機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第1章 空を自由に飛びたいな

5 改良、提出、そして顛末……

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「後ろはどうだ。大丈夫か」

「楽しいですけれど、出来ればもう少し加速が欲しいです。液体窒素のタンクを増やして、噴射圧力を増やせばいいかなと思います」

 確かに空中だと時速20km/hは遅い。
 動いているのがわからないくらいだ。
 それでもほぼ学校の敷地を一周して、自転車は元の場所の上空に戻った。

「それじゃ試験飛行終わり、降りるぞ」

「うーん、もっと飛んでいたいですけれど、仕方ないです」

 試作品は順調に下りていく。
 地上3mで下降速度が自動で落ちたのは設計通りだ。
 二千円の超音波センサーは高かったのだが、いい仕事をしている。
 ほとんどショック無く着地に成功。

「すぐには降りるなよ。空を飛ばれちゃうから」

 俺は緊急開放スイッチを押す。
 リレー仕掛けで前部と後部の浮力用スペースの横が開放。
 重りに使っていた水を含ませた砂袋がドサドサと落ちた。
 試作品一号は浮力を失い、ようやく地上で落ち着く。

「うーん、課題的にはこれで完成。でもちょっとこの辺も改良したいですね」

 俺の病気が伝染ったような事を香緒里ちゃんが言っている。

「発着の手間の簡素化と窒素タンクと噴射口の増量、それでいいか」

「あと、2人乗りをしやすくしたいです。デザインも、ここまで色々付けるなら、自転車よりもスクーターやバイク改造のほうが多分格好いいです。重さはパーツごとに魔法をかければ無視できると思います」

 色々注文が入る。

「うーん、でもバイクやスクーターだと筐体となる物が高価だろう。自転車みたいに使える部品が落ちているなんて事もないし。確かに自転車ベースよりも強度的にもスタイル的にも無理がないと思うけれど」

 しかし香緒里ちゃんは、自信がありげに頷いた。

「それ位は私がなんとかします。明日から作成に私も付き合います。今週で完成させましょう。課題提出の前にまた乗りたいですから」

 そんな事を言われると、俺もやる気になってきた。
 確かにその方がより実用的に成だろう。
 なら是非とも完成させたい。

「用が出来たので失礼します。筐体は明日の夕方までには準備するので、楽しみにして欲しいです」

 この狭い島の何処に、そんな手頃な安いバイクやスクーターがあるのだろう。
 そして何故それを、島に来たばかりの香緒里ちゃんが知っているのだろう。
 そのあたりは分からない。

 でも取り敢えず彼女のその言葉に期待しよう。
 俺は片付けを始めた。

 ◇◇◇

 それから2週間が経過。
 スクーター型の飛行道具は、無事作り終えて提出も終わった
 結果的にはかなり完成度の高いものが出来て、俺としても満足だ。

 低くて長くて大きいホンダの古い250ccのスクーターのフレームを補強。
 浮上方法は自転車時代と原理は同じ。

 だが浮力には砂袋のようなおもりではなく、鉄の太い棒を使用。
 これを調整タンクに出し入れすることで、体重30kgから120kgまで対応可能にした。
 これで駐車して浮き上がったりする事はない。

 更に大きい筐体に、窒素タンクを自転車時代の倍以上詰め込んだ。
 大きくなったバッテリーで充填することにより、加速も倍以上になった。
 見かけもほぼスクーター時代のままスマートで、自転車改造時代の怪しげな雰囲気は何処にもない。

 授業での発表もうまくいったそうだ。
 何人かにすごく欲しそうな目で見られたらしいが。

 それにしても何処で、あのスクーターを手に入れたのだろう。
 この狭い島の何処に、あんな丁度いい物件があったのだろうか。

 その辺りがわからないまま、1週間が経過した後。
 俺と香緒里ちゃんは、いつもの第1工作室で杖作りをしていた。
 厳密には見本品を使って、作る練習だ。

 香緒里ちゃんはこの1週間で、この第1工作室に居着いてしまっている。
 毎日スクーター改造作業に手を出している姿が、この部屋の面々に認められてしまったらしい。

 今では既にオタサーの姫状態だ。
 本人にその自覚があるかどうかは別として。

 だから今、俺はこの工作室で一番多い仕事である杖作りを今教えている。
 本人は機械仕掛けの物を作るほうが面白いそうだが。

 ドンドン。
 前のドアがノックされた。

「はい」

 足取り軽く香緒里ちゃんがドアを開ける。
 現れたのは魔法工学科の教官にして主任教授、田奈先生だ。
 通称親父オヤジ、親父虫とか中年親父とか糞親父等と魔法工学科の学生から呼ばれている。

「薊野はいるな。長津田は……いるな。ならちょうどいい」

 何だろう。俺は少し身構える。

 田奈先生はどしどしと部屋に入って俺の方に来る。
 もともとこの部屋の管理者は田奈主任教授オヤジムシ、だから遠慮も何もない。


「長津田、お前また問題作を作ったな」

 何のことかはすぐわかる。
 最近提出したのは、あのスクーターしかない。

「あの飛行機械は薊野さんの作品です。俺は製作を手伝っただけで、使用した魔法も全部薊野さんの魔法です。課題どおりに仕上がっていると思いますが」

「お前の前の作品よりは、課題どおりだと認めるがな」

 ここで背後の連中から失笑がおこる。
 あのヘリコプターの件は、魔法工学科では有名だ。

「課題は概念設計までで良いと言った筈だ。実証モデルがあれば加点対象と言ったがな」

「ですから、あれは薊野さんの作品で、薊野さんの実証モデルです」

 田奈先生オヤジムシはフン、と鼻で笑う。

「実証モデルとうそぶいて実用モデルを持ってくるバカはそういない。2週間じゃ普通そこまで作れないからな。ましては1年生最初の実習課題だ。まあ1件目は微妙に課題から外れていたけどな」

 1作目とは僕のヘリのことだろう。
 それでも最高点をくれたし買い上げまでしてくれた。
 挙句の果てに実用性を認めてパテント取りまでしてもらい、お陰で今でも少なくない収入が俺の手元に入る。
 なんやかんや言って面倒見のいい教官オヤジなのだ、田奈先生は。

「さて本題だ。今回薊野が提出した空飛ぶ魔道具、さっきの教授会で審査した結果、追加購入が決定した。提出物を含めて全部で5台。提出物は設計図含みで80万円。他4台は材料は全部こちらで用意するので製作費で1台50万円。これで買い上げをしようと思うのだが2人の意見を聞きたい」

 背後でおおーっ! と歓声があがる。

 単なる買い上げは年に数回ある。
 でも複数買上げは滅多にない。

 ただ今回のは、製作に香緒里ちゃんの魔法が必要だ。
 だから設計図のみという訳にいかなかったのだろうけれど。
 
 値段も悪くない。
 ただ正直、あと4台作るのはちょっときつい。
 同じものを繰り返し作るのは苦手なのだ。創造性が無い行為だから。
 それに。

「あれは薊野さんの作品ですから、薊野さんに聞いてください」

 あれは香緒里ちゃんの作品として提出したものだ。
 決定権があるのは俺じゃない。

「薊野の意見はどうだ」

「確かに魔法だけは私がかけたのですが、実際に作ったのはほとんど長津田先輩です。だから長津田先輩の意見を優先してください」

 投げ返されてしまった。
 ならどうしようか。
 同じものを4台も作るのは正直面倒だし。

 そう思ったところで、妙案がひらめいた。

「なら提出物は薊野さんと俺とで半々で。これから作る4台については2割を原案作成者の薊野さんに渡してください。残り8割は製作者で分けます。俺と薊野さんだけであと4台作るのはきついので」

 俺は背後の研究会の皆様の方を見る。
 そう、量産分はこの研究会の皆様に振ろうと思ったのだ。

 正直な理由は、同じものを何台も作るが面倒だから。
 でも創造製作研の皆様方にとっても、悪い話ではない筈だ。

 今いる常連1人あたり20万円程度の分け前になる。
 ここにいる面子の工作の腕は信用出来るから、任せて問題は無い。

「いいのか、それで」

 田奈先生の目が俺と、奥にいるこの部の部長である江田先輩を見る。

「俺達はいいけど、いいのか長津田と薊野」

「私は長津田先輩が決めたことなら」

「同じものを何個も作るのは得意じゃないので」

 田奈先生は頷いた。

「分かった。ならそれで決定だ。材料は次の船で揃えるから再来週の水曜日頃、納期は材料が来てから1月だがいいか」

「大丈夫です」

 今度は江田部長が答えてくれる。

「なら、明日にでも学校長印入りの契約書を持ってくる。頼んだぞ」

 そう言って田奈先生は部屋の入口へ。
 そして出る直前、俺の方を見る。

「長津田」

「何でしょうか?」

「あまり私達を笑わせるな。今回の教授会も『またあいつの仕業でしょう』と全教授一致で爆笑させてもらった。会計長だけは渋い顔だったがな。じゃあまた」

 今度こそ田奈先生は出ていった。
 そして改めて起き上がる歓声。

「さて、この工作に手をだす人間は挙手!」

 江田部長の言葉に全員が手を挙げる。

「やったぜ、20万ゲット!」

「神様仏様薊野香緒里様。恵まれない我々にお慈悲をありがとうございます」

 変な騒ぎの中、俺は例の空飛ぶスクータの設計図を人数分コピー。
 江田部長を始めとして、今いる6人と香緒里ちゃんにそのコピーを渡した。

「という訳で設計図です。実際の作業は再来週以降になりますが、割り振りは部長お願いします」

「ああ、それは良いが、本当に今の取り分で良かったのか。長津田の取り分が少なすぎるだろう」

「前のヘリコプターのパテント代が少しずつ入りますしね、俺は」

 あのヘリコプターは外部の企業にいい値で売れた。
 しかも生産する度に、そこそこのお金が俺の懐にも入る。

 だから俺は小遣いには困っていない。
 たまに変なものを作って、材料費に泣く位で。

 取り敢えず提出用の飛行スクーターに使ってしまったアルデュイーノ4台。
 あと各種センサー類は個人的に補充しておこう。

 背後でまだ馬鹿騒ぎは続きつつ午後はふける。

 そして2週間後。第1工作室の創造製作研究会宛てで、どっさりと荷物が届いた。
 その後の2週間の午後は、香緒里ちゃん含む研究会総掛かりで、飛行スクーターを製造。

 何とか納品して、魔法による性能や耐久性チェックも通過した暫く後。

 我が校教師陣らによる空中暴走事案で、自衛隊と警察から苦情が入った。
 そんな話を噂で聞いた。

 しかし俺には勿論関係ない。その辺は製作者の責任の範囲外だから。
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