王のはばたき

薄龍

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王の翼

トムラの伝説

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 今から120年程前のこと、トムラという王国に突然空から龍が落ちてきた。龍は国の中心にあるハカール広場の屋台を押しつぶし、砂埃の中で呻き声を上げながら倒れていた。人々が恐る恐る近づくと口から炎を吹き出し威嚇した。人々は龍の威嚇に腰を抜かしその場にへたり込みまるで魂が抜けたように微動だとしなかった。ところが、ある少年が人垣をかき分け龍の目の前へと進んで行った。龍はその少年に今まで以上に激しく威嚇したが、少年は細い体で熱風を受けながらもさらに前へと進んで行った。そして、龍の威嚇に臆することなく龍の目の前へと行くとどこか悲しみを含めた顔で「痛かっただろう。でも、もう大丈夫だよ。安心しておやすみ。」と言った。すると、今まで何かに怯えていたように激しく威嚇していた龍が糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちて眠った。 王は龍が国に落ちてきたことと、現状を知ると、王の手足であるシキと呼ばれる近衛兵を集めた。シキとはこの国で色のことを指す。シキは東を守るスイ(緑)・西を守るコク(黒)・南を守るソウ(青)・北を守るオウ(黄)と4つに分かれており、それぞれの棟梁にはシキの交代の儀式で自身の名に自身が守っている色の名がつく。王の名は代々セキ(赤)がつく名が与えられた。2代目である王、セキハはシキにこう言ったと言われる。「我々の国は今までに例を見ない大飢饉に会い苦しんでいる。だが、この国にいるものは人も動物も龍であっても皆家族だ。家族が苦しんでいるのに黙って見ておれようか。シキに告ぐ...今すぐ我直属の医師を連れて龍の元へ行け。そして、龍が安心して過ごせれる宮を至急ハカール広場に立てよ。また、龍が屋台を押しつぶしたことで皆混乱していることだろう。我の食糧庫からありったけの日持ちのするものを作り皆に配れ。」と。ここまで民に寄り添ってくれる王がトムラ以外の国にいるだろうか、シキはすぐに王に告げられたとうりに動きそれから半年後龍は傷ひとつない美しい姿に戻った。だが、トムラを襲った大飢饉はまだ猛威を振るっており、国には疫病が流行人々が次々と亡くなっていった。セキハの弟セトも流行り病にかかりベットで寝たきりが続き、龍に臆さなかったあの少年も皇子と同じ病にかかっていた。それを知った人々は龍の宮に行き宮の前でひれ伏し、涙で顔を歪ませ地面に額をこすりつけながら懇願した。それでも龍は何も言わず人々が懇願している姿をまるで不思議な光景を見るかのように見続けた。しばらくして、一人の男が立ち言った。「もし、セト様とソーマが助かるなら私たちの持っている食料を全てあなた様に渡します。それでも、もし、満たされないとき時は....私を....私を食べてくださいませ。お気に召さないかもしれませんが、それでもセト様とソーマが助かるのならこの命など惜しくはないです。」男が涙が出るのをこらえながら顔を真っ赤にして言うのを聞いた龍は驚いた。(人はこんなにも脆いのに人の命はこんなにも美しいのか)と、龍は人々の思いに涙を流し、その思いに応えようと人々に尽くしてもらったお礼として贈り物をした。
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