愛づ人の忘れ形見

anly

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壱 ー再会ー

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ー柳の左大臣様はなんと見目麗しいことでしょうー


ーこれに文、武も極めておられるのだから非の打ち所がないー


ー政にも長けておられ、お上も大層気に入っておられるー




はぁ.....

今宵も遅くなってしまった....

左大臣になってからは、目まぐるしい日々が続き心労が重なる....




小助「柳様?....柳様?いかがなさったのです?」

柳「.....!?っ」

小助「お顔が大層お疲れのようで、屋敷に戻りましたら何か用意させましょうか」

柳「あぁ.....頼む」

小助「しかとー。」


柳をのせ屋敷へ戻る牛車ー。

その牛車の行く手を遮るように1人の女が通る


小助「危ないではないか!誰の牛車と心得る」


外が騒がしい....なんだ?何かいるのか?


柳「小助、どうした。何かあったのか」

小助「柳様、申し訳ございません...我々の行く手を阻むように女が通りまして...」

柳「女?こんな夜中に道に迷いでもしたのか」

女「.......っ!!」

柳「ん?そなた....あお....い...?」

女「は....っ」


女は咄嗟に顔を隠しその場から逃げようとする


柳「小助!!」

小助「はっ」

女「痛っ......」


逃げられるはずもなく、女は小助に強く腕を掴まれその場に立ちすくんでいた。


柳「小助、すまぬが少し控えてはくれぬか?」

小助「ですが柳様に万が一の事でもあれば...!」

柳「案ずるな、私は幼子ではない」

小助「かしこまりました」

柳「礼を言う」


小助は女から手を離し、牛車に戻る

小刻みに震え、目を潤ませながらこちらを見ていたー。

身なりはみすぼらしいが、月夜に照らされ顕になったその姿は紛れもなく(葵)だった


柳「葵...なのか?」

葵「柳の君.....」

柳「久しいな....そなたがお父上と共に京を去って以来....10年は経つか」

葵「さようでございます....」

柳「なぜこのような所におるのだ?」

葵「父上と共に京の離れで暮らしておりましたが、その父を亡くし身一つで京に参ったのです」

柳「!?なんと....そのようなことが....」

葵「.....」

柳「.....そなたの叔母上は....二条の御息所は....」

葵「没落公家になったわたくしに目をかけてくださる方はおりません」

柳「では、どうするつもりだ」

葵「官女として働くつもりです」

柳「官女...?そなたが人の下に仕えるのか?」

葵「.....ではわたくしは参ります。道中お気をつけ遊ばせ」  

柳「葵っ....!」


葵はその場を逃げるように去り、名を呼ぶ私の声に振り返りもしなかったー。


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