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話せば話すほど、魅力的な仁人さん。顔立ちはシャープでクールな印象を与えるけれど、話せば温かな人だとすぐにわかる。イケメンで、性格もイケメンなんて、天は二物も三物も与えるのだと思ったのは記憶に新しい。そんな彼と関わるうちに、憧れを持った。そしてその憧れはすぐに好きの感情に変わった。優しく、本当は可愛いものや甘いものが好きだと聞いて、もっと好きになって。

もう、自分の心を誤魔化すことはできなかった。

仁人さんとの電話を終え、逸る気持ちを必死で抑える。私は、仁人さんという人が好きだ。最初は気の迷いだとかいろいろ自分を誤魔化してはいた。でも、もう誤魔化すことはできないところまで来てしまった。
「迷惑だけは、かけないようにしないと」
仁人さんからは嘘の彼女を依頼されている。本当に好きになってしまっているだなんて知られたら、そんな関係性でさえも、失われてしまうかもしれない。仁人さんは、芸能人で。私は、ただの一般人の女性。
「仁人さんの人生に、傷をつけちゃいけない」
たった一つの情報が仕事に影響を与える芸能人という立場。私が、責められるのであればそれは構わない。でも仁人さんがその責を負うのだけは耐えられない。
「だけど、離れるがは……辛い……」
数か月しかまだ付き合いはないけれど、そう思うほどに私の心は仁人さんへと傾いていた。私という存在がどれほど仁人さんの中にあるのかはわからない。でも、少しでも仁人さんに近づきたい、身の程知らずにも、そう思ってしまう。
「勘違いしてはいけない、これは終わりの来る関係」
いつか終わりが来るとわかっていて、側にいるのは本当につらい。別れが来ると、そう理解している。それでも、許される間は、側にいさせてほしい。
「頑張るから、辛いことも、しんどいことも、今度こそ、耐えて見せるから。だから、まだ私から仁人さんを奪わないで」


人気者の仁人さんと、ただの凡人。考えれば考えるほど、暗い気持ちになるので忘れようと、レポート作成にいそしんだ。やることだけはたくさんある。試験勉強も試験も、どちらも落とすわけにはいかない。必修科目だし、今後もし資格取得をするのであれば、絶対に落とせない。
「気合、入れんとね」
人間、頑張れないときは頑張れない。だけど、やろうと思えば、本当に追い詰められた時、やれる。頑張れる。私には後がない。卒業すればもうアラサーで30歳目前。正直な話、就職が厳しくなる。再就職する道を選べばよかったと、入学してすぐは思った。そう思いはしたが、仁人さんと出会えたことを思うと、一概には、悪い選択だとは思わない。
「結果を出せても、出せんくても、進むの。そう、決めたやん」
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