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In 横浜6
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”ザッバーンッ”
暗闇から聞こえる水音。
あのゆるふわ金髪、本当に海へ飛び込んだみたいだ。
手元の通信機でユーリに話しかける。
「ユーリ!聞いてた?あの金髪を10分以内に捕まえなきゃなんだけど、あいつ、いきなり海に飛び込んで逃げちゃった!私も飛び込むから、サポートお願いっ!」
「バ、バカかお前は!ミツリ!?」
私は、迷わずデッキの柵を乗り越え、空中へと体を躍らせた。
◇
”ドボンッ”
体が緩やかに水中へと沈み込む。
海面スレスレの所でユーリの風魔法が、落下のスピードを弱めてくれたのだ。
ナイスアシストだ、ユーリ!
「あははっ、本当に追っかけて飛び込んじゃうんだ!やっぱり君は僕と気が合うんじゃない?すっごく楽しく過ごせそう」
ゆるふわ金髪は、どこから拝借したのか救助用のボートに乗って、海面に漂う私を見下ろしていた。
「あんたなんか、と、気なんて、合わない!」
波が体を揺らし、顔にも海水がかかってくる。
話もろくに出来やしない。
「そっかー、それじゃ仕方ないかな。僕はこのまま逃げちゃうから、とりあえず追っかけてくる?アトマイザー欲しいでしょ?」
ここにあるよ、とばかりにジャケットの内ポケットを指差し、アトマイザーの在処を教えてくる。
奴を捕まえたい気持ちとは裏腹に、沈まないように泳いでいるだけで、どんどん体力を奪われていく。
夜の海は暗くて、奥底に引きずり込まれそうな怖さだ。
ブルッと身震いが出て、己が無謀さに思わず笑う。
‥近くにユーリがいるとはいえ、最悪、◯ぬな。
そう思った時、足元に閃光が走った。
深い闇のようなに海の中に、光の線が走り抜け魔法陣を描き出す。
それと同時に、海の底から湧き上がるような水の流れに押し上げられていく。
「え?ま、まさかこれって、召喚陣っ!?」
足元に銀色の鱗が揺らめくのを見たかと思うと、その主が私を乗せたまま海面に姿を表した。
体表を覆った銀の鱗は月の光を受けて輝き、顔には細長いヒゲが揺れている。
こんな召喚獣、見たことがないっ。
丁度私の手が触れている、固くてトゲトゲした物には膜が付いていて、まるで魚のヒレのようだ。
ふと背の方をみると、ゆるふわ金髪は早くもボートから移動して、私と同じく召喚獣の背に乗っている。
どうやら召喚獣が出てくる際に、ボートをひっくり返したようだ。
「僕、本物の水竜とか初めて見たっ。凄いっ、こんなにドキドキしてるっ」
私の手を取り、自分の胸に押し付けるゆるふわ金髪。
どうしてコイツはいつも距離感がこんなに近いんだ?
あ、でも、これはチャンスかもっ!
「もらったぁー!!」
私はゆるふわ金髪のジャケットの中に、グイッと手を突っ込んだ。
勢い余った私の指は、内ポケット口を引き破り、こぼれ落ちたアトマイザーは、受け止める間もなく落下していく。
「あぁ!!」
2人同時に声を上げ、海に落ちるアトマイザーを目で追った。
そのまま小さなガラス瓶が波間に消えていくのを見届け、呆然としていると、
“バッシャーンッ。“
水中で水竜のヒレが水を打ち、アトマイザーを空中へと打ち上げた。
キラキラと光る水飛沫と共に、空を舞うアトマイザー。
「逃がすかーっ!!」
私は、水竜の背の上で立ち上がり、力一杯ジャンプした。
身体機能強化の魔導具を付けているので、自分の背より高く飛び上がれる。
月光に照らされたアトマイザーのガラス瓶は、真下に広がる海の暗闇さえも映しながら、空中を彷徨っていた。
私の目がとらえたのは、そのボトルネックにはめられているはずのピンが抜けて、蓋の隙間から散る液体。
——あ、百合の花の香りがする。
潮風の匂いに混じる、甘い花の香りが私の体に降り注ぐ。
私が力の限り伸ばした手は、しっかりアトマイザーを掴んでいた。
暗闇から聞こえる水音。
あのゆるふわ金髪、本当に海へ飛び込んだみたいだ。
手元の通信機でユーリに話しかける。
「ユーリ!聞いてた?あの金髪を10分以内に捕まえなきゃなんだけど、あいつ、いきなり海に飛び込んで逃げちゃった!私も飛び込むから、サポートお願いっ!」
「バ、バカかお前は!ミツリ!?」
私は、迷わずデッキの柵を乗り越え、空中へと体を躍らせた。
◇
”ドボンッ”
体が緩やかに水中へと沈み込む。
海面スレスレの所でユーリの風魔法が、落下のスピードを弱めてくれたのだ。
ナイスアシストだ、ユーリ!
「あははっ、本当に追っかけて飛び込んじゃうんだ!やっぱり君は僕と気が合うんじゃない?すっごく楽しく過ごせそう」
ゆるふわ金髪は、どこから拝借したのか救助用のボートに乗って、海面に漂う私を見下ろしていた。
「あんたなんか、と、気なんて、合わない!」
波が体を揺らし、顔にも海水がかかってくる。
話もろくに出来やしない。
「そっかー、それじゃ仕方ないかな。僕はこのまま逃げちゃうから、とりあえず追っかけてくる?アトマイザー欲しいでしょ?」
ここにあるよ、とばかりにジャケットの内ポケットを指差し、アトマイザーの在処を教えてくる。
奴を捕まえたい気持ちとは裏腹に、沈まないように泳いでいるだけで、どんどん体力を奪われていく。
夜の海は暗くて、奥底に引きずり込まれそうな怖さだ。
ブルッと身震いが出て、己が無謀さに思わず笑う。
‥近くにユーリがいるとはいえ、最悪、◯ぬな。
そう思った時、足元に閃光が走った。
深い闇のようなに海の中に、光の線が走り抜け魔法陣を描き出す。
それと同時に、海の底から湧き上がるような水の流れに押し上げられていく。
「え?ま、まさかこれって、召喚陣っ!?」
足元に銀色の鱗が揺らめくのを見たかと思うと、その主が私を乗せたまま海面に姿を表した。
体表を覆った銀の鱗は月の光を受けて輝き、顔には細長いヒゲが揺れている。
こんな召喚獣、見たことがないっ。
丁度私の手が触れている、固くてトゲトゲした物には膜が付いていて、まるで魚のヒレのようだ。
ふと背の方をみると、ゆるふわ金髪は早くもボートから移動して、私と同じく召喚獣の背に乗っている。
どうやら召喚獣が出てくる際に、ボートをひっくり返したようだ。
「僕、本物の水竜とか初めて見たっ。凄いっ、こんなにドキドキしてるっ」
私の手を取り、自分の胸に押し付けるゆるふわ金髪。
どうしてコイツはいつも距離感がこんなに近いんだ?
あ、でも、これはチャンスかもっ!
「もらったぁー!!」
私はゆるふわ金髪のジャケットの中に、グイッと手を突っ込んだ。
勢い余った私の指は、内ポケット口を引き破り、こぼれ落ちたアトマイザーは、受け止める間もなく落下していく。
「あぁ!!」
2人同時に声を上げ、海に落ちるアトマイザーを目で追った。
そのまま小さなガラス瓶が波間に消えていくのを見届け、呆然としていると、
“バッシャーンッ。“
水中で水竜のヒレが水を打ち、アトマイザーを空中へと打ち上げた。
キラキラと光る水飛沫と共に、空を舞うアトマイザー。
「逃がすかーっ!!」
私は、水竜の背の上で立ち上がり、力一杯ジャンプした。
身体機能強化の魔導具を付けているので、自分の背より高く飛び上がれる。
月光に照らされたアトマイザーのガラス瓶は、真下に広がる海の暗闇さえも映しながら、空中を彷徨っていた。
私の目がとらえたのは、そのボトルネックにはめられているはずのピンが抜けて、蓋の隙間から散る液体。
——あ、百合の花の香りがする。
潮風の匂いに混じる、甘い花の香りが私の体に降り注ぐ。
私が力の限り伸ばした手は、しっかりアトマイザーを掴んでいた。
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