【三森蓮】役割:友達・獲物・??

真幸

文字の大きさ
2 / 2

今日は友達!

しおりを挟む
「……なあ」
「ん? なに」
「練習って、こういう話だったっけ……?」

 練習って言ってた。俺は了承してねェけど、ミチカの中でそういうことになったらそうなんだ、それはもう、覚悟してた。けどこう、こんなにも、ガッツリ腕組むかね?!

 五月のキャンパスはもう初夏の空気で、昼間は半袖でも過ごせるくらいだ。今日は午前の講義が終わって昼休み、学食でミチカと一緒に座っている。いや、座らされている。なぜなら、俺の右腕がミチカの体に埋もれているから。黒の薄手パーカーの袖越しに、やけにしっとりした柔らかい感触が直に伝わってくる。細くて薄いくせに、なんで柔いんだ。ぴったりと密着したまま、ミチカは弁当箱を広げて箸を動かしている。

「やっぱさ、距離近くね?」

 控えめに訊いてみると、ミチカは涼しい顔で振り向いた。耳の先がほんのり赤い。日焼け跡だ。薄く笑った。

「そういう気分、って言ったじゃん」

 それで通る愛嬌があるから憎い。実際、通ってしまっている。周囲からはちらちらと視線が飛んでくる。友達数人に見つかった時には、当然のように茶化された。

「おーおーミチカ、彼氏か?」「あれ? そういう仲だっけ?」

 冗談混じりに言われて、反論する暇もなく。

「んー? いま友達だよ? でも、まあ仲はいいかもね」

 ミチカはそんな返事をして、俺の腕をきゅっと引き寄せた。やめてくれマジで。これは勃つとかそういう話じゃない、純粋に誤解を生んでいる。

 なんで平然としてんだよ。俺は心拍数上がりっぱなしだってのに。昼休み中ずっとこの状態でいろってか。だんだん指先に力が入らなくなってきた。肩も凝ってきたし、どう考えても不自然な距離感だろ。

「ミチカ……そろそろ離しても……」
「だめ」
「なんでだよ」
「慣れるまで。もっと密着するの、抵抗なくなるように、だって言ったじゃん」
「俺は言ってねぇ」

 言ったのはお前のほうだ。しかも、俺が同意した覚えはない。けど無理やり腕を引き抜くのは、それこそ余計に目立ちそうで、できなかった。もう、いつまで続くんだこの練習……。

 箸で枝豆と格闘しながら、ミチカはさらっと言う。

「次は手も繋いで帰ろっか」
「……は?」
「なに、おれと手繋ぐの嫌なの? 吸血はいいのに?」

 悪びれもなくそんなことを言うミチカに、喉の奥が詰まった。言い返そうとしても、上手い言葉が出てこない。だって、そう言われたらぐうの音も出ねぇじゃんか。吸血は……まあ、そう、許してる。いや許してるっていうか、必要だから、仕方なく。これはもう事故みたいなもんで、感情の問題じゃなくて理屈だ……たぶん。

「ち、ちげーよ……」
「じゃあ、繋ご?」
「……ぅ」

 じりっと距離を詰めてくるミチカ。これ以上近づいたらめり込むって。こいつ、ホント遠慮ねぇな。しかもさっきの茶化しを聞いてた友達連中がまだ視界の端にいて、明らかに面白がってる。無理、無理だって。

「ミチカ、今日はやめとこ、な?」
「えー、ダメ。練習だから」
「っ、そ、それはお前が勝手に決めた……」
「三森が逃げるのが悪い」

 にこ、と笑って、もう俺の手首を細い指が捕まえている。爪が短くてきれいな、白い手だ。ほんとに容赦ない。

「ほら、ギュって」

 握らされた。掌がひやっとして、それからじんわりと温度が移ってくる。心臓がまた変な音立て始めて、どうしたらいいかわかんねぇ。そりゃ、嫌なわけじゃないけど、そういうんじゃねぇし……けど、ミチカはほんのり得意げな顔で、指を絡めてきた。思ったよりもがっつり絡めてくる。おい、そこまでやるか?

「……あー……ばか、ホントばか」
「ん。いい感じいい感じ」
「もう黙って飯食えよ」

 呆れと困惑と、それからほんのすこし、逃げなかったことに負けた気分で。繋いだまま待つしかなかった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スレイ
2025.06.18 スレイ

吸血鬼めちゃ好きなので更新待ってます

解除

あなたにおすすめの小説

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。