神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀

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第13話 海向こうからの侵略⑵

56 問題外との対面

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 ハヤシマの北岸、元々は砂浜だったところに、巨大な崖が出来ている。
 山を何も考えずに1km程度の幅で切り取って、島とビシューの間の海に放り込んだという感じだ。

 下の凹凸等を考えずにただ出しているので、所々で変型したり崩れたりしている。
 せっかくのきれいな砂浜が台無しだ。
 元は港だった場所も、山の下敷きになっている。
 先程住民を避難させたのは正解だったようだ。

「切り離しますか」

「いや、私がやろう」

 深さが3m程度しか無い海が、一気に波打った。
 10m近い高さの波が巻き起こり、島とアキヅシマの境に打ち付ける。
 アキヅシマと今回出た山との境にある、一番低い部分が波にのまれた。
 同時に波の下がぐっとえぐれ、海となる。

 波が消え、海が穏やかになった。
 ただし今回波に削られた場所は、そこそこ海流がある。
 タケヒカタ島からここまで繋がった影響で、他を流れる筈だった海水が押し寄せているのだろう。
 西側から東側へ、川の下流くらいの速さで流れている。
 
「それでは警告をしておこうか」

 キンビーラはそう小声でつぶやいた後、 背筋を伸ばして、東北東を向いて、口を開いた

「ビシューの土地神、モ・トーに告ぐ。我はセート領域の沿海神、キンビーラである。何をもって海を侵そうとするのか、答えて貰おう」

 神が出現する気配はない。返答もない。
 キンビーラはふっとため息をついた。

「返答がないなら、こちらはこちらで手をうたせてもらおう。交易船はビシューから撤退させる。それでも返答がなく侵略の試みを続けるのなら、海岸側から2里8km以内の住民を山側へ避難させた方がいい。先ほど起こした以上の高波でもって、陸を削らせて貰う」

 そうなると土地神は、沿海神に勝ち目はない気がする。
 しかも海運を止めるとなると、今までの会話と説明からみて、影響が大きくなるだろう。
 ここで出てこなければ、マイナスが増えるだけだ。

 さて、どうなるか。
 予想通り対岸に神力が集まり、人型となった。
 こちらを見て姿を消し、そして私とキンビーラの前に出現する。

「私がビシューの土地神、モ・トー。セート海域の神に謝罪と、そして苦情を申し立てに来た」

 おっと、謝罪だけでなく苦情をも入れるのか。どういうつもりだろう。
 まあセート海域の神、つまりキンビーラ宛てだから、私は何も言わないけれども。

 なおモ・トーは金髪イケメンだが、癖がなさすぎる顔という気がする。
 だから私の好みとは微妙にあわない。今の状況とは関係ないけれど。

「苦情か。どのような苦情か、聞いておこう」

「何故この周辺の島を、最も近い領域の土地神である我ではなく、ケカハの土地神のものとした。ここはビシューの地とするのが適切であろう」

 あ、駄目だこの神。少なくとも私は、この時点でそう判断した。
 物事の順序が間違っている。そうなったのが自分の行動のせいだという事を、全く気づいていないか忘れているか。

「ならビシューの土地神に尋ねる。最初にムコーヤマ島、アルキ島、アマキダイ島、そしてタケヒカタ島までを沿海神である私に相談無く埋め立て、自分の領地にしようとしたのは誰なのか。答えよ」

「ハヤシマは元々ビシューの領地だ。それをケカハへ譲り渡したのはどう考えてもおかしい」

「物事の順序を考えよ。先に我が領域である島々を侵略したのはビシューだ。ならばそちらを信じるという選択肢が無いのは自明。ここは謙虚に非を認めて引き下がるべきであろう」

 神は自分に非があり、かつ状況的に不利であったとしても、引き下がらないものなのだろうか。
 それともモ・トーこいつとナハルが馬鹿なだけだろうか。
 そんな事を考えつつ、私は傍観者に徹している。

「我はウチツクニの土地神にしてアキヅシマの盟主、タケヤ様から西の攻めと守りを仰せつかった。なら陸路の他、セート海域を監視するのは我が任務。故にタケヒカタまでの島を治めるのは当然のこと」

 背後関係らしい、怪しいけれど知らない単語が出てきた。
 ここは全知の解説が必要だ。

『ウチツクニとは、元々はワシュー、サンシュー、カシュー、センシュー、セッシューの5つの領域を示す言葉です。そしてタケヤはサンシューの東側にあるゴーシューに20年前に着任した新たな土地神でした。
 そのタケヤが、天候不順で食糧不足に悩むサンシューの土地神ダトをだましてサンシューを乗っ取った後、ゴーシューに隣接する湖アフミの湖神ヤームと手を組み、洪水による攻撃でウチツクニの残り4領域を奪取。ウチツクニ全域を支配し、ゴーシューとともにウチツクニの土地神となりました』

 琵琶湖の水で下流の淀川流域一帯を攻めた、という感じの図面が、全知により脳裏に展開される。

『これらウチツクニは、アキヅシマの既知領域のほぼ中心部にあたります。それを根拠としてタケヤは、アキヅシマの盟主を自称し、周囲を更に侵略していったのです』

 なるほど。
 そしてこのモ・トーは、タケヤの先兵という訳か。

『モ・トーはタケヤの元へ下ることによって領地を保全する事を選びました。現在は元々の領地より更に領地を西へと広げ、西のゲーシューおよび北のハクシューへの侵略を進めているところです』

 なるほど、安直に考えれば悪の手先というところか。
 だが現状を変える存在が必ずしも悪だとは限らない。
 洪水で攻めたタケヤなんてのは論外だろうけれど、モ・トーの場合はどんな感じなのだろう。

『タケヤから与えられた神器で山を崩し谷を埋め、元からの住民を全滅させた後、自らの信徒で占領するという方法をとっています』

 やり方はもう、完全なる悪だ。
 でも自領の住民に対してはどうなのだろうか。

『信徒となることを強制し、容赦なく徴兵しては占領部隊として送り出すので、嫌悪されています。また派兵に必要な食料等を得るため、税率が他領、例えばゲーシューやセキテツ等と比べるとかなり高く、収穫高等の6割近くとなっていることも嫌悪される理由のひとつです』

 ここまで悪役ですというのも、何というか珍しい気がする。
 もう滅ぼした方がいいんじゃないかというレベルだ。
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