魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

文字の大きさ
20 / 88

In 横浜6

しおりを挟む
 ”ザッバーンッ”

 暗闇から聞こえる水音。
 あのゆるふわ金髪、本当に海へ飛び込んだみたいだ。

 手元の通信機でユーリに話しかける。

「ユーリ!聞いてた?あの金髪を10分以内に捕まえなきゃなんだけど、あいつ、いきなり海に飛び込んで逃げちゃった!私も飛び込むから、サポートお願いっ!」

「バ、バカかお前は!ミツリ!?」

 私は、迷わずデッキの柵を乗り越え、空中へと体を躍らせた。





 ”ドボンッ”

 体が緩やかに水中へと沈み込む。
 海面スレスレの所でユーリの風魔法が、落下のスピードを弱めてくれたのだ。

 ナイスアシストだ、ユーリ!

「あははっ、本当に追っかけて飛び込んじゃうんだ!やっぱり君は僕と気が合うんじゃない?すっごく楽しく過ごせそう」

 ゆるふわ金髪は、どこから拝借したのか救助用のボートに乗って、海面に漂う私を見下ろしていた。

「あんたなんか、と、気なんて、合わない!」

 波が体を揺らし、顔にも海水がかかってくる。
 話もろくに出来やしない。

「そっかー、それじゃ仕方ないかな。僕はこのまま逃げちゃうから、とりあえず追っかけてくる?アトマイザー欲しいでしょ?」

 ここにあるよ、とばかりにジャケットの内ポケットを指差し、アトマイザーの在処を教えてくる。

 奴を捕まえたい気持ちとは裏腹に、沈まないように泳いでいるだけで、どんどん体力を奪われていく。

 夜の海は暗くて、奥底に引きずり込まれそうな怖さだ。
 ブルッと身震いが出て、己が無謀さに思わず笑う。

 ‥近くにユーリがいるとはいえ、最悪、◯ぬな。

 そう思った時、足元に閃光が走った。
 深い闇のようなに海の中に、光の線が走り抜け魔法陣を描き出す。

 それと同時に、海の底から湧き上がるような水の流れに押し上げられていく。

「え?ま、まさかこれって、召喚陣っ!?」

 足元に銀色の鱗が揺らめくのを見たかと思うと、その主が私を乗せたまま海面に姿を表した。

 体表を覆った銀の鱗は月の光を受けて輝き、顔には細長いヒゲが揺れている。

 こんな召喚獣、見たことがないっ。

 丁度私の手が触れている、固くてトゲトゲした物には膜が付いていて、まるで魚のヒレのようだ。

 ふと背の方をみると、ゆるふわ金髪は早くもボートから移動して、私と同じく召喚獣の背に乗っている。
 どうやら召喚獣が出てくる際に、ボートをひっくり返したようだ。

「僕、本物の水竜とか初めて見たっ。凄いっ、こんなにドキドキしてるっ」

 私の手を取り、自分の胸に押し付けるゆるふわ金髪。

 どうしてコイツはいつも距離感がこんなに近いんだ?
 あ、でも、これはチャンスかもっ!

「もらったぁー!!」

 私はゆるふわ金髪のジャケットの中に、グイッと手を突っ込んだ。
 勢い余った私の指は、内ポケット口を引き破り、こぼれ落ちたアトマイザーは、受け止める間もなく落下していく。

「あぁ!!」

 2人同時に声を上げ、海に落ちるアトマイザーを目で追った。

 そのまま小さなガラス瓶が波間に消えていくのを見届け、呆然としていると、

 “バッシャーンッ。“

 水中で水竜のヒレが水を打ち、アトマイザーを空中へと打ち上げた。

 キラキラと光る水飛沫と共に、空を舞うアトマイザー。

「逃がすかーっ!!」

 私は、水竜の背の上で立ち上がり、力一杯ジャンプした。

 身体機能強化の魔導具を付けているので、自分の背より高く飛び上がれる。

 月光に照らされたアトマイザーのガラス瓶は、真下に広がる海の暗闇さえも映しながら、空中を彷徨っていた。

 私の目がとらえたのは、そのボトルネックにはめられているはずのピンが抜けて、蓋の隙間から散る液体。

——あ、百合の花の香りがする。

 潮風の匂いに混じる、甘い花の香りが私の体に降り注ぐ。

 私が力の限り伸ばした手は、しっかりアトマイザーを掴んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

処理中です...