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つまり、魔力が内臓の代わりとして機能した期間が長ければ長いほど、魔力の消失が命の消失となる。
「お兄様が言いたいのは、ミレイユ様は罹患期間が短いから、まだ体の機能を取り戻せるということ?」
「ああ、そうだよ。体にいい食べ物を食べて運動をして。そうすればミレイユ嬢の年齢を考えても大丈夫じゃないかな?」
これが、何か月も眠ったままの重症者だと難しいらしい。
「たぶん、サミュエル様の考えは正しいと思います。忘れてたわ。体ってこんなに軽くて、頭はこんなにスッキリとしていたのね」
ミレイユ様が輝くばかりの笑顔を私たちに向ける。
「すごいぞ。この飴を広めれば夢魔病の患者たちも喜ぶだろう」
あ……、イレール様の言葉に私の心臓はギュッと締め付けられた。
「モルヴァン公爵家が支援しよう。なんでも言ってくれ。必要なものはすべて揃える」
「……えっと、えー、実はですね、僕は今、学園の卒業論文で発表したい別の薬がありまして……ちょっと、時間がたりません」
「え?」
私は信じられない気持ちで兄の横顔を見つめた。
公爵家ですわよ?
ほとんど王族ですわ。
その誘いを貧乏子爵家の嫡男が断った?
「それに、確かに薬を完成させるには資金が必要ですが、まずこの吸魔草が栽培できるかどうかから始まります。あと薬が調合できたあとの治験者集めですね。罹る人は貴族に多いですが、病気であることを隠す人も多いですし、治験に名乗り出る方も稀有な方ですよね?」
そうよねぇ。
貴族なら、治験が済んだ完璧な薬を用意しろって喚くわよ。
あと、政敵に食われないように病気であることを秘匿するなんて、よくある話だわ。
「そうか……治験は難しいかもしれないな」
イレール様が考え込んでしまった。
前の時間では、治験者を第二王子の権力で無理やり集めたのよね。
もしかしたら、あの女が何か裏で手を回したのかもしれないけど。
「あ、あの! わたくしではダメですか? わたくしの体を使ってください」
ミレイユ様がグイッと身を乗り出した。
兄は驚きで目を見開いたあと、キョドキョドと目を泳がす。
そ、そうよね……ここでうっかりと頷いてしまったら、第二王子の耳に入って薬を作らされて、あの女と兄が結婚して、そして、そして。
ギュッとスカートを握りしめると、私の手の上にそっとアンリエッタの手が重なる。
彼女は優しく私に微笑むと、あのモルヴァン公爵子息に向かって交渉を始めたのだ。
結局、アンリエッタは微妙なラインの情報をイレール様に話し、夢魔病の薬はモルヴァン公爵家支援の元こっそりと秘密に研究することに決定した。
な
ので、身分を考えると怖いがミレイユ様が治験者として協力してくれることになった。
イレール様は不満そうだったけど、ミレイユ様が強行突破したのだ。
「わたくし、この病に負けたくありません。もっともっとやりたいことがあるのです。このまま短い命をディオン殿下の拗れた兄弟喧嘩の犠牲にしたくありませんわ!」
「ミレイユ!」
軽く兄弟喧嘩と言うが、果てには無関係なアルナルディ家が滅亡するので、切実にやめてほしい。
「ミレイユ様が第二王子殿下の手に落ちますと、ますます問題が拗れますわ。サミュエル様も囲い込まれてしまえば、イレール様だって身動きができませんのよ?」
アンリエッタのイレール様たちを心配する憂い顔に当事者は声を詰まらせるが、私は彼女が心の中でニタリとほくそ笑んでいるのがわかる。
こうして、兄は学園では既に利用されている風邪薬の補助剤の論文の作成に集中し、とにかく第二王子との関わりを避ける。
私とアンリエッタは学園では目立たないようにして、兄が隠れて作成する夢魔病の薬の研究の手伝い。
イレール様は、念のため第一王子殿下に報告して助力を求める。
第二王子がイレール様を味方に引き込むための人質として、ミレイユ様との婚約を結ばせないこと。
兄の作る薬や調剤の知識を悪用しないため、第二王子の側に控えるオレリアの監視。
「特にこのオレリアという女生徒には気をつけてください。そして、オレリアを支援しているジョルダン伯爵家も」
「……その平民の生徒の話はフルール嬢から話を聞いたことがあるが、支援しているのは孤児院のある領地の領主だったはずだが?」
イレール様の問にアンリエッタは厳しい顔つきで頭を横に振った。
「いいえ。たしかにその領主の推薦で学園に入学していますが、その後の支援を行っているのはジョルダン伯爵家です。でも……彼女とジョルダン伯爵家との関係はわかっていません」
……前の時間では、彼女は学園を卒業したあとジョルダン伯爵家の養女となっていた。
「ジョルダン伯爵家……。特に問題があるとは聞いていないが良い家だとも聞いていない。不自然なほどその存在を消している。強いて言えば船を持っていて他国との交易が盛んなところか……」
ええ、前の時間ではあの家から違法薬物に使う薬草が持ち込まれていたと思う。
その薬草を兄とオレリアで調合し、精神に作用する薬物を作り、周りにバラまいていたんだわ。
「ふむ。わかった、ジュリアンにはサミュエル殿こととジョルダン伯爵家のことを伝えておく。もしかしたらジョルダン伯爵家に探りを入れるかもしれないな」
イレール様の目が獲物を見つけたようにギラリと光った。
「お兄様が言いたいのは、ミレイユ様は罹患期間が短いから、まだ体の機能を取り戻せるということ?」
「ああ、そうだよ。体にいい食べ物を食べて運動をして。そうすればミレイユ嬢の年齢を考えても大丈夫じゃないかな?」
これが、何か月も眠ったままの重症者だと難しいらしい。
「たぶん、サミュエル様の考えは正しいと思います。忘れてたわ。体ってこんなに軽くて、頭はこんなにスッキリとしていたのね」
ミレイユ様が輝くばかりの笑顔を私たちに向ける。
「すごいぞ。この飴を広めれば夢魔病の患者たちも喜ぶだろう」
あ……、イレール様の言葉に私の心臓はギュッと締め付けられた。
「モルヴァン公爵家が支援しよう。なんでも言ってくれ。必要なものはすべて揃える」
「……えっと、えー、実はですね、僕は今、学園の卒業論文で発表したい別の薬がありまして……ちょっと、時間がたりません」
「え?」
私は信じられない気持ちで兄の横顔を見つめた。
公爵家ですわよ?
ほとんど王族ですわ。
その誘いを貧乏子爵家の嫡男が断った?
「それに、確かに薬を完成させるには資金が必要ですが、まずこの吸魔草が栽培できるかどうかから始まります。あと薬が調合できたあとの治験者集めですね。罹る人は貴族に多いですが、病気であることを隠す人も多いですし、治験に名乗り出る方も稀有な方ですよね?」
そうよねぇ。
貴族なら、治験が済んだ完璧な薬を用意しろって喚くわよ。
あと、政敵に食われないように病気であることを秘匿するなんて、よくある話だわ。
「そうか……治験は難しいかもしれないな」
イレール様が考え込んでしまった。
前の時間では、治験者を第二王子の権力で無理やり集めたのよね。
もしかしたら、あの女が何か裏で手を回したのかもしれないけど。
「あ、あの! わたくしではダメですか? わたくしの体を使ってください」
ミレイユ様がグイッと身を乗り出した。
兄は驚きで目を見開いたあと、キョドキョドと目を泳がす。
そ、そうよね……ここでうっかりと頷いてしまったら、第二王子の耳に入って薬を作らされて、あの女と兄が結婚して、そして、そして。
ギュッとスカートを握りしめると、私の手の上にそっとアンリエッタの手が重なる。
彼女は優しく私に微笑むと、あのモルヴァン公爵子息に向かって交渉を始めたのだ。
結局、アンリエッタは微妙なラインの情報をイレール様に話し、夢魔病の薬はモルヴァン公爵家支援の元こっそりと秘密に研究することに決定した。
な
ので、身分を考えると怖いがミレイユ様が治験者として協力してくれることになった。
イレール様は不満そうだったけど、ミレイユ様が強行突破したのだ。
「わたくし、この病に負けたくありません。もっともっとやりたいことがあるのです。このまま短い命をディオン殿下の拗れた兄弟喧嘩の犠牲にしたくありませんわ!」
「ミレイユ!」
軽く兄弟喧嘩と言うが、果てには無関係なアルナルディ家が滅亡するので、切実にやめてほしい。
「ミレイユ様が第二王子殿下の手に落ちますと、ますます問題が拗れますわ。サミュエル様も囲い込まれてしまえば、イレール様だって身動きができませんのよ?」
アンリエッタのイレール様たちを心配する憂い顔に当事者は声を詰まらせるが、私は彼女が心の中でニタリとほくそ笑んでいるのがわかる。
こうして、兄は学園では既に利用されている風邪薬の補助剤の論文の作成に集中し、とにかく第二王子との関わりを避ける。
私とアンリエッタは学園では目立たないようにして、兄が隠れて作成する夢魔病の薬の研究の手伝い。
イレール様は、念のため第一王子殿下に報告して助力を求める。
第二王子がイレール様を味方に引き込むための人質として、ミレイユ様との婚約を結ばせないこと。
兄の作る薬や調剤の知識を悪用しないため、第二王子の側に控えるオレリアの監視。
「特にこのオレリアという女生徒には気をつけてください。そして、オレリアを支援しているジョルダン伯爵家も」
「……その平民の生徒の話はフルール嬢から話を聞いたことがあるが、支援しているのは孤児院のある領地の領主だったはずだが?」
イレール様の問にアンリエッタは厳しい顔つきで頭を横に振った。
「いいえ。たしかにその領主の推薦で学園に入学していますが、その後の支援を行っているのはジョルダン伯爵家です。でも……彼女とジョルダン伯爵家との関係はわかっていません」
……前の時間では、彼女は学園を卒業したあとジョルダン伯爵家の養女となっていた。
「ジョルダン伯爵家……。特に問題があるとは聞いていないが良い家だとも聞いていない。不自然なほどその存在を消している。強いて言えば船を持っていて他国との交易が盛んなところか……」
ええ、前の時間ではあの家から違法薬物に使う薬草が持ち込まれていたと思う。
その薬草を兄とオレリアで調合し、精神に作用する薬物を作り、周りにバラまいていたんだわ。
「ふむ。わかった、ジュリアンにはサミュエル殿こととジョルダン伯爵家のことを伝えておく。もしかしたらジョルダン伯爵家に探りを入れるかもしれないな」
イレール様の目が獲物を見つけたようにギラリと光った。
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