異世界まではあと何日

於田縫紀

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第3章 賽を思い切り投げられる?

第12話 簡素で怪しい異世界言語

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 魔法は向こうでもある程度勉強や訓練ができる。
 しかし言語は端末が使える地球側でないと対面訓練が出来ない。
 だから優先すべき言語から勉強を開始しよう。
 どうせ後で魔法も勉強するのだろうけれども。

 タブレットでポチポチ選択し、言語のお勉強開始だ。

『まずはアルファベットをおぼえましょう』

 どれどれと見た瞬間なんだこれはと思う。
 アルファベットが全部で11個しかない。
 大文字と小文字の違いなんてのも無い。
 記述に使う記号も5つだけ。
 発音の数もかなり少ない模様。

 記述方法はローマ字と同じで母音+子音の2文字。
 母音がローマ字でいうところのaiueoの5個で、これの上に~に似た記号をつけるとそれぞれ音を伸ばす長音となる。

 子音もローマ字的に言うとktnhplだけ。
 つまりア行、カ行、ナ行、ハ行、パ行、ラ行しかない。
 あとは日本語の『っ』に対応する記号。
 んはローマ字で表記するとnnとなる。
 
 そしてどんな音も必ずアルファベット2文字で表示するという規則がある。
 ア行はローマ字でいうところのaを頭につける。
 例えばローマ字になおすとアならaa、イならaiという感じに。

 これ、自然言語にしてはあまりにも簡素で、かつ機械的すぎないかと思う。
 というか人工言語臭い。

 それでも発音と表記が完全一致で、かつ例外がないというのはいい事だ。
 無茶苦茶おぼえ易い。
 その分同音異義語が増えるかもしれないけれど。

 そんな訳でまずはアルファベット11個を真面目に覚える。
 本当はノートに書いたりした方がいいのだろう。しかし私はベッドから動けないので空中で形をなぞるという方法で身体におぼえさせる。

 うん、とりあえずおぼえた気がする。
 念の為このページの発音一覧を画面コピーして保存。
 そして次のページへ。
 うんうん、読めるぞ、私にも。

 そして次は人称代名詞で……

 ◇◇◇

 恐ろしや、惑星オース共通語。
 想像以上に簡単な言語だ。
 アルファベットや発音の少なさだけではない。
 人称代名詞も英語で言うところのI、We、You、Theyの3つのみ。
 男女別なしで、かつ自分以外は単数形複数形関係なし。
 更に所有格はなく、人称代名詞に副詞をつけて代用。

 絶対これ、使いやすさよりおぼえやすさ重視で作った人工の言語だろう。
 現地に行けば地方なり国なりでローカライズされている可能性が高い。
 覚えやすさ重視のあまり不便な点も多そうだから。

 しかしこれなら1ヶ月でマスターできるというのも頷ける。
 明日も頑張って進めよう。
 ちなみに今日だけで2日分進んだ。
 全部で30日分なので、この進み方だとあと15日でマスターだ。
 勿論そう順調に全てがうまく行くとは思えないけれど。

 さて、次は魔法を勉強するぞ。
 そう思ったのだが時刻表示を見ると午後10時。
 義務として夕食を食べるべき時間だろう。
 食欲はないが固形栄養食をアイソトニック飲料で流し込む作業を実施。

 この固形栄養食の箱や空いたペットボトルもいつか片づけないとな。
 退職手続きまで代行してくれる事務局もゴミの片づけはしないだろう。
 自分でやれと言われそうだ。
 でも今の私にはゴミ出しは無理。
 自治体指定のごみ袋を買う所からやる必要があるし。

 うん、もう少し今の状態からよくなったらやる事にしよう。
 この移住計画のおかげでかなり精神状態は良くなったと思う。
 今の調子なら少し経てばコンビニくらい行けるようになるだろう。

 そう言えばゴミは何曜日に出すんだっけ。
 検索窓から市役所のWebページへ飛んで確認。
 ペットボトルの次の回収日は再来週の水曜日だ。
 目指せ、その日までにゴミ出しが出来る事を。
 でも今の調子なら本当にそれくらい出来そうな気がする。

 さて、それではいよいよ魔法の勉強だ。
 これが終わったら時間を見て、余裕があればもう一度言語の勉強の復習をしよう。
 反復が学習効率を上げるのだ。
 なんて受験勉強の時に聞いた気がするし。

 あ、でもその前に少し気分転換しようかな。
 かなりみっちり言語の勉強をしたし。
 それに勉強以外にもやる事がある。
 新生活に向けた物品の買い出し作業だ。

 自分の貯金は全額向こうのお金に交換する事が可能。
 だから新規購入はキャンペーンの100万円を目安にして、購入したいものを考えてみよう。

 そう言えば今の持ち物も持ち込めるんだよなと思い出す。
 その辺の重さも確認しないとならない。
 そういった持ち込むものの申請はどうなっているのだろう。
 確か重量制限があった筈だ。
 Webサイトを移動して確認。

 表計算ソフトのワークシートに似た表があった。
 これに入力すると金額や重さを計算してくれるようだ。

 項目をすべて自分で調べて手打ちする必要は無い。
 スマホ用のソフトで現物やカタログ、Webページを撮影または画面コピー、あるいはサイトアドレスを入力すれば名称と重さを自動入力してくれる模様だ。

 自分の持ち物なら価格0円で計算。
 通販サイトの場合はデータを入力後、購入するか選べるとの事。

 スマホ用のソフトは体力トレーニングと同じものだ。
 既にスマホにもインストール済み。
 タブレットからスマホに持ち替えソフトを起動。
『所有・購入物品の読み込み・撮影』ボタンを押す。

 その後いくつかボタンを選ぶと撮影モードになった。
 試しに机代わりに使っているダイニングテーブルを撮影。
『持ち物リストへ転送』というボタンを押す。 

『画像から重量データを検索しています。しばらくお待ちください』

 そんな表示が出た後、10秒くらいで『データ転送完了しました』表示になった。

 タブレットの方の画面を見る。
『ダイニングテーブル4人用 ニ●リ 個数1 0円 14.9kg』

 これは便利だ。
 写真1枚だけで必要データが全て入力されている。
 確かにこのテーブル、ニ●リの商品だ。
 オークションサイトで中古で購入したものだけれども。

 これはどういう仕組みだろう。
 画像で類似の商品を検索して入力するのだろうか。
 何にせよなかなか便利で宜しい。

 なら購入希望のものをWebで探してみるとしよう。
 まずは家だな。
 大型犬くらいの爬虫類ならシャットアウト出来るくらいの、テントとは違うハードシェルな屋根と壁のある家。

 設備的にはキャンピングカーが何でも揃っていていいだろうか。
 それともトレーラーハウスかな。
 私は検索を開始した。
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