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第8章 食欲と挑戦の秋(2)
第64話 種明かしの時間
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「心配はいらない」
ここでそう言ってくれたのは学園長だった。
しかし何故学園長が? 本当にわけがわからない。
「似たような例は無いわけではない。例えば私自身がそうだ。私はかつて他の世界に生きた記憶を持っている。ミタキ君ほどそのまま使える知識を色々持っていた訳では無いがな」
えっ!? どういう事だ。言葉はわかるのだけれど思考がおいつかない。
「私の場合はここと違う世界で暮らした記憶があった。物心ついた頃からな。自分の過去と同じ程度には鮮明に色々憶えているし思い出せる。その記憶を元にいくつかの魔法を再現したのが私の最初の業績だった。これが自分自身の前世の記憶なのか、他の世界の他人の記憶を持っているだけなのか。今となってはもう、私にもわからなくなってしまったが」
「そう。このような事例はまれにある事なんだ。他の世界の記憶があるとか、この世界の別の時代の知識を持っているとかね。
ただその知識が有害、危険な思想だとか、もしくはそういったのとは別の敵対国や勢力の潜入員等危険な存在だったとかではまずいだろう。だから色々確認させてもらった訳さ」
ホン・ド王子がそう説明する。
「それではミタキ君の処遇はどうなるんでしょうか」
アキナ先輩が質問してくれた。
「今と変える必要は無いと判断するよ。既に充分研究開発に適した環境を手に入れているようだからね」
ほっとした。ようやく安心できた。助かった。
全身の力がほへーっと抜ける。
「学園長の記憶にある世界とはどのような世界だったのでしょうか」
アキナ先輩が尋ねる。
「ここより魔法が進んだ世界だった。殆どの人がいくつもの魔法を持ち、それらを自由に使用して快適な生活を送っていた。ただ私はあの世界ではそれほど魔法に詳しくは無い一般人だったからな。そこまで重要な事はあまり憶えていない。それでも何とか記憶を探って出来たのが、多種類の魔法を日常魔法として習得する方法だった」
そういえば昔は今ほど日常魔法が一般的で無かったと聞いた事がある。
祖母の若い頃は調理に炭を使っていたとか。炭に着火させるのに焚き付けと火打ち石が必要だったとか。水も共同井戸から毎日汲んで運んでいたとか。
今はその辺の日常的な事は全て魔法で事足りる。日常魔法は初等学校での訓練でほぼ間違いなく使えるようになるから。
「ミタキ君も別世界の記憶があるのかしら」
もう隠しても仕方ないだろう。俺は頷く。
「俺は逆です。魔法が一切ない代わり、科学技術が進んだ世界でした」
「科学技術って何かしら」
「魔法を使わず自然の原理を応用して物を動かしたり変化させたりする技術です。この熱気球やあの蒸気ボートのように」
「そういう事でしたのね」
アキナ先輩が頷く。
「さて、そういう訳でそろそろ地上だ。一応速度を考えながら微調整しているけれど、これでいいかな」
学校の建物がすぐ下に見える。浮力も下降速度も問題ない。
◇◇◇
気球を撤収してテントに仕舞った後。折りたたみテーブル2個を繋げ皆で囲む。
今日は10月でも天気が良くて風が無い。外でお茶をするにはちょうどいい天候だ。
「……4月に流行風邪をひいて寝込んだだろ。あの時に思い出したんだ」
俺は全部話した。
別の世界の記憶があること。病弱なおかげで本等で色々な知識を憶えたこと。これらを思い出した時期とそのきっかけ。
本当に全部をだ。
「なるほど、それで4月以降ミタキが変わったような気がしたのか」
「そうよね。いきなり算術が得意になったりしたし」
旧来からの知り合い2人は納得した模様。
「残念だな。もしミタキが別の世界と行き来できるなら、是非連れて行ってほしかったのだけれどさ」
「同意ですわ」
大貴族組の感想はそんな感じだ。
「でも前世でも病弱だったというのは気の毒ですね」
「まさか知識がここで活用できるようになるとは思わなかったけれどさ。あと前世とこの前までの俺の病状は多分同じだと思う。魔法の方が俺の病気には適していたんだな、きっと」
「その辺はミド・リー様々ってところだな、きっと」
「せいぜい感謝しなさいよ」
「否定できないのが悲しい」
でもシンハ君の言ったとおりだし感謝もしている。実際何度も助けられているから。この前最終的な治療までしてもらったし。
「まあミタキの知識が何処から来たことであれ、やることは変わりませんしね」
「そうだな」
そう言ってくれると俺としてはありがたい。
「とりあえず次は何を作るの」
「そんなに簡単には思いつかないよ」
「憶えているものをそのまま全部作るんじゃ駄目なのか」
おいおいシンハ君それは考えが甘すぎだ。
「例えば石鹸とかもそうだけれどさ。見えている部分だけ憶えていても同じものは作れないんだぞ」
「シモンさんの魔法があっても駄目なのか」
「無理だね」
ここからはシモンさんが説明してくれる模様。
「例えば海軍の技術者さんも外から蒸気ボートを見ているよね。でもまだ同じものを作れた様子はない。僕は見えない重要部分をミタキ君に説明してもらっているから何とか作れるだけだよ」
まあこの世界の機械類はせいぜい風車や水車まで。だからシンハ君が飛びぬけてアホという訳ではない。自分で作らない人の感覚なんてそんなものだ。
「でもまずは学園祭が終わってからだな」
「そうね。まだ2日目なのに色々ありすぎて」
「ホン・ド殿下がいらっしゃいましたし、ミタキ君はカミングアウトするし」
全くだ。
「とりあえず今日は片づけよう。そろそろ今日の公開時間は終わりだしな」
「そうですね」
テーブルと椅子を折りたたんでテントの中へ。展示品もテント内に撤収する。
そう、学園祭は実はまだ2日目。祭りは4日後まで続く予定だから。
ここでそう言ってくれたのは学園長だった。
しかし何故学園長が? 本当にわけがわからない。
「似たような例は無いわけではない。例えば私自身がそうだ。私はかつて他の世界に生きた記憶を持っている。ミタキ君ほどそのまま使える知識を色々持っていた訳では無いがな」
えっ!? どういう事だ。言葉はわかるのだけれど思考がおいつかない。
「私の場合はここと違う世界で暮らした記憶があった。物心ついた頃からな。自分の過去と同じ程度には鮮明に色々憶えているし思い出せる。その記憶を元にいくつかの魔法を再現したのが私の最初の業績だった。これが自分自身の前世の記憶なのか、他の世界の他人の記憶を持っているだけなのか。今となってはもう、私にもわからなくなってしまったが」
「そう。このような事例はまれにある事なんだ。他の世界の記憶があるとか、この世界の別の時代の知識を持っているとかね。
ただその知識が有害、危険な思想だとか、もしくはそういったのとは別の敵対国や勢力の潜入員等危険な存在だったとかではまずいだろう。だから色々確認させてもらった訳さ」
ホン・ド王子がそう説明する。
「それではミタキ君の処遇はどうなるんでしょうか」
アキナ先輩が質問してくれた。
「今と変える必要は無いと判断するよ。既に充分研究開発に適した環境を手に入れているようだからね」
ほっとした。ようやく安心できた。助かった。
全身の力がほへーっと抜ける。
「学園長の記憶にある世界とはどのような世界だったのでしょうか」
アキナ先輩が尋ねる。
「ここより魔法が進んだ世界だった。殆どの人がいくつもの魔法を持ち、それらを自由に使用して快適な生活を送っていた。ただ私はあの世界ではそれほど魔法に詳しくは無い一般人だったからな。そこまで重要な事はあまり憶えていない。それでも何とか記憶を探って出来たのが、多種類の魔法を日常魔法として習得する方法だった」
そういえば昔は今ほど日常魔法が一般的で無かったと聞いた事がある。
祖母の若い頃は調理に炭を使っていたとか。炭に着火させるのに焚き付けと火打ち石が必要だったとか。水も共同井戸から毎日汲んで運んでいたとか。
今はその辺の日常的な事は全て魔法で事足りる。日常魔法は初等学校での訓練でほぼ間違いなく使えるようになるから。
「ミタキ君も別世界の記憶があるのかしら」
もう隠しても仕方ないだろう。俺は頷く。
「俺は逆です。魔法が一切ない代わり、科学技術が進んだ世界でした」
「科学技術って何かしら」
「魔法を使わず自然の原理を応用して物を動かしたり変化させたりする技術です。この熱気球やあの蒸気ボートのように」
「そういう事でしたのね」
アキナ先輩が頷く。
「さて、そういう訳でそろそろ地上だ。一応速度を考えながら微調整しているけれど、これでいいかな」
学校の建物がすぐ下に見える。浮力も下降速度も問題ない。
◇◇◇
気球を撤収してテントに仕舞った後。折りたたみテーブル2個を繋げ皆で囲む。
今日は10月でも天気が良くて風が無い。外でお茶をするにはちょうどいい天候だ。
「……4月に流行風邪をひいて寝込んだだろ。あの時に思い出したんだ」
俺は全部話した。
別の世界の記憶があること。病弱なおかげで本等で色々な知識を憶えたこと。これらを思い出した時期とそのきっかけ。
本当に全部をだ。
「なるほど、それで4月以降ミタキが変わったような気がしたのか」
「そうよね。いきなり算術が得意になったりしたし」
旧来からの知り合い2人は納得した模様。
「残念だな。もしミタキが別の世界と行き来できるなら、是非連れて行ってほしかったのだけれどさ」
「同意ですわ」
大貴族組の感想はそんな感じだ。
「でも前世でも病弱だったというのは気の毒ですね」
「まさか知識がここで活用できるようになるとは思わなかったけれどさ。あと前世とこの前までの俺の病状は多分同じだと思う。魔法の方が俺の病気には適していたんだな、きっと」
「その辺はミド・リー様々ってところだな、きっと」
「せいぜい感謝しなさいよ」
「否定できないのが悲しい」
でもシンハ君の言ったとおりだし感謝もしている。実際何度も助けられているから。この前最終的な治療までしてもらったし。
「まあミタキの知識が何処から来たことであれ、やることは変わりませんしね」
「そうだな」
そう言ってくれると俺としてはありがたい。
「とりあえず次は何を作るの」
「そんなに簡単には思いつかないよ」
「憶えているものをそのまま全部作るんじゃ駄目なのか」
おいおいシンハ君それは考えが甘すぎだ。
「例えば石鹸とかもそうだけれどさ。見えている部分だけ憶えていても同じものは作れないんだぞ」
「シモンさんの魔法があっても駄目なのか」
「無理だね」
ここからはシモンさんが説明してくれる模様。
「例えば海軍の技術者さんも外から蒸気ボートを見ているよね。でもまだ同じものを作れた様子はない。僕は見えない重要部分をミタキ君に説明してもらっているから何とか作れるだけだよ」
まあこの世界の機械類はせいぜい風車や水車まで。だからシンハ君が飛びぬけてアホという訳ではない。自分で作らない人の感覚なんてそんなものだ。
「でもまずは学園祭が終わってからだな」
「そうね。まだ2日目なのに色々ありすぎて」
「ホン・ド殿下がいらっしゃいましたし、ミタキ君はカミングアウトするし」
全くだ。
「とりあえず今日は片づけよう。そろそろ今日の公開時間は終わりだしな」
「そうですね」
テーブルと椅子を折りたたんでテントの中へ。展示品もテント内に撤収する。
そう、学園祭は実はまだ2日目。祭りは4日後まで続く予定だから。
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