私にだけ見える選択肢が人生強制終了しかないんだけど

高福あさひ

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ふと、肌寒さを感じて目が覚めた。いつもと違う部屋の天井に、焦って身体を起こして気づく。そういえば全然知らない部屋に昨日は放り込まれたのだと。

「起きたんだ、千鶴。身体は辛くない?」

「あ、はい……とおる、さん」

まだ少しぼやけた頭、聞かれていることの意味を理解するのに時間がかかって返答が遅くなる。とりあえず、大丈夫だと伝えると、彼はよかった、と言いながらホットココアを差し出した。

「はい、これどうぞ」

「ありがとう、ございます」

「それ飲んで、少ししたらお風呂に行っておいで。汗は拭いたけど、そのままだと風邪をひく」

身体のべたつきはないけれど、汗をかいた後の冷えた感じがあるのを、言われてから気づき、その言葉に対して頷く。

「千鶴、後で大事な話がある。お風呂を出たら書斎へ来てくれるかな」

「はい、わかりました」

大事な話とは何だろうか、と想像がつかないがどうせ聞かないという選択肢はないので是と返す。そもそもわたしの意思で聞かない、ということはできない。

「透さん、ココア、ありがとうございました。お風呂に、行ってきますね」

じっと、ココアを飲んでいるのを見つめられて気恥ずかしくなり、最後の一口を一気に流し込む。そしてコップを持って立ち上がり、お風呂へ向かう。どうやら下着は着せてもらえていたようなので、透さんに全裸をさらさなくて済んだ。いや、見られてるだろうから今更意味はないのだろうけど。

「……ねえ、選択肢。これでいいのかな……私は、自分に正直になっていいのかな……」

いつもよりも熱めのシャワーを浴び、そんな都合よく返事などないと分かっていながら選択肢に問いかける。選択肢に半ば無理やり正直にさせられたわけで。

本来であれば隠すつもりだった感情。それを表に出したことで、私の中の防壁は崩れ去った。隠すことによって我慢ができていたものが、隠さなくなったことによってできなくなった。

「こんな温もりを知ったら、戻れなくなっちゃうじゃん」

寒さや飢えを我慢するのと、気持ちを抑えるのとは違う。前者は物理的にどうしようもないから我慢ができる。でも、気持ちはどうにもならない。側に気持ちをぶつけられる好きな人がいるのならなおさら。いなかったらまた別だったかもしれないけど、いなかったらはあくまでも想像の世界に過ぎない。

「皮肉なものね、こんなにも愛を願って、今度は捨てられることに怯えることになるなんて」

人の愛とはいつか移り変わり、ずっと愛してもらえるわけじゃない。愛される喜びを知った次は、捨てられないように怯えながら、好きを伝え続けることになる。

「大丈夫だって、わかってても。それは本当に大丈夫と、果たして言えるのかしらね」

透さんのことを疑っているわけじゃないのに、疑っている。心の奥底ではいつか別れが来ると思っている、そんな考えをやめられない自分に腹が立つ。

「結婚でも、すれば……別なのかな」

結婚、家族になるための、法的な拘束。それをしてしまえば、私は透さんから離れられないし、透さんも私からは離れられない。昔は、結婚にとても夢を見ていた。恋に恋している状態に似ているくらいに。

憧れだった、でも今は違う。相手を縛るための手段としか思えない。

「今世でも愛されてたら、胸を張って透さんの隣を歩けたかもしれないのに」

鬱々としてきた気持ちを、強引に今世の両親のせいだと擦り付けて、泣きそうになる自分を誤魔化した。

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