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出会う
今度こそ
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私の胸に飾られていたバラのペンダント。
死に戻ってから、その色を白から青へと変えた母からのプレゼント。
兄も父も誰も気づかない……ペンダントの色が変わったことも、私が時間を巻き戻ってきたことも。
なのに…………。
「アンリエッタ……。あなた、色が変わったこと……わかるの?」
目を見開き震える声で私が問うと、アンリエッタは目を細めてバラのペンダントを凝視した。
「うう~ん。色……あったかしら? なんだか不思議だけど、今のあなたにはその色が似合うとは思うのよ? でも……おばさまから貰ったときは違った気がするわ」
「……ええ、そうよ」
私は大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。
そして、決める。
アンリエッタに、兄にすべてを話そうと。
どうか、この決断があの恐ろしいことに繋がらないように。
「アンリエッタ、お兄様、聞いてほしいことがあるの。たぶん、信じてもらえないわ。それでも……お願い、話を聞いてちょうだい」
ペンダントを握りしめ、振り絞るような私のか細い声を聞いた二人は、大きく頷いてくれた。
「ええ、聞くわ。そして信じるわ。だって私たちずっと一緒だったのよ!」
「ああ。是非とも聞かせてくれ。そして、シャルロットの苦しみを僕にも分けておくれ」
じわっと目が熱く濡れる。
きっと、あの悲劇を回避してみせるわ。
絶対に、あなたたちを守ってみせる。
夢かもしれないと前置きをして、前の時間の話をポツポツと話した。
アンリエッタは、私の話の重要さを感じ取ったのか、話し始める前に使用人たちを部屋から追い出し、扉前に護衛騎士を配置して部屋に誰も入らないようにした。
三人の零すため息のみが、部屋に静かに満ちていく。
「まさか……。そんなことが」
アンリエッタは、両手で口を覆い緩く頭を振る。
「僕が……処刑?」
命が尽きる、それも他人の手によって、犯してもいない罪によって。
兄は長い前髪を何度も掻き上げて、口を引き結ぶ。
「ごめんなさい。細かい事情はわからないの。王都にはいたんだけど……」
公爵家に嫁いでからは、屋敷に閉じ込められ夫には無視され、使用人からは虐げられていたから、世情については子爵家で生活していたときと変らない程度にしか知らなかった。
「そうよ。どうして知らないの? あなた、王都にいたんでしょう? 私から噂話を聞いたり、お茶会やパーティーの社交界で事情は伝わっていたんじゃないの?」
「そ、それが……。私とアンリエッタは、私の結婚を機に仲違いをしてしまって、交流がなかったの」
アンリエッタからの鋭い指摘に、私は口籠りながら言い訳をした。
彼女は私と仲違いをしたと聞き、ちょっと驚いた顔をしてみせた。
「シャルロット。たとえ、僕が何かの理由で王太子妃を毒殺したとしても、すぐに処刑になるのはおかしいし。そんな重大な罪を犯して父が捕縛されていないのはもっとおかしい」
「ですよね」
でも、前の時間では兄の処刑は王太子妃が死んで数日のうちに決行されたみたいだったし、顔を合わせてはいないが私が崖から落ちた日、あの燃える子爵屋敷の中に父はいたと思う。
「もっとおかしいのは、なんでサミュエル様が結婚しているのよ! それもオレリアっていう知らない人と!」
ズイッとアンリエッタが身を乗り出して抗議するが、それは私が知りたいわ。
「僕もオレリアなんて女性は知らないよ? 調合ができる女性なんて聞いたこともないし……調合なら僕ができるから助手としても必要ではない」
兄は頭をブルンと振って結婚するだろう女性との関係を否定し、調合助手についても拒絶した。
やっぱりそうなんだと、私は納得した。
兄は薬草を育てるのも得意だが、その薬効を抽出する技術、調合のセンスもズバ抜けていると思う。
薬関係は隣国の男爵令嬢だった母の影響ではあるが、残念なことに私には受け継がれなかった。
私が母から受け継がれなかったのは、もう一つある。
「もしかして、お兄様の美貌に寄ってきたのかしら? オレリアって第二王子と友人か何かみたいだし」
そう、兄は長い前髪で隠しているが、とても繊細で美しい顔をしている。
妹の私と幼馴染のアンリエッタは見慣れてしまったが、幼いときに寄り親の侯爵家でのお茶会で兄を取り合い幼い淑女たちがとっくみ合いの喧嘩を始めたのがトラウマとなり、それ以降兄は顔を隠している。
先ほど、何度も前髪を掻き上げていたので、いまはその麗しい顔もハッキリと見えてしまっている。
「あー、サミュエル様のお顔を見たことがある女性が無理やり結婚を迫る可能性はあるわね」
フンッと鼻息を荒くしたアンリエッタは、ゴソゴソと何枚かの紙を出してきた。
「シャルロットが、ううん、アルナルディ家が何かの企みで陥れられたとして、シャルロットが思う関係者はこいつらなのよね?」
アンリエッタ、こいつらって、一応我が国の第二王子と貴族子息たちよ?
「王族が絡むのは、これからのことを考えると頭が痛いな」
私は兄の言葉に大きく頷く。
貧乏子爵の私たちと、この国では無難な商売しか展開していない子爵家の末っ子で対処するには、ちょっと敵が強大すぎるわよね?
それよりも……。
「アンリエッタも、お兄様も、私の話を信じてくださるの? 正直、とんでもない話よ?」
私の言葉にアンリエッタと兄は互いの顔を見合わせ、「ふふふ」と笑い出した。
「な、なによっ」
「だって、私の知っているシャルロットは、お上品な言葉遣いもしないし、音を立てずにお茶も飲まないわ。それに、私に嘘は吐かない」
「僕のかわいい妹は、人が死ぬなんてことを冗談でも言わないよ。ずっと元気がないよう見えて心配していたんだ。前の時間の僕が守ってあげれずごめんね。苦しませてしまった。今度は大丈夫だよ。いざとなったら父上と一緒に逃げてしまおう」
ニコッとなんでもないように軽い口調で二人が言うから、私は泣きながら口元が弛んでしまった。
「まあ、サミュエル様。そのときは私も一緒に行きますわ。ニヴェール子爵家が営んでいる商会がある国なら、どうにでもなるし」
「おお、それは頼りになるね!」
「ふふふ。ふふふ………ハハハハハ。もう、もうもう! 二人ったら、笑いごとじゃないのよ」
二人を嗜める言葉を吐きながら、私も声を立てて笑った。
泣きながら、笑った。
そして、改めて誓うわ。
絶対に、今度こそ守ってみせる!
死に戻ってから、その色を白から青へと変えた母からのプレゼント。
兄も父も誰も気づかない……ペンダントの色が変わったことも、私が時間を巻き戻ってきたことも。
なのに…………。
「アンリエッタ……。あなた、色が変わったこと……わかるの?」
目を見開き震える声で私が問うと、アンリエッタは目を細めてバラのペンダントを凝視した。
「うう~ん。色……あったかしら? なんだか不思議だけど、今のあなたにはその色が似合うとは思うのよ? でも……おばさまから貰ったときは違った気がするわ」
「……ええ、そうよ」
私は大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。
そして、決める。
アンリエッタに、兄にすべてを話そうと。
どうか、この決断があの恐ろしいことに繋がらないように。
「アンリエッタ、お兄様、聞いてほしいことがあるの。たぶん、信じてもらえないわ。それでも……お願い、話を聞いてちょうだい」
ペンダントを握りしめ、振り絞るような私のか細い声を聞いた二人は、大きく頷いてくれた。
「ええ、聞くわ。そして信じるわ。だって私たちずっと一緒だったのよ!」
「ああ。是非とも聞かせてくれ。そして、シャルロットの苦しみを僕にも分けておくれ」
じわっと目が熱く濡れる。
きっと、あの悲劇を回避してみせるわ。
絶対に、あなたたちを守ってみせる。
夢かもしれないと前置きをして、前の時間の話をポツポツと話した。
アンリエッタは、私の話の重要さを感じ取ったのか、話し始める前に使用人たちを部屋から追い出し、扉前に護衛騎士を配置して部屋に誰も入らないようにした。
三人の零すため息のみが、部屋に静かに満ちていく。
「まさか……。そんなことが」
アンリエッタは、両手で口を覆い緩く頭を振る。
「僕が……処刑?」
命が尽きる、それも他人の手によって、犯してもいない罪によって。
兄は長い前髪を何度も掻き上げて、口を引き結ぶ。
「ごめんなさい。細かい事情はわからないの。王都にはいたんだけど……」
公爵家に嫁いでからは、屋敷に閉じ込められ夫には無視され、使用人からは虐げられていたから、世情については子爵家で生活していたときと変らない程度にしか知らなかった。
「そうよ。どうして知らないの? あなた、王都にいたんでしょう? 私から噂話を聞いたり、お茶会やパーティーの社交界で事情は伝わっていたんじゃないの?」
「そ、それが……。私とアンリエッタは、私の結婚を機に仲違いをしてしまって、交流がなかったの」
アンリエッタからの鋭い指摘に、私は口籠りながら言い訳をした。
彼女は私と仲違いをしたと聞き、ちょっと驚いた顔をしてみせた。
「シャルロット。たとえ、僕が何かの理由で王太子妃を毒殺したとしても、すぐに処刑になるのはおかしいし。そんな重大な罪を犯して父が捕縛されていないのはもっとおかしい」
「ですよね」
でも、前の時間では兄の処刑は王太子妃が死んで数日のうちに決行されたみたいだったし、顔を合わせてはいないが私が崖から落ちた日、あの燃える子爵屋敷の中に父はいたと思う。
「もっとおかしいのは、なんでサミュエル様が結婚しているのよ! それもオレリアっていう知らない人と!」
ズイッとアンリエッタが身を乗り出して抗議するが、それは私が知りたいわ。
「僕もオレリアなんて女性は知らないよ? 調合ができる女性なんて聞いたこともないし……調合なら僕ができるから助手としても必要ではない」
兄は頭をブルンと振って結婚するだろう女性との関係を否定し、調合助手についても拒絶した。
やっぱりそうなんだと、私は納得した。
兄は薬草を育てるのも得意だが、その薬効を抽出する技術、調合のセンスもズバ抜けていると思う。
薬関係は隣国の男爵令嬢だった母の影響ではあるが、残念なことに私には受け継がれなかった。
私が母から受け継がれなかったのは、もう一つある。
「もしかして、お兄様の美貌に寄ってきたのかしら? オレリアって第二王子と友人か何かみたいだし」
そう、兄は長い前髪で隠しているが、とても繊細で美しい顔をしている。
妹の私と幼馴染のアンリエッタは見慣れてしまったが、幼いときに寄り親の侯爵家でのお茶会で兄を取り合い幼い淑女たちがとっくみ合いの喧嘩を始めたのがトラウマとなり、それ以降兄は顔を隠している。
先ほど、何度も前髪を掻き上げていたので、いまはその麗しい顔もハッキリと見えてしまっている。
「あー、サミュエル様のお顔を見たことがある女性が無理やり結婚を迫る可能性はあるわね」
フンッと鼻息を荒くしたアンリエッタは、ゴソゴソと何枚かの紙を出してきた。
「シャルロットが、ううん、アルナルディ家が何かの企みで陥れられたとして、シャルロットが思う関係者はこいつらなのよね?」
アンリエッタ、こいつらって、一応我が国の第二王子と貴族子息たちよ?
「王族が絡むのは、これからのことを考えると頭が痛いな」
私は兄の言葉に大きく頷く。
貧乏子爵の私たちと、この国では無難な商売しか展開していない子爵家の末っ子で対処するには、ちょっと敵が強大すぎるわよね?
それよりも……。
「アンリエッタも、お兄様も、私の話を信じてくださるの? 正直、とんでもない話よ?」
私の言葉にアンリエッタと兄は互いの顔を見合わせ、「ふふふ」と笑い出した。
「な、なによっ」
「だって、私の知っているシャルロットは、お上品な言葉遣いもしないし、音を立てずにお茶も飲まないわ。それに、私に嘘は吐かない」
「僕のかわいい妹は、人が死ぬなんてことを冗談でも言わないよ。ずっと元気がないよう見えて心配していたんだ。前の時間の僕が守ってあげれずごめんね。苦しませてしまった。今度は大丈夫だよ。いざとなったら父上と一緒に逃げてしまおう」
ニコッとなんでもないように軽い口調で二人が言うから、私は泣きながら口元が弛んでしまった。
「まあ、サミュエル様。そのときは私も一緒に行きますわ。ニヴェール子爵家が営んでいる商会がある国なら、どうにでもなるし」
「おお、それは頼りになるね!」
「ふふふ。ふふふ………ハハハハハ。もう、もうもう! 二人ったら、笑いごとじゃないのよ」
二人を嗜める言葉を吐きながら、私も声を立てて笑った。
泣きながら、笑った。
そして、改めて誓うわ。
絶対に、今度こそ守ってみせる!
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