機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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27 / 202
第6章 嵐と実りの季節です

27 Singin' in the Rain

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 ある金曜日。
 外は暴風雨。
 そろそろ今年最後だろう台風が通過中だ。

 そんな中でも授業は行われる。
 事実上の全寮制で教員も近くに居住しているからこそ出来る荒業だ。

 でも、いくら遊ぶところが何もない辺境の魔法特区の離島でも、そんな日はとてもとても暇だ。
 そしてその暇さ加減に腐っている女子学生がここにもいた。

「うう、暇だし雨だしつまらないわ……」

「書類仕事も捗りましたし宜しいのではないですか」

「でも暇だよな、この雨じゃ露天風呂も無理だろうし」

 学生会幹部3名がそんな事を言いながら窓の外を見る。

 外は横殴りの雨。窓サッシに叩きつけるような風。
 工房へ行くのさえ全身ずぶ濡れを覚悟しなければならない。

 俺も香緒里ちゃんもジェニーも学生会室で書類仕事の手伝いをしている。
 ただこういう日に限って書類等の量が少ない。

 なので書類も珍しく午後4時過ぎには片付いてしまった。
 今は皆ネットサーフィンだの読書だので暇つぶしをしている。

 俺が今作っているのは高専ロボコン参考出場用マシンの制御用プログラム。
 うちの高専はロボコンで過去に魔力使用ロボットで連続優勝して以来、大会出場権を剥奪されてしまった。

 代わりに他の高専側の代表ロボットと順位なし参考試合をすることになっている。
 大体優勝校のロボットと戦うことになるのだが、戦績は今のところ6勝1敗と我が校が圧倒中。

 こう勝ちが続くと面白くない。
 そこで今年、ロボットの動作等に一切魔法を使わないという規定が追加された。
 そして学祭中開催の校内大会予選に向け、俺もロボットを製作中という訳だ。

 今日も本当なら工房でロボット本体を制作している予定だった。
 でもこの天気じゃ工房へさえ濡れずには行けない。

「うう、せめて露天風呂にでも入れれば、この鬱憤もすこしは晴れるのに」

「これじゃ車もまっすぐ飛べませんよ。下手すれば流されて行方不明です」

 俺はそう言って釘をさしておく。
 本音は露天風呂がなくなってほっとしているのだが。
 工房へ行けないのと相殺しても露天風呂なしの方が俺にとってはプラスだ。

「どうせ濡れるなら露天風呂入りたいわ」

「だからあそこの現場まで行くのは無理ですって」

 俺は断固反対する。
 飛行キャンピングカーの能力が台風の暴風に勝てないのは事実だけれど。

「歩いていくのだって無理ですよ。大学のカフェテリアまでなら通路があるから行けます。でもこの暴風雨だとうちの工房へだって辛いですよ」

 由香里姉は俺の顔を見て、そして窓の外を見て少し考える。
 そして

「なら試してくるわ」

 由香里姉はそう言って立ち上がり、何も持たずに学生会室を出ていった。

「よっぽど暇だったのでしょうね」

「今週は会議が多かったからな。ストレスも溜まっているんだろ」

 これは月見野先輩と鈴懸台先輩。

「それにしても、何処へ行く気すかね」

「お姉のことだから予測しても無駄ですよ。あちこちほっつき歩いてびしょ濡れになって帰ってくるに決まっているです」

 誰も動じないし誰も心配しない。
 まあ俺も全く心配はしていないけれど。

 ◇◇◇

 女王様のお帰りは遅かった。

 外が僅かに暗くなりかけた頃。
 学生会室の扉が荒々しく開かれた。
 買い物袋3つをぶら下げた由香里姉だ。
 全身から滴る雨で床を濡らしつつ部屋に入ってくる。

「ははははは、ハツネスーパーまで行ってこれたわよ!」

 暴風雨の中を歩いてきたせいだろうか。
 ハイになっているようだ。

 ハツネスーパーとはこの島ただ1軒のスーパー。
 この専門学校の昇降口からだとおよそ500m、通路がつながっている魔法技術大学の最寄りの出口からでも300mくらいはある。
 この暴風雨の中行くなんて正気じゃない。

「この台風で売れないのと生物の消費期限が近いのとで色々安くなっていたわ。だからいっぱい買ってきたわよ!今日はバーベキュー!」

 やっぱり由香里姉、ハイになっている。
 そしてご乱心の御様子だ。

「そんな事言っても一体何処でやるんですか。外でやるのは不可能ですよ」

「ふふふふふ、色々良いことを思いついたし発見もしたのよ」

 ひょっとしたらハイではなくてハイかもしれない。

「そんな訳で会長命令!皆、寮に帰って着替え2着とタオルと水着を持ってこの部屋集合よ!」

 この状態になっている由香里姉には何を言っても無駄だ。
 それを知っている俺達は、無言で顔を見合わせた後、寮へと出ていった。

 ただ1人ジェニーだけが、
「何だろう?何が始まるのすか?期待していいすかね?」
とワクワク感を出していたけれど。

 ◇◇◇
 
「全身シャワー!カ・イ・カ・ン!」

「あ、これ楽しいかもです」

「でしょでしょう!さっき買い物に行った時気づいたの!」

 水着で暴風雨に飛ばされかけつつはしゃいでいる5人を見つつ。
 俺は歯を食いしばって一歩ずつ歩いている。
 理由は簡単、俺だけ荷物を山程運んでいるからだ。

 巨大な登山用ザックの中には全員分のタオルや着替え。
 そして両手には買い物袋。

 目標地点の工房まであと30m。
 一瞬風が凪いだ隙に一気に扉まで近寄る。

 しかし両手に荷物を持っているので鍵を開けられない。
 誰か……
 そう思っていたら月見野先輩が開けてくれた。

「すみません、助かりました」

「他の皆様が浮かれているみたいですからね」

 無事安全な室内に入って俺は一息つく。

 この工房内でバーベキューをして風呂もやろうというのが女王様の計画だ。
 確かにこの工房、元自動車整備用だったので広さは充分ある。

「それにしても、こんな馬鹿馬鹿しい事でもやってみるとそれなりに楽しいものなんですね。そういう意味では私は会長を尊敬してしまいますわ。私には出来ない発想になりますから」

「でも月見野先輩はそのままでいてください。抑え役がいないとどうなるか想像したくないです」

 そんな学生会、俺は想像したくない。

「それもお役目なのですけれど、私も時には羽目を外したい事もあるのですよ。ですので長津田君もご一緒にあの馬鹿騒ぎに参加しませんこと」

 ジェニーの歌う『雨に唄えば』英語版が聞こえてくる。
 時々暴風雨のせいで声がかすれたり小さな悲鳴が混ざったりするけれど綺麗な声。
 そして確かに楽しそうだ。

「それにこういう言葉もありますわ。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら……」

「踊りに行きますか」

 月見野先輩が笑う。
 先輩に手を取られ、俺も雨の中へ再度踏み出した。
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