お嬢様は恋を知らない

皇 晴樹

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お嬢様は恋を知らない

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力が抜けてその場に倒れそうになった私の体を、麗さまはやさしく支えてくれた。

「お嬢様。今回はさすがの私も怒りましたよ」

「ごめん、なさい…」

「お嬢様がご無事で本当に安心しました。連絡もつかないので、使用人総出でお嬢様の捜索にあたっていたのです」

電源、切ったままだった……

「旦那様にきちんと謝罪をするのですよ」

「はい」

麗さまの温もりに包まれて安心したのか、こらえてきた涙が溢れ出した。

そんな私を突き放すことなく、麗さまはやさしく抱きしめてくれた。

「いつまでもお子様ですね」

「うるさい」

「あらあら。こんなことがあってもまだ口答えするのですか?」

「もう、麗さま! 私をからかわないで!」

「……春菜様」

いつも“お嬢様”なのに、名前で呼ぶなんて……

え……!?


「れ、い…さま?」

「面白いお顔ですね。お嬢様」

頬が、熱い。

麗さまに、キスされた……

「旦那様には秘密ですよ?」

悪戯っぽく笑って私の手をとった。

「帰りますよ。お嬢様」

動かない私をみて呆れたように息を吐いた。

「今度は唇をご所望ですか?」

「ち、違う! 別にそんなの望んでない! 今のだって麗さまが勝手に…」

「敬愛の印です」

普段はそんなことしないくせに。
今日は少し変だ。

「またそのようなお顔をしていらっしゃる。貴女は本当に、右も左もわからない生まれたての赤子のようですね」

「どういう意味!?」

麗さまはふっと笑って私に顔を近づける。

「私は貴女のことが好きだと先程から申し上げているのに……貴女は何も理解していらっしゃらない、という意味です。ご理解いただけましたか?」

「わ、私だって…麗さまのことが好きだよ! やさしくてかっこよくて、たまに意地悪だけど…昔からずっと私の王子様だもん!」

「ありがとうございます。お嬢様」

なんでそんな余裕そうな顔するの!?

「お嬢様にもきっと、私の気持ちをご理解いただける日が訪れると思います。その際は、私に教えていただけますか?」

「わかった。約束する」

麗さまの気持ちってなんだろう?

「お嬢様、ご自分の足で歩けますか? 私がおぶって差し上げましょうか?」

「バ、バカにしないで! 麗さまなんて嫌い!」

まださっきの恐怖が残っていたのか、足がもつれてバランスを崩した。

「お嬢様! 私のそばを離れないでください」

恥ずかしさで爆発してしまいそう。

麗さまの言う通り、私はまだまだお子様だ。


「……麗さま。ごめんなさい」

迷惑ばかりかけて、本当にごめん。

「助けてくれて、ありがとう」

麗さまは微笑んで、私の頭をやさしく撫でた。

「よくできました」

「やっぱり、麗さまのことが好き」

そう言って抱きつくと、麗さまもぎゅっと抱きしめてくれた。


うるさいくらい響く私の鼓動がバレていないか不安だったけど、麗さまも同じくらいドキドキしていたみたいだから、大丈夫だよね……?


風に舞う桜の花びらと、瞬く星の下

私たちの鼓動だけが静かに響いていた。
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