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序 章 ・ 現 代
壱. 冴嶋桜
しおりを挟む「にーちゃん!わたしにも、けんじゅつおしえてよ~っ! 」
あ、――夢を見てる。
そう思った時、いつもの声が聞こえた。
「女子が剣を学ぶものではないぞ 」
そう怒るのは毎回、同じ人。
顔が見えないのは夢だからか、覚えていないだけなのか。
彼の声は怒ってても、愛情を感じられる程に優しい表情を浮かべていた様な気がした。
「いいの!わたしもみんなをまもるのっ! 」
「…――…から……―…だっ」
子供の私の言葉に心配そうに彼が何か言っていたけれど、そこで私の夢は消えていった。
* * *
ジ、リリリリリッ!!
「ん…うる、さい…」
片手を伸ばして卓上で大音量で鳴り響く目覚まし時計を止める。
桜はこの目覚まし時計がないと起きられない程、地震が来ても火事になっても気付かないぐらい眠いが深い。
『特注品で高かったから壊すなよ』、と父親が呆れたように言ってたけど…
実は、この時計が3代目だったりする。
「やばっ!!」
伸びをして時計を見ると、朝練の時刻5分前を示している。
ベットから慌てて出ると急いで胴着に着替え、腰まで伸びた黒髪を後頭部で一つに結びながら部屋を出た。
私は、冴嶋 桜。
高三の受験生、ではなく就職内定者。
父親が営んでる道場を継ぐつもり!
夏休み中の今、毎日欠かさず父と朝稽古をしている。
流派は、天然理心流。
有名な新撰組の局長が継いでいた流派なので知っている人は多いと思う。
そのせいか分からないけど、父から新撰組の事を暗記するまで徹底的に勉強させられた。
まあ、そのお陰で新撰組の主要メンバーや事件、幕末時代のテストの点数は良かったんだけど…。
父母と言っても血の繋がりはない。
私が10歳ぐらいの時に、子供のいなかった今の両親に引き取られた。
それまでは、児童養護施設。
だけど私には、5歳以前の記憶が一切ない。
5歳ぐらいの時、施設の前で倒れていたのを職員が見つけたらしい。
その時の季節が春だったから、桜と名付けられた。
今現在も、記憶が戻る様子がない。
まあ元々5歳以前の記憶を覚えている人自体少ないと思うんだけど…。
だから、たまに見る幼い時の夢が現実なのか願望なのか一切わからない。
ただ、夢の中の私はとても幸せそうだった。
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