68 / 68
終焉と始まり
やがて愛に育つ
しおりを挟む
母の温室の奥、端っこの場所に埋められいたバラのペンダントトップは、なぜかそれを見つけたイレール様へと譲られた。
とっても不本意だったのだけれど、なぜかそれが母の意思だったような気がして……あと、イレール様の熱意に負けました。
日が暮れる頃、父とニヴェール子爵家へ出かけていった兄も、アンリエッタとの婚約話がうまく纏まったみたいで上機嫌で帰ってきたわ。
「え? 温室に他の色のペンダントトップがあったって?」
「そうなの。たまたま訪れていたイレール様が見つけて。ものすっごく欲しがるからそのまま持ち帰ってもらったのだけど、まずかったかしら?」
アルナルディ家の細やかな晩餐のとき、父と兄へバラのペンダントトップのことを報告したら、二人ともピタリと食事の手を止めてしまった。
どうしたのかしら?
「シャルロット。母上はヴォルチエ国の出身で、魔法が使えるのは知っているね?」
「はい、お父様。でもそれが何か?」
こてんと首を傾げる私の姿に、父は思いっきり息を吐いた。
「シャルロット。アンリエッタは母上からペンダントトップをプレゼントされていた。たぶん、母上はいずれ僕とアンリエッタが結婚して家族になることがわかっていたんだと思うよ」
兄が小さい子供に言い聞かすように、丁寧に説明をしてくれたけど、私だってわかっています。
「アンリエッタの場合は予想がつきますわ。満足な支度金も用意ができない貧乏子爵家に嫁入りしてくれる貴族子女なんてアンリエッタぐらいですもの」
私の正直な意見に貧乏子爵家当主の父は落ち込んでしまったみたい。
でも、アンリエッタのことは母の魔法とは関係ないと思うわ。
兄と結婚する未来なんて、私たちの家の事情を知る者なら予想ができるもの。
「……しかし、よりにもよってモルヴァン公爵家のイレール様に渡ってしまうなんて……。カティンカの予言でないことを祈るしかないのか」
「お父様……。さすがの私でもモルヴァン公爵家の嫡男様と縁が結ばれたとは思っていませんわ。ちゃんとイレール様には持参金が用意できないことと、お兄様が結婚したら家を出て働きに出ることもお話しましたもの」
少し胸を張って自慢げに話したら、お父様がシクシクと泣き出してしまった。
だって、持参金が用意できないのは本当のことでしょう?
「ところでシャルロット。イレール様にお渡ししたバラの色は何色だったの?」
「紫色でしたわ」
父が教えてくれた紫色のバラの意味は「気品」「尊敬」だった。
そうね、私はイレール様を尊敬している。
そう強く思って、芽生え蕾を膨らまし始めた気持ちを押さえこんだ。
私はね。
数年後……。
無事に兄とアンリエッタは結婚式を挙げ、アルナルディ家に家族が増えた。
ついでにニヴェールのおじさまがアンリエッタのために使用人も雇ってくれたのがすごく嬉しかったわ。
兄は領地経営を父から学びながら、夢魔病の薬を完成させる。
薬の論文とミレイユ様の夢魔病完治の症例を評価され、兄がアルナルディ子爵を継ぎ、爵位も子爵から伯爵へと陞爵された。
兄は「いや、この陞爵はイレール様の策略だろう」とわけのわからないことを呟いていたけど、喜ばしいことだわ!
伯爵になっても節約重視の生活は変わらない中、兄の作った薬やアンリエッタが開発した肌の弱い人向けの石鹸や化粧水などが評判を呼び、少しずつだがアルナルディ家の財政は改善されつつある。
父や兄は私の結婚話にも積極的になったけど、いくら幾何かの持参金が用意できるようになったといっても無駄使いよね?
「私の持参金はもったいないのでいりません。そろそろアルナルディ家を出てどこかの貴族家へ働きにでます」
むんっと両手の拳を握って力説すること数回、その度に父や兄、義姉となったアンリエッタに止められたけど、そろそろいいでしょう?
「ど、どうしてこうなったのかしら?」
春の暖かい日、色鮮やかな花に囲まれて、私は白いドレスを身に纏い、教会にいた。
おかしいわ、フルール様に侍女は無理でもどこかメイドとして雇ってもらう口利きをお願いしたのに。
私の隣には、白い礼服を着たあなた。
この式は前の時間でも経験したのに、二人の衣装もほとんど同じなのに……どうしてかしら?
冷たい表情で口を引き結び、私になど視線も送らなかったあなたが、とても緊張した面持ちで誓いの言葉を口にしている。
前の時間で私たちの結婚を企てた第二王子やオレリアたちの代わりに、王太子になられたジュリアン様とフルール様が列席されていて、前回は欠席されていたモルヴァン公爵家の方たちもミレイユ様も含めてご出席されていた。
「……シャルロット?」
「っ! ち、誓います」
イレール様の不安げな声に、私は裏返った声で愛を誓った。
私の胸には青いバラのペンダントが煌めき、イレール様のタイには紫色のバラが咲いている。
このバラは決して枯れることなく、私たちの幸せを見守っていてくれるだろう。
◆◇◆◆◇◆
完結です。
ここまで拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございました。
とっても不本意だったのだけれど、なぜかそれが母の意思だったような気がして……あと、イレール様の熱意に負けました。
日が暮れる頃、父とニヴェール子爵家へ出かけていった兄も、アンリエッタとの婚約話がうまく纏まったみたいで上機嫌で帰ってきたわ。
「え? 温室に他の色のペンダントトップがあったって?」
「そうなの。たまたま訪れていたイレール様が見つけて。ものすっごく欲しがるからそのまま持ち帰ってもらったのだけど、まずかったかしら?」
アルナルディ家の細やかな晩餐のとき、父と兄へバラのペンダントトップのことを報告したら、二人ともピタリと食事の手を止めてしまった。
どうしたのかしら?
「シャルロット。母上はヴォルチエ国の出身で、魔法が使えるのは知っているね?」
「はい、お父様。でもそれが何か?」
こてんと首を傾げる私の姿に、父は思いっきり息を吐いた。
「シャルロット。アンリエッタは母上からペンダントトップをプレゼントされていた。たぶん、母上はいずれ僕とアンリエッタが結婚して家族になることがわかっていたんだと思うよ」
兄が小さい子供に言い聞かすように、丁寧に説明をしてくれたけど、私だってわかっています。
「アンリエッタの場合は予想がつきますわ。満足な支度金も用意ができない貧乏子爵家に嫁入りしてくれる貴族子女なんてアンリエッタぐらいですもの」
私の正直な意見に貧乏子爵家当主の父は落ち込んでしまったみたい。
でも、アンリエッタのことは母の魔法とは関係ないと思うわ。
兄と結婚する未来なんて、私たちの家の事情を知る者なら予想ができるもの。
「……しかし、よりにもよってモルヴァン公爵家のイレール様に渡ってしまうなんて……。カティンカの予言でないことを祈るしかないのか」
「お父様……。さすがの私でもモルヴァン公爵家の嫡男様と縁が結ばれたとは思っていませんわ。ちゃんとイレール様には持参金が用意できないことと、お兄様が結婚したら家を出て働きに出ることもお話しましたもの」
少し胸を張って自慢げに話したら、お父様がシクシクと泣き出してしまった。
だって、持参金が用意できないのは本当のことでしょう?
「ところでシャルロット。イレール様にお渡ししたバラの色は何色だったの?」
「紫色でしたわ」
父が教えてくれた紫色のバラの意味は「気品」「尊敬」だった。
そうね、私はイレール様を尊敬している。
そう強く思って、芽生え蕾を膨らまし始めた気持ちを押さえこんだ。
私はね。
数年後……。
無事に兄とアンリエッタは結婚式を挙げ、アルナルディ家に家族が増えた。
ついでにニヴェールのおじさまがアンリエッタのために使用人も雇ってくれたのがすごく嬉しかったわ。
兄は領地経営を父から学びながら、夢魔病の薬を完成させる。
薬の論文とミレイユ様の夢魔病完治の症例を評価され、兄がアルナルディ子爵を継ぎ、爵位も子爵から伯爵へと陞爵された。
兄は「いや、この陞爵はイレール様の策略だろう」とわけのわからないことを呟いていたけど、喜ばしいことだわ!
伯爵になっても節約重視の生活は変わらない中、兄の作った薬やアンリエッタが開発した肌の弱い人向けの石鹸や化粧水などが評判を呼び、少しずつだがアルナルディ家の財政は改善されつつある。
父や兄は私の結婚話にも積極的になったけど、いくら幾何かの持参金が用意できるようになったといっても無駄使いよね?
「私の持参金はもったいないのでいりません。そろそろアルナルディ家を出てどこかの貴族家へ働きにでます」
むんっと両手の拳を握って力説すること数回、その度に父や兄、義姉となったアンリエッタに止められたけど、そろそろいいでしょう?
「ど、どうしてこうなったのかしら?」
春の暖かい日、色鮮やかな花に囲まれて、私は白いドレスを身に纏い、教会にいた。
おかしいわ、フルール様に侍女は無理でもどこかメイドとして雇ってもらう口利きをお願いしたのに。
私の隣には、白い礼服を着たあなた。
この式は前の時間でも経験したのに、二人の衣装もほとんど同じなのに……どうしてかしら?
冷たい表情で口を引き結び、私になど視線も送らなかったあなたが、とても緊張した面持ちで誓いの言葉を口にしている。
前の時間で私たちの結婚を企てた第二王子やオレリアたちの代わりに、王太子になられたジュリアン様とフルール様が列席されていて、前回は欠席されていたモルヴァン公爵家の方たちもミレイユ様も含めてご出席されていた。
「……シャルロット?」
「っ! ち、誓います」
イレール様の不安げな声に、私は裏返った声で愛を誓った。
私の胸には青いバラのペンダントが煌めき、イレール様のタイには紫色のバラが咲いている。
このバラは決して枯れることなく、私たちの幸せを見守っていてくれるだろう。
◆◇◆◆◇◆
完結です。
ここまで拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございました。
189
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私
青空一夏
恋愛
妹が大嫌いな姉が仕組んだ身勝手な計画にまんまと引っかかった妹の不幸な結婚生活からの恋物語。ハッピーエンド保証。
中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。魔法のある世界。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白くて一気に読みました。
亡くなっていて回想シーンでもほぼ登場しないのにお母様の存在感がすごい。
それから研究肌で浮世離れしてそうなお兄様が色々考えているところは意外性あって、終盤のオレリアとの対話シーンとか個人的に好きでした。
ただ52話で王室から招待される手紙もらったあとどうなったかわからなかったり、66話で温室シーンから兄の部屋割りに場面が移ったかと思ったら次の話でまた温室に戻ってるところが気になりました。
読解力不足だったらすいません…。