機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第14章 とっても長い春休み⑴ 漁船と宴会と怪しい朝と

62 食べずに後悔するよりも

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 5分位して、香緒里ちゃんは何とか魚を引き上げた。
 鈴懸台先輩が以前作った巨大なタモ網で掬い取る。

 赤い大きい魚だ。
 ヒレの先が黄色くて、そして胴体に小さい白い斑点がある。
 何となく毒キノコを思わせる色だ。

「月見野先輩がファイト中なので、風遊美さんチェックをお願いします」

「セーフね」

「バラハタだ。沖縄では高級魚。築地だとシガテラ毒の関係で取扱禁止だけどね」

 有毒っぽい色の魚は3年生2人にそう判定を下され、船中央の船庫へ仕舞われた。
 そして月見野先輩はまだ巨大魚と戦闘中。

「何ならさっさととどめさしましょうか」

「大丈夫ですわ。もう少し」

 月見野先輩は粘る。
 見た限りでは、少しずつではあるが寄せてきているようだ。

 そして更に10分後、銀色の巨体が浮いてきた。
 すかさず鈴懸台先輩がタモで掬う。

「ちょっと待て。これ上げるとタモが壊れそうだぞ」

 網の枠はともかく、カーテンを流用した網部分が破れそうだ。
 香緒里ちゃんが魔法を発動させる。
 若干重さを低減された巨大魚は船の中へと転がり込んだ。

「毒は無いですわ。カンパチですわね」

 月見野先輩による判定。
 口調こそ冷静だけれど、肩ではあはあ息をしている。

「残念だけど本日の漁は終了だね」

 奈津希さんの言葉に全員が同意したので、俺は船をターンさせた。
 ぎりぎりまで海上を走ってから一気に高度を上げ、陸へ。

 学校上空を通り越し、象頭山の手前に立つ高いマンションの屋上へと着地する。
 ちなみにこの船には、着地用の脚もタイヤも付けてある。
 基本的に海に浮かべる事は無いから問題はない。

 魔法で外から窓鍵を操作して、窓を開ける。
 更に巨大魚解体場所の風呂場まで、全部の扉を開ける。

 鈴懸台先輩と奈津希さんが、それぞれ大きい魚を風呂場へと運び込んだ。
 すると、風遊美さんが赤い方の魚を持って台所へ。

「この前奈津希がやっているのを見て方法は憶えました。5枚下ろしにすればいいですか」

「それで頼む。皮は剥かなくていい、湯引きにするから。あらは毒がなければ洗ってボールに入れておいてくれ」

 風呂場から奈津希さんの声。

 香緒里ちゃんは風遊美さんがシンクを使っていない間を使い、ご飯を研いで炊飯器にセット。
 そして俺その他の無能組は、邪魔にならないよう、リビングで出来上がるのをひたすら待つ。

 そして、およそ一時間後。
 見るも鮮やかな、という感じで、大皿2つに山盛りに盛られた刺身が登場した。
 今回は色々な料理が並ぶという感じではなく、刺身が完全にメイン。
 軽く炙ったりしたものはあるけれど。

「今回は本当に美味しい魚だからね。まずは刺身で食べて欲しくてこうしてみた。まだ新鮮なので身が固いから薄切りだよ。透明っぽいのがバラハタ、ピンクっぽくて脂がのっているのがカンパチ」

 これは料理長の奈津希さんの説明。

 いただきますの唱和とともに、箸が飛び交う争奪戦が始まる。

「ゆっくり食べても大丈夫、まだまだサクはとってあるから。でも熟成させて明後日位の方が美味しいかもね」

 奈津希さんがそう言っているが、箸が止まらない。

 美味しい。
 カンパチの方は、醤油を漬けるとじゅわっと脂が広がるのが見えるくらい脂がのっていて、それでいて上品な味わい。
 バラハタの方は、逆に脂はそれほど感じず、あくまで身のタンパク質の旨味。
 どっちも美味しい。ごはんも捗る。

 引っ越しと同時に買い替えた1升炊きの炊飯器の最大容量で炊いた白飯が、すごい勢いで消えていく。
 誰もが食べるのに夢中で、会話すら無い。
 あっという間に刺身も白飯も無くなっていく。

「うーん、まだ足りない気がするわ」

 由香里姉がつぶやく。

「でも1人あたり2合近いご飯は食べている筈だよ。刺身も重さにして3kg位は用意したしさ」

 そう言っている奈津希さん自身、早送りのような速度でご飯を3杯食べているのを俺は見ている。
 俺自身は2杯でもう胃の容量上やめたのだが。

「もし必要なら即席でご飯くらい炊けるし、刺身も追加切るけれど」

 奈津希さんの言葉に、真っ先に反応したのは鈴懸台先輩。

「やらずに後悔するよりも、やって失敗するほうが格好いい」

「他は」

 4年組3人がこぞって手を上げている。
 あとは香緒里ちゃんとジェニーも。
 手を上げていないのは3年組2人と俺だ。

「なら4合ほど追加で炊いてくるよ。刺身も切ってくるから5分程待ってて」

 奈津希さんはそう言って、大皿と炊飯器を抱えて台所へ。
 オープンキッチンなのでこっちから奈津希さんの作業が見える。
 奈津希さんは普通通り米を研いで炊飯器にセットし、そして冷蔵庫から刺身のサクを取り出して皿の上に置いて、そしてそのままこっちへ持ってくる。

 見ると、皿の上の刺身が、いつの間にか綺麗に均一に薄く切られていた。
 そして炊飯器は電気を入れていないのに、蒸気を噴き出している。

「ご飯はあと1分待ってくれ」

 そう言っている間にも、置かれた皿から刺身が減っていく。
 それでも刺身の量は、まだまだ充分だ。

 そして。

「ちーん」

 奈津希さんは自分でそう言って、炊飯器の蓋を開けた。

「オッケー、ご飯も大丈夫だよ」

 その途端飯に飢えた亡者が5人、炊飯器の周りにご飯茶わんをもって群がる。

「便利ですね、奈津希の魔法」

 これは風遊美さん。
 確かにこの時間で御飯を炊飯できるのは脅威だ。

「要は米のデンプンを、水と熱使ってアルファ化するだけさ。熱と圧力かけて無理やり米に水を染み込ませて、染み込んだら全体の温度を上げてアルファ化させる。最後に余った水分を温度を上げて飛ばせば完成」

 理論上はそうなのだが、多様な魔法を高い精度で使える奈津希さんだからこそ出来る技だ。
 少なくとも俺は、他でこんな魔法を聞いたことはない。
 その間にも飯に飢えた餓鬼どもが、白米と刺身を勢い良くかっ食らっている。

 そして……
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