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第二話
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「まったく! 母さんはいつもそうだ、僕が女だからとか、必要性がないからとか、それっぽい理由でいつもいつも‼︎」
穏やかな森道とは裏腹に僕の内心は荒々しく乱れていた。家でのやり取りから三十分は経ったはずだが、未だにこの苛立ちは収まる気配がなく、そこらへんにあった小石に苛立ちを蹴りつけ続けていた。
「そもそも! 昔っから母さんが、冒険譚や自分の旅のことを聞かせてきたくせに、いつの間にか旅に出ちゃダメ! とか言い出して……」
そう文句を言いながら気づけば見慣れた場所まで来ていた。平らな地面に邪魔になる木が無い、森にぽっかり空いた穴の様なこの場所は、剣術の訓練にはちょうど良く、母さんの目を盗んでは、よくこの場所まできている。
「ふぅ……勢いで出てきちゃって、服装は少しだけ動きづらいけど……」
僕は近くの木に籠を置いてから、腰のベルトに差した木剣を抜くと、素振りを始めた。村の自警団の訓練に時折混ぜてもらい、基本的な剣の振り方は学んでいる。一応家にあった剣術の指南書を読んで技なども使えるが、母さんにバレて一冊燃やされてしまった為、完全に習得する事は出来なかった……まあ、魔力を使って身体能力を上げておけば、問題なく戦えるのでいいのだが。
「ふっ!ふっ!ふっ!」
始めの頃は、剣に振られないように必死に集中していたが、さすがに五年も振っていれば、手に馴染むものだ。
「なかなか良い剣筋じゃないか」
と、背後から声をかけられる。目線をやるとそこには、腕を組みながら木に寄り掛かるスカーレットの姿があった。
「スカーレット……僕を連れ戻しに来たの?」
僕は木剣を振るのを止めて向き直る。
「いや、言っただろ? 薬草取りを手伝うと……しかし、見る限り薬草は取っていない様だが──」
「ねぇスカーレット」
僕は話しを遮ると、もう一本の木剣を彼女の目の前に投げた。
「ん? どうした、そんな闘争心剥き出しにして」
「僕と勝負しない?」
(目の前には母さんも知っている、経験豊富な旅人……この人に認めて貰えば、母さんの固い首も縦に振ってくれる筈。そうでなくても、今の自分の実力を把握するのにはもってこいだ)
「……分かった」
何かを察してくれた彼女は、地面に転がる木剣を取った。
「うん、ありがとう……」
彼女が木剣を取り終えたのを確認し、僕は剣を構える。しかし、彼女は拾った木剣を器用に回しながら、一行に構える気配が無い。
(むっ……舐められてるのかな)
「どうした? 早く斬りかかってこい」
「じゃあ……遠慮なくっ!」
僕は地面を力強く蹴り、彼女との距離を詰める。間合いに入る直前でも彼女は構えない。
「でやぁあああ!」
僕は叫びながら足元から木剣を斬りあげる。
「ふんっ」
しかし、彼女は迎え撃つ事なく僕の左手側にヒラリと身をかわす。
「ふむ、私との身長を活かして上段からでは無く、死角からの下段か」
「まだまだっ!」
今度は身を反転してからの横切り。
「ふむ」
しかし、彼女は飛び上がりそれもかわす。だが、油断して飛んだら最後──
「くっ!」
僕は横に流れる体を止めて、反対に斬り返す。
(着地する瞬間隙が生まれる、これで終わり!)
着地で体勢が整っていない彼女目掛けて、僕の木剣が襲いかかる──だが
カンッ! と軽い音と共に、僕の攻撃は容易く受け止められてしまう。
「ほう?あの体勢から良く切り返したものだ、見た目以上に動ける様だな」
「ッ!」
スカーレットは余裕の表情でそう呟くと、僕を木剣ごと押し飛ばして距離をとる。
「こんなに早く剣を抜かされるとは、思わなかったな……では、今度は私から行くぞ!」
そう言ったスカーレットは、一歩踏み出したかと思えば、一瞬で目の前まで間合いを詰めてきた。
(え、はやっ!)
「ふんl」
間合いを詰めたスカーレットは、容赦なく剣を振り下ろしてきた。僕はそれをギリギリで受け止めるが、女性とは思えないほどの力で振り切られてしまう。
「うっ!」
攻撃を受けた僕は、体勢を崩しつつも、何とか踏ん張り彼女に向き直るが、既に彼女のニ撃目は、目の前に差し迫っていた。とっさに僕は地面を転がり距離を取る。
「良い判断だ、無理に受け止めようとしなら、顔面に入っていたな」
「それはどうも」
「だが、その細腕で私と打ち合うのは、些か無謀なんじゃ無いか? 既に魔力で身体能力を上げているようだが、その程度では私に一撃を入れることは出来ないぞ」
スカーレットは僕に、煽り気味にそう言って来る。
「まだまだ本気出してないだけだよ」
「そうか? なら!」
スカーレットの攻撃が再び襲い来る。次々に繰り出される剣撃を何とか凌いでいるが、一撃一撃が重く、木剣を握る力が徐々に弱まっていく。
「どうした? まだ本気を出さないのかっ!」
「ッ!」
とうとう力が緩んでしまった僕の木剣を、スカーレットに弾き飛ばされてしまう。飛ばされた木剣は、背後で音を立てて転がり、眼前にはスカーレットの木剣が突き出されていた。僕は肩で息をしながら、自身に向けられる切先を見て息を呑む。
「基礎もしっかり身につき体幹も鍛えている……しかし、まだ動きが稚拙だな、まぁこればかりは経験を積まないと──」
(ハァ、ハァ、ハァ……強い、全然歯が立たない……でも!)
スカーレットの声が遠くなり、意識がぼやける感覚……しかし、聴覚以外の感覚が鋭敏になっているのが分かる……
「さて、どうする? まだ続け……おい、何をやっているんだ?」
僕は邪魔なロングスカートを荒々しく破った。森に吹く風に、籠っていた熱気が吹き飛ばされ、窮屈だった足元が開放感に包まれる。
僕は一呼吸置いてから、転がった木剣を取ると、もう一度スカーレットに向かって構えた。
「もう一回、今度こそ本気で行くから……」
「……分かった」
僕の言葉に頷いたスカーレットは、最初とは違い、今度はしっかりと木剣を構えた。
(動きやすくしたからかな……なんかいつもより、自分の魔力がはっきりとわかる気がする……)
僕は人身の魔力を、全身に巡らせ高めた。徐々に自身の体が軽くなるのを感じ始め、気付けばこのまま浮き上がってしまうのでは、と思うまでに達したとき──
「フッ!」
僕は靴が地面にめり込む程の強い一歩を踏み出し、高速でスカーレットとの間合いを詰めると、彼女に鋭い斬撃を浴びせる。
「くっ!」
ガンッ! と軽い木剣から出たとは思えない、重い音を響かせ、僕達は鍔迫り合いの状態になる。今度は力負けすることは無かった。
「ほう? もっと早く動けるんだな。それに力も上がっている……魔力量と出力は申し分ない。これは私も少し本気を出すか」
鍔迫り合いの中、彼女は力んだ様子でそう言うと、後方へ飛び退いて僕との距離を取った。
すかさず僕は追撃……しかし、そう簡単にはいかず、何度も振りかざす僕の全力の剣を、往なし弾き返して、器用に処理されてしまう。
「はぁあああ!」
「ふふ、剣筋は先程より荒いな……まだ動きに慣れていないのか──」
「ふん!」
「ッ!」
攻防の最中に喋る彼女の隙を突いて、僕は回し蹴りをお見舞いした……が──
「足癖が悪いな」
僕の蹴りは、彼女の左腕に止められてしまう。しかし僕は、更にそこから体を捻り、空中で回し蹴りを二、三発繰り出す。
「うお!」
僕の予想外の攻撃に、スカーレットは少し驚いた表情を見せたがすぐに対処され、距離を取られてしまう。
「今のは入ったと思ったんだけど……」
「惜しかったな、少しヒヤッとしたぞ」
「それならもっと動揺してほしいなっ!」
僕が再び彼女に攻撃を仕掛けると、今度は彼女も動き出し迎え撃ってきた。お互いの間合いまで迫ると、激しい音を立てながら攻防を繰り広げる。彼女の鋭い剣閃が次々襲い掛かり、視覚の処理速度が限界を超えそうになる。
(これじゃ足りない……もっと早く、もっと強い攻撃じゃ無いと……くっ!)
早くなる鼓動に引き上げられるように、体の熱量が湧き上がる。柄を握る手に力が入ると共に刀身が淡く光りだす。
「なっ!」
光だした剣に対してか、攻撃の激しさが増したせいか、スカーレットが目を見開いて驚く。瞬間、僅かに隙が生まれると、僕は鋭く彼女に切り込んだ。
(いけるっ!)
僕の木剣がスカーレットの脇腹に入りかけたその時──
「……ふん!」
「熱っ!」
突如スカーレットの体から、激しい熱が放出されたかと思うと、僕の木剣があと少しの所で弾かれてしまう。
(これは魔力っ!)
剣を弾かれた僕は、大きく体勢を崩してしまう。スカーレットは僕のガラ空きになった腹に、容赦なく回し蹴りを喰らわした。
「グハッ!」
無防備な腹に入った重い一撃で、僕は数メートル後方に蹴り飛ばされると、土埃を上げながら地面に激しく転げ倒した。
「うっうぅ……」
あまりの衝撃に僕は、体を痙攣させながら少しの間動けないでいた。
「あっ! 大丈夫か!」
慌てたスカーレットが僕に駆け寄り声をかける。
「すまない、少々本気で蹴ってしま──」
「ふっ……ふふふ」
「ん? 大丈夫か?」
「あははは!」
僕はゴロンと仰向けになると、心配するスカーレットをよそに大きな笑い声をあげた。
「はぁあ……強いなぁ~、これが現役の冒険者か……」
「その様子なら心配なさそうだな」
そう言ってスカーレットは、寝そべる僕に手を差し伸べる。その手を握り返した僕は、引き上げられるように立つ上がると、服についた土をはたき落とした。
「それより、先程の一撃は驚いたな……私もつい力が入ってしまった」
スカーレットは僕をまじまじと見てそう言った。
「ん? 先程の一撃って……あぁ、光魔法のこと?」
「光魔法…だと?」
スカーレットは僕の言葉に首を傾げる。
「うん、母さんに教えてもらったんだ。確か闇魔法の対になる属性だよね、神聖な白き光は闇を打ち払う~、的な文献もあったりするし。そんなに珍しい?」
僕の問いにスカーレットは、少し考える素振りを見せる。
「それは……オーリスがそう言ってたのか?」
「まぁ母さんに教えて貰ったし……何か変な所あった?」
「……いや、何でもない」
自分の中で納得したのか、そう呟きながら含みのある様子で静かに頷いた。
(ん~? なんかモヤモヤする言い方するな)
「それより、服がボロボロだが良いのか? オーリスには、剣の特訓をしていることは、内緒にしているのだろう?」
「……まぁ、大丈夫だと思う。良く服を汚して帰ってるから。それより、早く薬草を探さないと……収穫無しで帰ったら、それこそ怒られそうだし」
「そう言えば、何の薬草を取りに来たんだ?」
そそくさと籠を背負う僕に、スカーレットは聞いてきた。
「今日は《セイシツソウ》と《キヨメゴケ》かな、あとは適当に目に付いた物とか、食べれる植物、キノコとかあればそれも欲しいかな」
「それは薬草採取と呼べるのか?」
「村の外では違うの? 僕達はいつもこんな感じだけど。それより、もう少し先に行った所に、良い感じの採取場所があるんだよ。早く行こう」
そう言って僕は森の奥へと歩き始める。
「少し休まなくても大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
「……逞しいものだな」
スカーレットはそう呟きながら、僕の後ろを静かについて来るのだった。
穏やかな森道とは裏腹に僕の内心は荒々しく乱れていた。家でのやり取りから三十分は経ったはずだが、未だにこの苛立ちは収まる気配がなく、そこらへんにあった小石に苛立ちを蹴りつけ続けていた。
「そもそも! 昔っから母さんが、冒険譚や自分の旅のことを聞かせてきたくせに、いつの間にか旅に出ちゃダメ! とか言い出して……」
そう文句を言いながら気づけば見慣れた場所まで来ていた。平らな地面に邪魔になる木が無い、森にぽっかり空いた穴の様なこの場所は、剣術の訓練にはちょうど良く、母さんの目を盗んでは、よくこの場所まできている。
「ふぅ……勢いで出てきちゃって、服装は少しだけ動きづらいけど……」
僕は近くの木に籠を置いてから、腰のベルトに差した木剣を抜くと、素振りを始めた。村の自警団の訓練に時折混ぜてもらい、基本的な剣の振り方は学んでいる。一応家にあった剣術の指南書を読んで技なども使えるが、母さんにバレて一冊燃やされてしまった為、完全に習得する事は出来なかった……まあ、魔力を使って身体能力を上げておけば、問題なく戦えるのでいいのだが。
「ふっ!ふっ!ふっ!」
始めの頃は、剣に振られないように必死に集中していたが、さすがに五年も振っていれば、手に馴染むものだ。
「なかなか良い剣筋じゃないか」
と、背後から声をかけられる。目線をやるとそこには、腕を組みながら木に寄り掛かるスカーレットの姿があった。
「スカーレット……僕を連れ戻しに来たの?」
僕は木剣を振るのを止めて向き直る。
「いや、言っただろ? 薬草取りを手伝うと……しかし、見る限り薬草は取っていない様だが──」
「ねぇスカーレット」
僕は話しを遮ると、もう一本の木剣を彼女の目の前に投げた。
「ん? どうした、そんな闘争心剥き出しにして」
「僕と勝負しない?」
(目の前には母さんも知っている、経験豊富な旅人……この人に認めて貰えば、母さんの固い首も縦に振ってくれる筈。そうでなくても、今の自分の実力を把握するのにはもってこいだ)
「……分かった」
何かを察してくれた彼女は、地面に転がる木剣を取った。
「うん、ありがとう……」
彼女が木剣を取り終えたのを確認し、僕は剣を構える。しかし、彼女は拾った木剣を器用に回しながら、一行に構える気配が無い。
(むっ……舐められてるのかな)
「どうした? 早く斬りかかってこい」
「じゃあ……遠慮なくっ!」
僕は地面を力強く蹴り、彼女との距離を詰める。間合いに入る直前でも彼女は構えない。
「でやぁあああ!」
僕は叫びながら足元から木剣を斬りあげる。
「ふんっ」
しかし、彼女は迎え撃つ事なく僕の左手側にヒラリと身をかわす。
「ふむ、私との身長を活かして上段からでは無く、死角からの下段か」
「まだまだっ!」
今度は身を反転してからの横切り。
「ふむ」
しかし、彼女は飛び上がりそれもかわす。だが、油断して飛んだら最後──
「くっ!」
僕は横に流れる体を止めて、反対に斬り返す。
(着地する瞬間隙が生まれる、これで終わり!)
着地で体勢が整っていない彼女目掛けて、僕の木剣が襲いかかる──だが
カンッ! と軽い音と共に、僕の攻撃は容易く受け止められてしまう。
「ほう?あの体勢から良く切り返したものだ、見た目以上に動ける様だな」
「ッ!」
スカーレットは余裕の表情でそう呟くと、僕を木剣ごと押し飛ばして距離をとる。
「こんなに早く剣を抜かされるとは、思わなかったな……では、今度は私から行くぞ!」
そう言ったスカーレットは、一歩踏み出したかと思えば、一瞬で目の前まで間合いを詰めてきた。
(え、はやっ!)
「ふんl」
間合いを詰めたスカーレットは、容赦なく剣を振り下ろしてきた。僕はそれをギリギリで受け止めるが、女性とは思えないほどの力で振り切られてしまう。
「うっ!」
攻撃を受けた僕は、体勢を崩しつつも、何とか踏ん張り彼女に向き直るが、既に彼女のニ撃目は、目の前に差し迫っていた。とっさに僕は地面を転がり距離を取る。
「良い判断だ、無理に受け止めようとしなら、顔面に入っていたな」
「それはどうも」
「だが、その細腕で私と打ち合うのは、些か無謀なんじゃ無いか? 既に魔力で身体能力を上げているようだが、その程度では私に一撃を入れることは出来ないぞ」
スカーレットは僕に、煽り気味にそう言って来る。
「まだまだ本気出してないだけだよ」
「そうか? なら!」
スカーレットの攻撃が再び襲い来る。次々に繰り出される剣撃を何とか凌いでいるが、一撃一撃が重く、木剣を握る力が徐々に弱まっていく。
「どうした? まだ本気を出さないのかっ!」
「ッ!」
とうとう力が緩んでしまった僕の木剣を、スカーレットに弾き飛ばされてしまう。飛ばされた木剣は、背後で音を立てて転がり、眼前にはスカーレットの木剣が突き出されていた。僕は肩で息をしながら、自身に向けられる切先を見て息を呑む。
「基礎もしっかり身につき体幹も鍛えている……しかし、まだ動きが稚拙だな、まぁこればかりは経験を積まないと──」
(ハァ、ハァ、ハァ……強い、全然歯が立たない……でも!)
スカーレットの声が遠くなり、意識がぼやける感覚……しかし、聴覚以外の感覚が鋭敏になっているのが分かる……
「さて、どうする? まだ続け……おい、何をやっているんだ?」
僕は邪魔なロングスカートを荒々しく破った。森に吹く風に、籠っていた熱気が吹き飛ばされ、窮屈だった足元が開放感に包まれる。
僕は一呼吸置いてから、転がった木剣を取ると、もう一度スカーレットに向かって構えた。
「もう一回、今度こそ本気で行くから……」
「……分かった」
僕の言葉に頷いたスカーレットは、最初とは違い、今度はしっかりと木剣を構えた。
(動きやすくしたからかな……なんかいつもより、自分の魔力がはっきりとわかる気がする……)
僕は人身の魔力を、全身に巡らせ高めた。徐々に自身の体が軽くなるのを感じ始め、気付けばこのまま浮き上がってしまうのでは、と思うまでに達したとき──
「フッ!」
僕は靴が地面にめり込む程の強い一歩を踏み出し、高速でスカーレットとの間合いを詰めると、彼女に鋭い斬撃を浴びせる。
「くっ!」
ガンッ! と軽い木剣から出たとは思えない、重い音を響かせ、僕達は鍔迫り合いの状態になる。今度は力負けすることは無かった。
「ほう? もっと早く動けるんだな。それに力も上がっている……魔力量と出力は申し分ない。これは私も少し本気を出すか」
鍔迫り合いの中、彼女は力んだ様子でそう言うと、後方へ飛び退いて僕との距離を取った。
すかさず僕は追撃……しかし、そう簡単にはいかず、何度も振りかざす僕の全力の剣を、往なし弾き返して、器用に処理されてしまう。
「はぁあああ!」
「ふふ、剣筋は先程より荒いな……まだ動きに慣れていないのか──」
「ふん!」
「ッ!」
攻防の最中に喋る彼女の隙を突いて、僕は回し蹴りをお見舞いした……が──
「足癖が悪いな」
僕の蹴りは、彼女の左腕に止められてしまう。しかし僕は、更にそこから体を捻り、空中で回し蹴りを二、三発繰り出す。
「うお!」
僕の予想外の攻撃に、スカーレットは少し驚いた表情を見せたがすぐに対処され、距離を取られてしまう。
「今のは入ったと思ったんだけど……」
「惜しかったな、少しヒヤッとしたぞ」
「それならもっと動揺してほしいなっ!」
僕が再び彼女に攻撃を仕掛けると、今度は彼女も動き出し迎え撃ってきた。お互いの間合いまで迫ると、激しい音を立てながら攻防を繰り広げる。彼女の鋭い剣閃が次々襲い掛かり、視覚の処理速度が限界を超えそうになる。
(これじゃ足りない……もっと早く、もっと強い攻撃じゃ無いと……くっ!)
早くなる鼓動に引き上げられるように、体の熱量が湧き上がる。柄を握る手に力が入ると共に刀身が淡く光りだす。
「なっ!」
光だした剣に対してか、攻撃の激しさが増したせいか、スカーレットが目を見開いて驚く。瞬間、僅かに隙が生まれると、僕は鋭く彼女に切り込んだ。
(いけるっ!)
僕の木剣がスカーレットの脇腹に入りかけたその時──
「……ふん!」
「熱っ!」
突如スカーレットの体から、激しい熱が放出されたかと思うと、僕の木剣があと少しの所で弾かれてしまう。
(これは魔力っ!)
剣を弾かれた僕は、大きく体勢を崩してしまう。スカーレットは僕のガラ空きになった腹に、容赦なく回し蹴りを喰らわした。
「グハッ!」
無防備な腹に入った重い一撃で、僕は数メートル後方に蹴り飛ばされると、土埃を上げながら地面に激しく転げ倒した。
「うっうぅ……」
あまりの衝撃に僕は、体を痙攣させながら少しの間動けないでいた。
「あっ! 大丈夫か!」
慌てたスカーレットが僕に駆け寄り声をかける。
「すまない、少々本気で蹴ってしま──」
「ふっ……ふふふ」
「ん? 大丈夫か?」
「あははは!」
僕はゴロンと仰向けになると、心配するスカーレットをよそに大きな笑い声をあげた。
「はぁあ……強いなぁ~、これが現役の冒険者か……」
「その様子なら心配なさそうだな」
そう言ってスカーレットは、寝そべる僕に手を差し伸べる。その手を握り返した僕は、引き上げられるように立つ上がると、服についた土をはたき落とした。
「それより、先程の一撃は驚いたな……私もつい力が入ってしまった」
スカーレットは僕をまじまじと見てそう言った。
「ん? 先程の一撃って……あぁ、光魔法のこと?」
「光魔法…だと?」
スカーレットは僕の言葉に首を傾げる。
「うん、母さんに教えてもらったんだ。確か闇魔法の対になる属性だよね、神聖な白き光は闇を打ち払う~、的な文献もあったりするし。そんなに珍しい?」
僕の問いにスカーレットは、少し考える素振りを見せる。
「それは……オーリスがそう言ってたのか?」
「まぁ母さんに教えて貰ったし……何か変な所あった?」
「……いや、何でもない」
自分の中で納得したのか、そう呟きながら含みのある様子で静かに頷いた。
(ん~? なんかモヤモヤする言い方するな)
「それより、服がボロボロだが良いのか? オーリスには、剣の特訓をしていることは、内緒にしているのだろう?」
「……まぁ、大丈夫だと思う。良く服を汚して帰ってるから。それより、早く薬草を探さないと……収穫無しで帰ったら、それこそ怒られそうだし」
「そう言えば、何の薬草を取りに来たんだ?」
そそくさと籠を背負う僕に、スカーレットは聞いてきた。
「今日は《セイシツソウ》と《キヨメゴケ》かな、あとは適当に目に付いた物とか、食べれる植物、キノコとかあればそれも欲しいかな」
「それは薬草採取と呼べるのか?」
「村の外では違うの? 僕達はいつもこんな感じだけど。それより、もう少し先に行った所に、良い感じの採取場所があるんだよ。早く行こう」
そう言って僕は森の奥へと歩き始める。
「少し休まなくても大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
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