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「あなたに今日かかったお金、このくらいだから、将来ちゃぁんと返してね」
 10歳のころに浮気をした母親と離婚した父親、その父親に引き取られ、そのすぐあとくらいに父は再婚、新しい母親が私にはできた。しかしこの義母はとんでもない女だった。それがこの冒頭の言葉だ。その言葉は、まだ小学生だった私を蝕んだ。毎日のように繰り返されるその言葉、増えていくお金。必死で計算した結果、恐ろしい金額になったし、嫌でも計算が早くなった。一生かけて返すのだと言われ続けて、増えるお金を見つめ続けた。何もできない子どもな自分がひどく嫌いで、はやく大人になってしまいたいと願った。父は私を引き取ったけれど、浮気をした母に似ているのが嫌なのか愛そうと努力はしてくれようだが、私を愛することに葛藤があったことを幼いながらにわかっていた。義母と父親との間に弟が生まれ、私の居場所は家庭の中になかった。早くひとり立ちしたかったから高校を出たら働くつもりだった。でも世間体を気にする父親に強制されて大学まで進学させられ、一人暮らしをすることになった。やっと一人で頑張れると思っていたのに、経済力があった家庭だったがゆえに奨学金も借りることなく親のすねをかじって大学生活を送ることになった。さすがに生活費は自分で稼いだけれど、大学での学費や一人暮らしすることになった時の費用、そのすべてが今までの借金に積みあがってしまった。
 大学を無事に卒業した私は普通に就職したけれど、一年後に大企業に吸収合併されて私はなぜか解雇された。理由は人員削減とのことらしいが、私の義母は会社にまで借金の督促の連絡をして迷惑をかけたからそれが本当の理由かもしれない。そして私が選んだ生きていくための仕事は、風俗だった。


「ご、御指名あり、ありがとう、ご、ございます。マナです、よろ、よろしくお願いします」
 緊張でガチガチになり、声は上ずるし震えもするし、なんで自分がって思いが溢れて目頭が熱くなる。だけど頑張って抑え込んで、相手の人を見やる。今日、私はたいして守ってきたつもりもない処女を捨てる、風俗店ソープで。
「うん、理想通りだよ。さっそくだけど、胸を揉んでもいいかな!?」
頭をあげて相手の顔をしっかりと見れば、なんでこんなところを使うのか不思議なレベルのイケメンが立っていた。さすがに驚いて、さっきまでの緊張もどこかに行ってしまった。そして食い気味の先ほどの発言に思い切りドン引きしてしまったのは言うまでもない。いや、ここはそういう店だから、そういうことあるんだけど、いや、でもね?急すぎない?しかも食い気味なところが怖い。
「あ、えっと、あ…」
「初めてなのは知ってるよ、優しくするからどうか僕に身をゆだねて」
 客に指導されるソープ嬢とは。ハッシュタグ的な何かをつけて調べたい気分だ。ええい、女は度胸、とお客様である男性に不快な思いをさせないように、さっき覚えたばかりのサービスを開始する。性経験など一度もない私にできることなど、ぎこちない奉仕くらいだ。それでもお金をもらってやっているのだから、と相手の反応を見ながら頑張ってみる。
「っん」
 結論から言うと、すぐに主導権は取られた。あれ、これソープ嬢として、店としてありなの?私はお金のためにこの業界を選んだだけで、風俗業界のことを何一つ知らない。だから正直、店側から手ほどきを受けてもどうしたらいいのか全く分からない。手探りで応用していくしかない。それなのに、こうもあっさりと主導権を奪われるとは思っていなかった。あまりにも奉仕の手つきが拙すぎたのだろう、これは練習あるのみだ
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