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『もしもし、奏?』
「はい……って、仁人さん!?」
急に電話がかかってきて、慌てて取れば仁人さんで。
『うん、俺。ちょっとさ、聞きたいんだけど』
「い、今大丈夫なんですか……?私は大丈夫ですけど……」
今電話をしても、大丈夫なのかと思い、思わず聞いてしまう。私はちょうど自室に帰ってきていて手が空いていたのでよかった。
『大丈夫、それでさ。奏の家の最寄り駅から、奏の家まで、車でどれくらい?あと、住所知りたい』
「急になん……、ちょっと待ってください!?今どこにいるんですか!?」
『はは、驚いてる。奏が前に言ってた、奏の実家がある近くの最寄り駅だよ』
急に住所が知りたい、最寄り駅から車でどれくらい、と聞かれて、ハッとした。仁人さんは、ここに来ていると。
「すぐ、すぐ行きます!!そこから動かないでください!!」
わざわざタクシーに乗せてまで私の家まで来るには、少々めんどくさい。お金だってかかる。だから私は迎えに行くことにした。
『え、あ、ちょ、奏!?』
仁人さんが焦る声も無視して中にいた階下にいる両親に叫ぶ。
「お父さん、お母さん!!今からちょっと人を駅まで迎えに行ってくる!!」
「ちょ、ちょっと待って!?誰を迎えに行くがぞね!?それよりもどこへ連れていくつもりよ!?」
「と、とりあえず、行ってこな待たせるやん!!ここに来るの!!」
「奏、大事な人ながやったら、早くいって連れてきい」
「うん、お父さん。お母さん、ごめん!!説明は後で!!」
急な来客に驚く母と、事情をなんとなく察した父に見送られて、久しぶりに自分の車を運転し、駅まで行った。道中、信号に捕まるたびに、もどかしかった。


「お、お待たせしました!!」
駅構内のベンチで待っていた仁人さんを見つけて、声をかける。
「か、奏……、ごめん」
「あ、謝らないでください。とりあえず、行きましょう」
車まで案内し、後部座席に荷物を載せてもらって助手席に仁人さんは乗ってもらう。こんなとき、背の高い仁人さんが乗れる乗用車でよかったと思う。
「急に、こんなところまで……。道中長かったでしょう?お疲れ様です」
「俺、どうしても……会いたくなって……」
さっきの電話での楽しそうな声とは違い、沈んだ声を出す仁人さんに、私は努めて明るい声を出した。
「仁人さん、私、怒ってないです。むしろこんな遠いところまで会いに来てくださって、とっても嬉しいです」
安全運転に勤めながら、さっき通った道を戻る。車を車庫に入れて車を降りると、お父さんとお母さんが出てきていた。
「お父さん、お母さん。こちら、お付き合いをしている藤木仁人さん」
改めて紹介をすれば、車の中でマスクと眼鏡をはずした仁人さんが、両親に頭を下げた。
「突然、押しかけてしまい申し訳ありません。ご迷惑だとわかっていたのですが、どうしても耐えきれず……このように来てしまいました」
どこか悲しそうな面持ちの仁人さん。両親はそんな仁人さんに怒ることはなかった。
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