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「し、け、ん、が……」
試験が終わったら、いつでもお作りします、っと打って送った。そのくらいしかできないけど、力になりたい。大切な人のために、何かをしたいと思う。
『はやく、会いたい』
たった一言、そのメッセージに心を揺さぶられる。自惚れてもいいのだろうかと。今は恋をしている場合ではないとわかっていても、気持ちは抑えられない。
「わたしも、はやくお会いしたいです」
無難にそう返したところで、ちょうど仁人さんの休憩が終わったのか、一旦メッセージのやり取りが終わった。そこで私はスマホを置いて、思ったよりも遅くなってしまった夕飯づくりに取り掛かった。もう簡単でいいや、なんて思って卵とご飯を炒めるだけでできるチャーハンの素を使ってしまう。たまにはこういう生活でもいいだろ、なんて自分に言い聞かせて。食後は眠たくなってしまったがなんとか起きて、明日必要な科目の勉強と明後日必要なレポート作成をちょっとずつ進めた。

翌日は少ない科目数だったため、すぐに終わり帰宅。その次の日はレポート課題の提出だけと、休む時間が物理的にも精神的にも取れた。
「あ、成績早くも出てる」
試験期間、適当に出されていく成績に、今日は何か出てるかな、なんて思ってみてみると、さっそく試験も期末レポートもなかった取りやすい科目が出されていた。
「まだ二つだけ……。でも、試験は始まったばっかりやき、当然か。それにしても嬉しいな、ちゃんと頑張れば結果はついてくる」
以前の大学生活は、なんとなくで通っていたから成績もそれなりに気を付けるくらいで、ここまで気を付けたことはない。前は何になりたいとか、夢は特になくて。周りが大学に進学するから、私もさして深く考えないで進学した。前の大学時代も、悪いことはなかった。ただ、職場に恵まれなかっただけで。
「私も、やればできるってことを、証明しなね」
さんざん、職場では言われた。何をしてもできない、失敗ばかりのグズ。すぐ助けを求めようとして自分で何一つ考えられない、考えのない馬鹿。これでもかというほどみんなの前で罵声を浴びせられたことだって一度や二度じゃない。
「私だって、頑張れる。自分の考えやって、ある。馬鹿かもしれんけど、それでも私なりに進みゆう」
ひとり、つぶやいている言葉は完全に方言で。以前職場で同僚と話すのに方言を出して、上司にそれを叱られたことがあった。それ以来、方言一つ出せなくなって気を張る毎日で。仁人さんが、方言を聞きたいと、お世辞かもしれないけどそう言ってくれたから、少し気を張らなくても良くなった。
「本当に、仁人さんには助けてもらって、ばっかり……」
私のほうが年上で、社会人経験だってあるのに……、なんて思ってみたが、社会に出たのは仁人さんのほうが早かったかも、なんて思いなおした。
「よし、あと二日。頑張る」
気合を入れるためにバチっと、頬を両手で叩いて机に向かった。
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