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「仁人さん。体調はどうですか?」
「うん、だいぶ良くなった。ごめん、迷惑かけた」
「いえ、あれは父が悪いので謝るのは私達の方です。私も止められなかった、本当にすみませんでした。あと、こちら読んでいただけると嬉しいです」
両親に書かせた反省文だ。それを渡すと、身体を起こした仁人さんはそれに目を通して笑い始めた。
「いや、反省文書かせたのか。面白いと言ってはいけないんだろうけど、面白いな」
朝方よりは顔色も良くなっていて、移動ができる程度にはなっていたので、ダイニングテーブルの方の椅子に座ってもらい、手早く軽く食べられるおじやを作る。私が体調が悪い時に作ってもらった、お母さんの味だ。あとはりんごを少しだけすりおろして出す。
「私は最後に載ってますよ。両親に書かせて自分だけ書かないのは不公平ですから」
「はは、本当だ」
もはや大喜利のようになっている、最初だけ反省文の文章を見て笑う仁人さんに安心する。
「うーん、この中ならお父さんの話が一番面白いと思ったよ」
快く採点までしてくれた仁人さん。食事も取れたからなのか、さっきよりも元気そうだ。
「残念です、お父さんに負けたの悔しい」
「奏のもお母さんのも、もちろん面白いよ。俺も、こんな……」
「仁人、さん……?」
「いや、俺……、あんまり両親と仲良くないから……失望ばかりさせてしまったんだ」
淡く微笑んでいるのに、悲しい気持ちが伝わる。その気持ちがすべて理解できるとは言わない。でも似たようなことは私もした。だから、少しくらいはわかるつもりだ。
「私も、数年前まではそんなに仲良くなかったです。私は仁人さんのご両親を存じ上げないので、あくまでも私の個人的意見ですが……。きっと仁人さんを応援されていると思いますよ。親はいつだって子を見ていますから。私はそれを言葉にして教えてもらいました。どんな親だってたとえ負の感情を持っていたって、子どもを見ている、と」
「そう、だと、いいな。俺、芽が出るのに時間がかかったから、期待を裏切って……」
体調が悪いときは心も弱くなる。弱音を吐くことが少ない仁人さんは珍しく弱気だ。そんなところを見ても愛おしさがこみ上げる私は、もう仁人さんにゾッコンだと言える。
「いつか、ご両親とお話できる日がきます。私もありましたから」
まだ、仁人さんも間に合う。私は、壊れてしまったから再構築ができても元には戻らなかった。だけど、仁人さんの話を聞く限りではまだ間に合うはずだ。壊れてない、私は壊れたからこそ今の形になった。
「壊れてしまったものは、元通りには戻せません。壊れる前に、話ができるはずです」
「奏……」
「母も父も、昔は厳しい人でした」
今はあんなですが、と言葉を続けると仁人さんは驚いた表情を浮かべていた。
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