魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

文字の大きさ
69 / 88

ユーリの記憶を取り戻せ!5

しおりを挟む
 玄関で物音がする。
 ユーリが帰って来たんだ‥。

 シリルもリチャードも、私の顔を見て様子を確認してくる。

「私は大丈夫、上手くやるよ。」

 2人に心配を掛けている事が分かって申し訳なくなるが、私はきっと大丈夫だ。
 今までだって上手くやって来たから、これからだってどうにでもなる。
 最悪ユーリに捕まって王宮に送られても、その後だって、一生出られないとは限らない。
 諦めなければ、勝機はある。

「お、いい顔になってきたねミツリちゃん。」

 シリルがそう言った時だった、玄関側のドアが開き、ローブを纏ったユーリが現れた。

「ミツリ?‥。あぁ、君の事か。まだ居たのか。」

 ユーリは私に一瞥を送ると、シリルとリチャードに向き直った。

「もう、外は暗くなっている。夜遅くまで女の子を引き留めておくのは感心しないな。家まで送って行ってあげたらどうだ?」

「ユーリお帰りっ。あのさ、彼女はリチャードの助手もしてくれるから、4階に住んでもらうんだよ。前に話したの忘れた?」

「えっ?あぁ、そうだったか?何だか頭にモヤがかかったようでスッキリしないんだ。疲れているのかもな。そうか、だとしてもリチャードと一緒のフロアに住むなんて、彼女は大丈夫なのか?親子ほど歳の差はあるが、若い女性だろう。余り、感心しないな。」

(お前が言うな‥。)

 シリルもリチャードも、同じ事を心の中で思ったに違いない。


 ″チリリーンッ、チリリーンッ‥″

 また、異世界門が開いた。
 おそらく今度はカイゼル殿下だ。

「あぁ、向こうでカイゼルという兄弟にあった。シリルに言われたように、いきなり殴られるような事はなかったが、無性に私が彼を殴りたくて堪らなくなった。今までこんな事は一度も無かったのに‥、何故だろうな‥?」

「えーっ‥?分からないなっ。小さい時にでも、何かあったんじゃないの?」

 シリルはとぼけて答えるが、きっとユーリの中でカイゼル殿下の存在は、印象深い記憶と結びついているのだろう。それが、どんな嫌な記憶だったとしても。
 カイゼル殿下の方が、私よりもユーリに思い出してもらうのは早いかもしれないな。

 ″ピンポーンッ″

 インターフォンの音が室内に響く。
 室内設置のモニターを見ると、やはり、カイゼル殿下が映っていた。

「チッ、彼奴も来たか。まぁ、来てくれないとシードがどこにいるか分からないからな。仕方がない、入れてくれ。」

 品の良くないブラックユーリが出てくるのは、やはりカイゼル殿下に対してなんだな。
 ユーリが記憶を無くしても特別なままのカイゼル殿下が、少し羨ましいな。


 ◇◇◇



 リビングにカイゼル殿下がやってくると、一気に部屋が狭くなったような気がする。
 暑苦しい筋肉の鎧が、覇気が、穏やかな居住空間には強過ぎる。

「貴様だけ、ベランダにでも出たらどうだ?暑苦しくて敵わん。」

 やっぱりユーリはカイゼル殿下にだけ塩対応なんだ‥。

「クックックッ、その返しは変わらんな。思っていたより普通じゃないか。」

「何がだ?無駄口聞いていないで、早くシードを出せ。まさか閉じ込めてはいないだろうな。」

「お前じゃないし、そんな事はしない。そうだな、ヒントは年齢だな。大体の年齢は分かっているだろ?15~16歳くらいか。お前が日本で出会った人の中に、実はシードが居る。既にユーリはシードに会っているんだよ。気づかなかったか?」

!!!

 カイゼル殿下が凄いヒントを出してしまった。
 一体全体、どういうつもりなんだろう?
 もしかして、ここで私をシードだとバラし、イシュタニア王宮へ送った後に、魔導具を完成させて救出してくれる、とか?
 無駄な衝突を避けられる作戦だし、カイゼル殿下にはそれが可能だ。

「そうか‥。全く気が付かなかった。私とした事が‥とんだ道化だな。」

「ほうっ、やはり気づいたか。意外と近くに居ただろう?」

「あぁ、そうだな。異質な力を持っているとも分かっていたのに。どうして気が付かなかったか‥。
 ‥ステラ、私だ。‥塾の帰り道の護衛?そうか、良かったらそのまま連れて来てくれ。遅い時間なのにすまないな。事情は後で話す。」

 ま、待って!?
 ユーリはもしかして、凄い勘違いをしてるんじゃ?

「あのさ、ユーリ。もしかして今のは、使い魔の猫と話してた?」

「あぁ、シリルも気がついたか。そう、彼、蓮くんはシードだったんだよ。あんなに違う力を持っていたのに気が付かないなんて、私は愚かだった。これでは番人失格だ。」

 シリルが息を飲み、青ざめた顔をしている。

 リチャードは目を見開き小さな声で「えぇーっ‥。」と言い、カイゼル殿下は「仕方がないっ、バレたか。」と言って、頭を掻いている。

 蓮くんがシードだと勘違いしているのは明らかだけど、ユーリは確かに、
「番人」と言った。
 これでは「番人失格」だ、って。

 今までの事ごとが結びつき、腑に落ちてくる。

 何故、ユーリがシードに会う事に強くこだわっているのか。
 過去、ユーリが、ずっと待っていると言っていたのは誰だったのか。
 ユーリを待たせて、素知らぬ顔で自分勝手に生きて来たのは誰だったのか。

 ユーリは、私の全てを知った上で、受け入れて守ってくれていたのだ。
 番人として。

「はぁーっ。」

 馬鹿でっかいため息を吐いて、高い天井を見やりながら両手で目と額を覆う。

 今までの事ごとの種明かし。
 私から見えていた世界とユーリから見えていた世界は、まるで違っていたのだ。

「ミツリちゃん‥。」

 シリルがこちらにやってきて、私を隠すように斜め前に立つ。

「道化は私だよ。何も知らずにいてさ‥。ユーリの気持ちも考えずに、無理言ってばかりだったよ。ユーリも、言ってくれたら良かったのにね。」

 シリルにだけ聞こえるような声の大きさで愚痴を言う。

「彼の立場で番人だって言える?羊に自分が狼だって、バラすような物でしょう?怖がらせないように、馬のふりでもしてた方が賢明だよ。言わなかったのはきっとユーリ自身の為、だから。」

「そう‥。よくわからないけど、ユーリの判断だから間違いはなさそうだね。シリルは‥、知ってたの?ユーリが『番人』だっていうこと。」

「あぁ、あの時『水竜』を出したでしょ?水中に光の召喚陣を描いて。あんなこと、今の時代に出来る人間は『番人』くらいしかいないんだよ。シードを生きたまま永き眠りにつかせる秘匿魔術を習得した、水魔術の最高上位者だ。」

 そうか、そうなんだ。シリルは知っていたんだ。
 だからこそ、ユーリの記憶から私を消した。

「それにしても、凄い執着だよね。自身のアイデンティティみたいな物も絡んでいそうだよ。ずっと、番人として育てられて来たんだろうなぁって、凄みを感じた。」

「私は‥、そう言うことも知らないふりして、自分だけ楽に生きようとしてたんだよ‥。」

「わぁー、珍しくネガティブなミツリちゃんだね。そんなミツリちゃんも可愛い。」

 シリルに慰められているのが痛い程分かる。


 部屋が妙な空気感だ。

 蓮くんをシードだと勘違いしているユーリ。

 そもそも、この話を持ち出したカイゼル殿下は蓮くんに会った事は無いし、今の状況が分かってはいないのだろう。
 ユーリが私をシードだと知って納得したのだと、こちらも勘違いだ。

 リチャードとシリルは、全て知った上で、「蓮くんに任せた。」とか言ってるし。

 時計を見ると、もう夜9時を過ぎている。
 全てを早く終わらせて、蓮くんを帰してあげたい。


 ″ピンポーンッ″

 来たっ!モニターに映るのは蓮くんだ。
 スピーカー越しに「こんばんわーっ」と聞こえてくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

処理中です...