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「では講義を始めます」
 朝から授業は始まり、スッと頭をスイッチを入れるように切り替える。お昼のことを考えそうになるけど、今はそれを考えるのを止めて先生の話を聞かなくてはならない。一番最初の授業は自由席だから前の方に座って話をする集団とは距離を開ける。真面目にやれるだけやらなきゃ、大学という場所は損をする。
「そこー、うるさいよ。静かに」
今日は珍しく先生も注意をするほど、いつもよりもうるさく感じる教室。自然と顔もしかめっ面になってしまうが、どうにかこうにか無表情を保つ。あまり表情でわかりやすい反応をしたくはないから。
「それで、ここの話にこの理論が入るわけです」
一般科目であるこの授業はそれなりに他学科の人もいるから騒がしい。それでもまだ可愛らしいものだった。本当に一段と今日は騒がしい。先生も注意は一度のつもりなのか、一回きりでそれ以上何かを言うこともない。それを見て、私も気にしないようにすることにした。
 授業を終え、待ちに待ったお昼がやってきた。二限目の授業もなかなか騒がしく、最終的に三十分は早く授業が終わってしまった。少し早く終わった、ということで聞いてもちょっと理解が難しかったところや疑問に思ったところを軽く質問し、自分を納得させた。ちょうど、仁人さんからメッセージも来ていて、人の少ない例の場所で待っている、とのことだった。私もお弁当袋を持ってすぐに移動を開始する。四年生の仁人さんよりも一年である私は授業がかなり詰まっている。少しの時間も無駄にするのはもったいなかった。
「お、お待たせしました」
「お疲れさま」
「ありがとうございます、藤木さんもお疲れ様です」
「まーた苗字になってる。でもありがとう」
咄嗟に出た藤木さん、の言葉に少し苦笑いを浮かべながら隣の机を指されたので、そこに腰を下ろし、お弁当箱を取り出す。バンドで止められているのでそのバンドは袋の中に戻して、いただきます、と手を合わせて一緒に食べ始める。
「美味しそうだな、お弁当」
「えっ、そう、でしょうか?」
仁人さんは買ったもののようで、普通におにぎりとサンドイッチだった。たしかに栄養の偏りが気になる食事内容ではある。
「よかったら、食べてみますか?」
「いいのか」
「はい、どうぞ」
何気なしに、使っていたお箸を差し出してお弁当箱を寄せる。それに気にした様子もなく彼も卵焼きを食べている。
「美味い…」
「よかった」
美味しい、とのことに思わず笑顔になる。やっぱり誰かに美味しいと言ってもらえるのが一番嬉しい。なかなかそういう機会はないから。
「あの、ひ、仁人さんがよかったら、なんですけど…」
「ん?」
「お昼は私の家で食べませんか?」
さすがに家に誘うのはやりすぎか、と思い慌てて理由を述べた。買ったものばかりでは身体を悪くしてしまうこと、精神的に疲れてしまったりすると余計に気が滅入ってしまうなどを述べる。
「あ、あと、お弁当作ってくるより、そのお家で食べてもらった方が安心かな、と…」
最後の方なんて尻すぼみになってしまったけれど、なんとか言い切ることができた。
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