機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第22章 臭い缶詰とチョコレートケーキ~冬の章・後編~

112 おまけ 対戦・グレムリン!~何を記念したのかわからない日に~

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「バレンタインデーに由来はあるけれど、ホワイトデーは知らないな」

「そもそもキリスト教圏に、ホワイトデーというイベントはない」

 春休み前のある日。
 俺とルイスはマンション8階の宮崎台家のキッチンで作業をしていた。

 なお宮崎台家は両親ともに魔技大の先生だ。
 魔技大は既に春休入り。
 両親ともに国際会議出席という名目の海外旅行中。
 なのでこの部屋は奈津季さんしかいない。

 同じマンションだけあって、部屋の作りもよく似ている。
 あの馬鹿でかい屋上が無くて、トイレが1箇所、ゲストルームが1部屋少ない程度の差だ。
 キッチンのレイアウトは全く同じ。
 なので俺としても使いやすい。

「それじゃあ修は今日は1人で作るんだな」

「ええ」

 小豆も砂糖もそれなりの物を用意したし、ホットケーキミックスもバターも卵も牛乳も用意済みだ。

「とりあえずこっちのコンロを借りて大丈夫ですか」

「ああ、僕たちは使わないからさ」

 という事で、俺は早速鍋に小豆と水を入れ、煮る作業にかかる。

 今回俺が作るのはどら焼き。
 勿論学園祭に創造製作y研が作るようなものではなく簡易版。
 あんこを作り小さめのホットケーキを2枚焼いてあんこを挟み込む。
 方法論さえ知っていればそれ程間違いは起こらない一品だ。

 なお俺は創造製作研の絶品あんこレシピも持っているが、今日は使わない。
『蓋をあけないまま80℃のお湯を鍋全体に差す』とか、特殊魔法持ちでないと参考にならないレシピだから。

 まずは小豆を煮る作業その1、通称渋抜きを開始。
 そして余った時間でホットケーキミックスを混ぜ合わせ、ちまちまとミニホットケーキを焼く。
 何せ20枚近く焼かなければならないので手返し良くやらなくては。
 ホットケーキ焼きながら小豆をザルで湯を切ったり、また煮たりと結構忙しい。

「うわあっ!」

 奈津希さんの悲鳴が聞こえた。
 そのままダッシュで洗面所へと走っていく。

「どうしました」

 ちょうどホットケーキを1毎焼き終わったところなので、状態を覗きにいく。

「僕は単なるフルーチェを作っていただけなんだ。それなのに」

 ルイスの証言。
 よく見ると、いちごのフルーチェに少し違和感のある赤色が混じっている。
 そして近くには、見覚えある骸骨マークの小瓶。

「犯人は判明した」

 俺は骸骨マークの赤色液体入りの忌まわしい瓶を、魔法で完全に封印する。

「これで犯人ももうこれは使えない」

「あーあ、死ぬかと思った」

 奈津季さんが洗面所から帰ってきた。
 甘いの大好きな代わりに、辛いものが極端に苦手なのだ。

「犯人は、やっぱり奴だよな」

「この瓶が証拠です」

 この瓶の持ち主を、俺達3人は知っている。

「それより修の方は大丈夫か」

 そう言われて、俺はあわててキッチンの自分の位置に戻る。
 既に5枚焼き終わっていたホットケーキが、全て姿を消していた。

「ホットケーキ5枚消失です。この犯行手口、間違いないですね」

 そう、鍵のかかった室内でも全く関係なく入ってきて、デスソースを使い、ホットケーキを食べていく。
 その正体は常に腹ペコな空間魔法使い、田奈詩織だ!

「しかし何故、こんな犯行を」

「暇だったのと腹が減ったので理由は十分だろ。詩織ちゃんあいつは特にここにいる3人なら多少の事は大目に見てくれると思っているようだし」

「その傾向は認めます。では、とりあえずこのフルーチェから混入物は除去します」

 今では俺も成分調整魔法とまでは行かなくとも、それに近い魔法は使える。

 逆にしおりちゃんもその事を知っているからこそ、この犯行に及んだのだろう。
 今回の目的はあくまで俺のホットケーキと見た。

「とりあえずグレムリンの出現には注意しよう」

 との事で調理再開。
 審査魔法で小豆の具合を見ながらホットケーキ焼きを再開する。

「これ以上減ると取り分を大幅に減らすからな」

 一応あらぬ方向に警告をしておく。
 そして念のため、ホットケーキのサイズを更に小さくしてミニドラサイズに。

 幸い、しばらくの間は何も無かった。
 しかし。

「!!!!!」

 ルイスがダッシュで洗面所へ。

 よく見ると作業用に横に置いていたコーヒーをこぼした跡がある。
 さらに審査魔法で見ると、コーヒーになぜかカプサイシンが。

「また出たな」

 奈津希さんの声。
 俺はミニホットケーキの方を意識しつつ。あえてルイスの方を心配する振りをする。

 そして、その時は訪れた。

「うわっ、うわうわうわうわあああ……」

 突然現れた小柄な影は、その場でくるくる回って倒れ込む。
 捕獲成功だ。

「何なんですかこの魔法はああああ。回りがくらくらする……」

「俺の対人魔法も進化しているんだ。悪いな」

 前に使った、運が悪ければ廃人になる『大脳特定部位電気刺激魔法』ではない。
 今回使ったのは、新たに開発した『三半規管濁流魔法』。
 短時間だが人の平衡感覚を無茶苦茶に狂わせる魔法だ。

 これならほんの少しの液体を動かすだけで成立するし、後遺症も無い。
 そして効果は短時間だが効果は絶大だ、
 特に空間魔法使いには。

 そして詩織ちゃんの手元からさっきと違う赤色液体の瓶が落ちる。

「ウルトラデスソースか。日本で販売していない危険物だ」

「せっかく手に入れたから、皆とわかちあいたかったのですよ」

 詩織ちゃんはまだ立ち上がれない。
 新魔法の効果は絶大なようだ。

 ちなみに俺が自分で試した時は、効果時間は約3分。
 それ以内に次の処理をする必要がある。

 俺は倒れたままの詩織ちゃんを抱える。
 そして、奈津希さんとルイス君の作業場になっているテーブルへ……

 30秒後、詩織ちゃんは足と左手を椅子に縛り付けられた。
 さらにその椅子は俺の魔法で、床とテーブルにきっちり固定。

 詩織ちゃんは空間魔法を発動する際、両足か両手で移動のための反動をかける。
 いざという時には重力を使って、落ちる勢いで空間魔法を発動するのも可能だ。
 でもこの固定措置により、詩織ちゃんは魔法で移動をする事が出来ない。

 詩織ちゃんの目の前には、特製ミニどら焼きと特製パフェ。
 箸とフォークとウエットティッシュ、そして武士の情けの炭酸水入りコップも置かれている。
 スイーツがほんの少しどこか赤くて異臭もするのはきっと気のせいだ。
 そしてただ1つ自由になる右手。

「とりあえず、全部食べたら自由にしてやる。特別メニューだから残すなよ」

 大丈夫、全体のカプサイシン量は致死量よりはるかに少ない。
 それ位は俺の魔法で調節してある。

「うえーん修先輩酷いです。ルイス助けてくれなのです」

「残念だが、今回は自業自得だ」

 奈津希さんもルイス君の言葉に大きく頷く。

「炭酸水だけは足りなくなったら追加してやるよ。という訳で皆でわかちあう前に、まずは自分で試食してみような」

 という訳で、俺達はそれぞれ自分の作業に戻る。
 時々ジタバタして何か液体をがぶ飲みしむせる音がするようだが気にしない。
 次の措置は俺達の調理が完成するか、試食が終了するまで待つことにしよう。

 という訳で、俺達は心置きなくスイーツ作りを続ける。
 時折妙な音をBGMにしながら。
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