虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
11 / 57

11

しおりを挟む
父は典型的な選民思想がある。貴族は選ばれた人間、貴族でない人間はそれ以下、そんな思考だ。屋敷で働いている使用人にも、当たりがきついのはそういうこと。一つ、父にいいところがあるとすれば選民思想は強いものの、持たざる人間には寛容に、という貴族の教えをきちんと身に着けているところか。

どちらにせよ、いいところはあってもそれを上回る悪い部分があるので、それを含めたとしても上回っている以上、意味はないかもしれないが。

「噂では、ユーニス・エインズワースはとんでもない悪女だと言われている。だが……君の様子を見てそれは違うとすぐにわかった」

「……私は、社交界にも出たことがありません。噂の原因が誰なのかは、さすがに予想がつきますが……」

「噂と同じ銀色の髪にアイスグリーンの瞳、名前もユーニス。実際には悪女とは程遠い姿だったが」

公爵様……じゃなかった、レイフ様が言うことに自然と答えが埋まっていく。なかなかに激しいカミラの火遊びは、どうやらさすがに姿と名前を変える考えはあったらしい。まあ素の自分で火遊びするなんて、リスクが高すぎるから、カミラは考えた方だろう。

「だから、最初に警戒をしていた、と」

「いや、それだけが理由じゃない。立場上、命を狙われる危険性がある殿下を護衛するからな、なにがあっても殿下を守らなければならない。どういう状況であれ、殿下だけでも逃がせるように警戒するのは必要だった」

一瞬、言ってもいいのだろうか、と迷った。レイフ様の立場も皇太子殿下の立場も正確に把握はできていなくても、それなりに高い地位にいることはわかっていたと。それがわかっていたから自分から食事を目の前で食べた、とかも、言っていいのだろうか。

「君は初めて食事を出した時も、先に食べて見せた。その気遣いができるのは、噂の人物では無理だとわかった」

「見れば、わかります。服も上質なものが使われているし、高位貴族だろうということは。ただ……その……すみません。どなたかまでは存じ上げませんでした」

「社交界に出たことがないのであれば、それは仕方がないことだ。俺たちの姿が隣国の国民にまで伝わっているわけではない。それこそ、夜会などに参加できるだけの位がなければ詳しい姿かたちなどわかりはしないしな」

彼はベッドに座ったまま、私もベッドで上半身を起こしたまま。しばらくその体勢で話をしたが、教えてくれる内容は私の知らない世界ばかりで、少し怖くなる。煌びやかで、それでいていろいろな思惑が渦巻く世界。そんな世界にいるレイフ様は、私を守りたいと思った気持ちだけで、なぜ側に置くのか。

「そ、れは……」

もしかすると、何かの利用価値が私にあると思って見出しているのかもしれない。それならば、必要ないと言われるまでは、側にいさせてもらえおう。少しの間、夢見るようなもの。自由な世界を夢の中だけでも、感じたって罰は当たらないでしょう?

「悪い、君は病み上がりだったな。わかっていたはずなのに……気遣いができず、すまなかった」

急に話を切り上げたレイフ様は私をベッドへ寝かせた。不自然な切り方に不安を覚えるが、きっとそれは私が知ってはいけない何かなのかもしれないと思うと、聞く勇気は出ない。

「い、いえ……その、お話をたくさんしていただいて、とても嬉しかったです」

「これからは、たくさん話ができる。また、明日も来る」

「……はい」

彼は退室してしまったので、エインズワース伯爵家では見たこともないくらい広い部屋に一人になった。シンと静まり返った部屋の中の調度品や家具たちは、薄暗い中でもわかるほどの一級品だ。どれをとっても、伯爵家の人間が手を出せるものではない。

「私は、これから先どうなるのかしら……」

ここには、私をいじめる継母もカミラも、疎む父もいない。陰口を叩く使用人たちだっていない。本当に、私は伯爵領から……あの狭い世界から出られたのだ。あれほど、逃げたいと思っていた場所から、意図せずのタイミングと人の手によって。

「おかあ……さま……」

孤独などなれているはずなのに、鼻の奥がツンとする。淋しいと感じている自分がいるのを、必死で考えないようにするのに、心にふたをしきれない。たとえ、あの小さな世界から逃げられたとしても、私が一人なのは変わらない。だって、ここにだっていつまでいられるかわからないのだから。

「私の手のひらにあったはずのものは、みんな……」

こぼれおちた、その言葉は声にならなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...