりとする。フールイ先輩とはあまり話した事が無かったから。
「ええ、答えられることでしたら」
「なら質問。ミタキの知識で死者を生き返らす魔法や方法、ある?」
どう答えるか考えた後、正直に答えることにした。
「俺の知っている限りではありません。蘇生魔法も単に意識を失っている人や仮死状態の人を起こすだけで、死人を生き返らせる訳ではありませんし」
「魔法以外の方法である?」
「俺の知っている限りありません。完全に死んでしまったら蘇生は不可能です」
「やはり」
フールイ先輩が小さく頷いた気配がした。
ふと思い出す。アキナ先輩が言っていた。フールイ先輩は父親を蘇らせるために賢者の石を錬成しようとしていたと。なら今の俺の回答は残酷だったのだろうか。
でも、だとしたらどう答えればよかっただろう。考えても考えても正しい答えが浮かばない。
ならばせめて何か気が軽くなるような台詞でも言えればいいのだけれど。そう思った時だ。
「不思議だ」
小さな、抑揚のない声でそんな台詞が聞こえた。
「何が不思議なんですか」
俺は思わずそう聞いてしまう。
「悲しくもないし驚いてもいない。死んだ人間は生き返らない。そうきっぱり否定されたのに」
先輩の声は相変わらず小さくて抑揚がない。感情がわからない声だ。
俺はどう反応したらいいのかわからず、ただ黙っている。
しばらく沈黙の時間が続く。
フールイ先輩は何を考えているのだろうか。何か声をかけた方がいいのだろうか。でも何と言えばいいのだろうか。
わからないまま、無言のまま。そして。
「そうか、既に気づいていたのか。死んだ人間は生き返らない事に。だから悲しくない、きっと」
先輩はそう、つぶやくように言った。
ほんの少しの間の後、先輩は続ける。
「アキナ先輩に聞いたかもしれない。私が賢者の石を求めていたのは父を生き返らせるため。父は私が10歳の夏、いつも通り家を出て行って戻らなかった。入っていた山が崩れて行方不明と聞いた。それきり」
先輩の台詞は相変わらずつぶやくような口調。俺に聞かせるというより自分自身に語りかけているという感じに聞こえた。
俺は黙って先輩の話を聞いている。
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