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昔話を聞きました
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私は黙々と出されたご飯を食べているフリして、ふたりの昔話を聞くことにした。
リオネルは・・・、うん、食べるのに夢中で何も気づいてないわ。
宿屋の女主人のお祖父さんは、それなりの冒険者だった。
昔、ある土地のダンジョンから魔獣が溢れ出したとき、その討伐隊の一員として作戦に参加していた。
このダンジョンのスタンピードが、ゴダール男爵が貴族位を貰うことになった事件だ。
ローズさんのお祖父さんは怪我をして絶体絶命のときに、ゴダールさんに助けてもらい、尚且つ怪我が酷くて動けず逃げ出す冒険者たちが多い中で死を覚悟したときも、ゴダールさんの活躍でスタンピードを最小限の被害で抑えることができ、命拾いをした。
その後、その怪我が元で冒険者を辞めて、どうしようか迷ったときに領地に誘ってくれたのもゴダールさんだった。
いい人だったんだね?ゴダールさんって。
今の男爵のお祖父さんだから、先々代の男爵様ですな。
ゴダールさんの冒険者パーティーは3人で、孤児院で育った幼馴染同士。
ゴダールさんが剣士で後のゴダール男爵夫人になる女性が回復士、そしてナタンの父親が魔導士。
ナタンの父親はゴダールさんと同じ孤児院で育った孤児同士で、血の繋がりは無い。
しかも、そのダンジョンのスタンピードの際、倒しても倒しても溢れ出てくる魔獣に恐れをなし、一目散に逃げだしたそうだ。
ゴダールさんも本当は逃げたかったかもしれないが、パーティーメンバー以外も回復しまくっていた恋人が、魔力枯渇でその場を動けなくなっていて自分ひとりで逃げることはできないから、やけくそでダンジョンに突っ込んで行ったそうな。
・・・火事場のクソ力的な何かだったのかな?まあ、終わりよければ全て良し!だよね。
ローズさんみたいに、この町にはゴダールさんに助けられた冒険者や奥様に怪我を治してもらったダンジョン近くの村人の子孫が多く移住しており、土地は小さいがまとまりの良い穏やかな領地だったらしい。
そこへ、先代男爵夫妻の急逝とラウル男爵の海難事故からの消息不明。
突然現れたゴダール男爵の血縁者というナタンとゴロツキ共。
ラウルと結婚した平民のブリジット様の懐妊と出産、しかし姿を現さないブリジット様とその子供。
ローズさんは疲れたように、深く息を吐いた。
「そのうえ、余所者が仕切りだして、町に入ることも出ることもできなくなるし・・・」
「ああ、頼りの冒険者ギルドも扉を閉ざして無人だし。ギルマスたちもどこに行ったのか、家にも居やがらない」
ビックン。
あ、反応しちゃった。
え?ええ?
冒険者ギルドって誰もいないの?それどころか、扉が閉ざされているってどういう状況?
ギルマスも行方不明?
じゃあ、他の冒険者ギルドからの連絡に応えていたのは、誰?
でも、ここでその質問は発せない。
私は、冒険者の保護者と離された健気な子供だし・・・ここら辺の事情に詳しかったら怪しいし・・・もう少し男爵領の情報とか欲しいし。
スプーンを齧ったまま、ダラダラと内心冷や汗を垂らしていると、私の横からピュアな声が。
「おかわりーっ!」
・・・リオネル、あんたって子は・・・。
「はいはい。お嬢ちゃんはどうする?」
「あ・・・ごちそうさまでした」
私はペコリと頭を下げる。
「そう。じゃあジュースでも出してあげましょうね」
「ありがとうございます」
申し訳ないと思う私の横で「ぼくも!」と催促するんじゃありませんっ!
「何やってんだ?」
「ひいーっ。見てないで助けてください!」
セヴランの尻尾に噛みついているのはバトルホースだ。
どうやら、ブラッシングが気に入らなかったらしい。
「ひんひん。しょうがないでしょ。先にバイコーンのブラッシングしたら、腕の力が入らないんです。もう腕が痺れて・・・」
「ああ。わかった。こいつのブラッシングは俺がやるから。餌の用意してくれよ」
バトルホースの鼻面を叩いて、セヴランの尻尾を放させると、セヴランは脱兎のごとく逃げ出した。
いや、お前、狐だろう?
なんとか、強化したロープで2頭を木に繋ぎ、お嬢が作った魔道具を周りに埋め込み魔獣馬の存在と魔力を隠す。
餌と水を桶に用意して・・・。
「名前か・・・」
リュシアンは腕を組んで、眉間にシワを寄せた。
正直、名前なんて考えられない。
お嬢が付ければいいと思ったが、「じゃあクロとアカ」と毛並みの色で決めるという安直さでボツになった。
いや、俺のセンスもそんなにお嬢と変わらないのだが・・・。
しかも、こいつら期待に満ちた眼で俺を見やがる。
ちっ。
アルベールの助言どおりに「神狼族」の威圧を出しながら、2頭に接していたので主従関係に近い状態にあるが、やっぱりセヴランに対しては侮る行動が見受けられるな。
今のところ「白虎族」のリオネルとなんだか畏怖を感じるエルフ族のアルベールに対して恭順の意を示している。
あと、お嬢に対しても、得体の知れない恐怖を感じているらしく、魔獣馬が怯えている。
問題はルネとセヴランだ。
「でもなぁ。俺もリオネルもアルベールは戦闘要員だから馬車から離れることもあるだろし。そうなると・・・」
「やめてくださいよっ!魔獣と戦うのもいやですけど、こんな凶暴な馬と残されるのもいやですよっ!」
泣くなよ・・・いい大人が・・・。
お前、ゴブリンを倒したときに覚醒したんじゃないのか?ルネが鞭使いが凄かったって言ってたぞ?
もう、元のお前に戻ったのか?
「ふうーっ、名前な・・・」
ん?そういえばお嬢が作ったあの菓子・・・旨かったな・・・。
「よし!バイコーンはカヌレ!バトルホースはブリュレだ!」
「・・・昨日、一昨日のデザートじゃないですか?」
いいんだよ。
親しみのある名前の方がいいだろう?
こいつらだって旅の仲間なんだから。
そして、2頭に名前を付けたことにより、無事にリュシアンと契約が成され、命令としてパーティーメンバーに従うことなった。
でも、やっぱりセヴランは2頭に揶揄われ続けているようだ。
親愛の証だろうと思い、俺たちはそっとしておくのだった。
リオネルは・・・、うん、食べるのに夢中で何も気づいてないわ。
宿屋の女主人のお祖父さんは、それなりの冒険者だった。
昔、ある土地のダンジョンから魔獣が溢れ出したとき、その討伐隊の一員として作戦に参加していた。
このダンジョンのスタンピードが、ゴダール男爵が貴族位を貰うことになった事件だ。
ローズさんのお祖父さんは怪我をして絶体絶命のときに、ゴダールさんに助けてもらい、尚且つ怪我が酷くて動けず逃げ出す冒険者たちが多い中で死を覚悟したときも、ゴダールさんの活躍でスタンピードを最小限の被害で抑えることができ、命拾いをした。
その後、その怪我が元で冒険者を辞めて、どうしようか迷ったときに領地に誘ってくれたのもゴダールさんだった。
いい人だったんだね?ゴダールさんって。
今の男爵のお祖父さんだから、先々代の男爵様ですな。
ゴダールさんの冒険者パーティーは3人で、孤児院で育った幼馴染同士。
ゴダールさんが剣士で後のゴダール男爵夫人になる女性が回復士、そしてナタンの父親が魔導士。
ナタンの父親はゴダールさんと同じ孤児院で育った孤児同士で、血の繋がりは無い。
しかも、そのダンジョンのスタンピードの際、倒しても倒しても溢れ出てくる魔獣に恐れをなし、一目散に逃げだしたそうだ。
ゴダールさんも本当は逃げたかったかもしれないが、パーティーメンバー以外も回復しまくっていた恋人が、魔力枯渇でその場を動けなくなっていて自分ひとりで逃げることはできないから、やけくそでダンジョンに突っ込んで行ったそうな。
・・・火事場のクソ力的な何かだったのかな?まあ、終わりよければ全て良し!だよね。
ローズさんみたいに、この町にはゴダールさんに助けられた冒険者や奥様に怪我を治してもらったダンジョン近くの村人の子孫が多く移住しており、土地は小さいがまとまりの良い穏やかな領地だったらしい。
そこへ、先代男爵夫妻の急逝とラウル男爵の海難事故からの消息不明。
突然現れたゴダール男爵の血縁者というナタンとゴロツキ共。
ラウルと結婚した平民のブリジット様の懐妊と出産、しかし姿を現さないブリジット様とその子供。
ローズさんは疲れたように、深く息を吐いた。
「そのうえ、余所者が仕切りだして、町に入ることも出ることもできなくなるし・・・」
「ああ、頼りの冒険者ギルドも扉を閉ざして無人だし。ギルマスたちもどこに行ったのか、家にも居やがらない」
ビックン。
あ、反応しちゃった。
え?ええ?
冒険者ギルドって誰もいないの?それどころか、扉が閉ざされているってどういう状況?
ギルマスも行方不明?
じゃあ、他の冒険者ギルドからの連絡に応えていたのは、誰?
でも、ここでその質問は発せない。
私は、冒険者の保護者と離された健気な子供だし・・・ここら辺の事情に詳しかったら怪しいし・・・もう少し男爵領の情報とか欲しいし。
スプーンを齧ったまま、ダラダラと内心冷や汗を垂らしていると、私の横からピュアな声が。
「おかわりーっ!」
・・・リオネル、あんたって子は・・・。
「はいはい。お嬢ちゃんはどうする?」
「あ・・・ごちそうさまでした」
私はペコリと頭を下げる。
「そう。じゃあジュースでも出してあげましょうね」
「ありがとうございます」
申し訳ないと思う私の横で「ぼくも!」と催促するんじゃありませんっ!
「何やってんだ?」
「ひいーっ。見てないで助けてください!」
セヴランの尻尾に噛みついているのはバトルホースだ。
どうやら、ブラッシングが気に入らなかったらしい。
「ひんひん。しょうがないでしょ。先にバイコーンのブラッシングしたら、腕の力が入らないんです。もう腕が痺れて・・・」
「ああ。わかった。こいつのブラッシングは俺がやるから。餌の用意してくれよ」
バトルホースの鼻面を叩いて、セヴランの尻尾を放させると、セヴランは脱兎のごとく逃げ出した。
いや、お前、狐だろう?
なんとか、強化したロープで2頭を木に繋ぎ、お嬢が作った魔道具を周りに埋め込み魔獣馬の存在と魔力を隠す。
餌と水を桶に用意して・・・。
「名前か・・・」
リュシアンは腕を組んで、眉間にシワを寄せた。
正直、名前なんて考えられない。
お嬢が付ければいいと思ったが、「じゃあクロとアカ」と毛並みの色で決めるという安直さでボツになった。
いや、俺のセンスもそんなにお嬢と変わらないのだが・・・。
しかも、こいつら期待に満ちた眼で俺を見やがる。
ちっ。
アルベールの助言どおりに「神狼族」の威圧を出しながら、2頭に接していたので主従関係に近い状態にあるが、やっぱりセヴランに対しては侮る行動が見受けられるな。
今のところ「白虎族」のリオネルとなんだか畏怖を感じるエルフ族のアルベールに対して恭順の意を示している。
あと、お嬢に対しても、得体の知れない恐怖を感じているらしく、魔獣馬が怯えている。
問題はルネとセヴランだ。
「でもなぁ。俺もリオネルもアルベールは戦闘要員だから馬車から離れることもあるだろし。そうなると・・・」
「やめてくださいよっ!魔獣と戦うのもいやですけど、こんな凶暴な馬と残されるのもいやですよっ!」
泣くなよ・・・いい大人が・・・。
お前、ゴブリンを倒したときに覚醒したんじゃないのか?ルネが鞭使いが凄かったって言ってたぞ?
もう、元のお前に戻ったのか?
「ふうーっ、名前な・・・」
ん?そういえばお嬢が作ったあの菓子・・・旨かったな・・・。
「よし!バイコーンはカヌレ!バトルホースはブリュレだ!」
「・・・昨日、一昨日のデザートじゃないですか?」
いいんだよ。
親しみのある名前の方がいいだろう?
こいつらだって旅の仲間なんだから。
そして、2頭に名前を付けたことにより、無事にリュシアンと契約が成され、命令としてパーティーメンバーに従うことなった。
でも、やっぱりセヴランは2頭に揶揄われ続けているようだ。
親愛の証だろうと思い、俺たちはそっとしておくのだった。
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