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人助けをしましょう

実戦に勝るものはありませんでした

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とうとう・・・剣がポッキリと折れてしまった。
情けなくも折れた剣の柄を未練がましく握って、ため息を吐く。
ちなみに奴の攻撃は止むことも無く、バシンバシンとお嬢の魔道具の防御シールドに弾かれている。

「まだ、できないんですか?」

「そんな簡単に覚醒できるかっ!爺の教え方も適当すぎるだろう!」

「属性はある。あとは貴方が神の力の一端を持つ神狼族であることの自覚を持てばいい。それだけですよ?」

俺と同じく敵の攻撃を魔道具の防御シールドで防ぎながら、にっこりと笑ってこちらを見る。

「自覚・・・。そんなものどうすりゃいいんだよ」

「そもそも、持てる力も自尊心も貴方が隠してしまったのでしょう?貴方を裏切った仲間の機嫌を損ねないように」

アルベールは変わらず笑顔だが、目の奥は冷たく光っている。

俺を裏切った仲間・・・。
家族とも兄弟とも思った、俺の幼馴染。

「・・・そんなつもりはなかった」

神狼族は、種族的に獣人でもトップクラスの能力を持つ希少種だ。
身体的能力も勿論、ほとんどの獣人が持ち得ない魔力も強大で、群れを統率する才能もある。

だが、俺は親もいない孤児だ。
どこもそうだろうが、貧しい孤児院でいつも腹を空かせていた、小汚い小僧だった。

仲間だったハーフエルフのあいつと、早く大人になって孤児院を出て冒険者になって腹いっぱい飯を食って、柔らかい寝床で休んで、暖かい湯を使って身を清めたかった。

そんな最低限の生活を羨ましく望む小僧が、神の名を持つ種族だなんて、自覚ができるわけがない。
しかも、俺が希少種の「神狼族」だと鑑定されたそのとき、俺の隣にはハーフエルフのあいつがいた。
あのときの、あいつの目が忘れられない。
俺のことを・・・裏切られたような切ない悲しい目で見つめていたあいつを。

ハーフエルフであることを恥じていたあいつ。
エルフであれば、孤児院に捨てられることもなく、魔法に長けてステータスも高く、輝かしい将来があると信じていたあいつ。
でも、秀でた種族だったのは、あいつが心の底では蔑んでいた俺の方だった。

だから・・・、俺は孤児院のときと変わらないでいた。
剣術は頑張って身に付けたが、魔法は他の獣人たちと同じように生活魔法以外は使わなかった。
俺は、ただの狼獣人でいいと思っていた。

「そんな殊勝な態度でいた貴方の怪我をお金を出し渋って治癒させず、奴隷に堕とした。随分と人の見る眼があることですね。そして、いつまで裏切った友に気兼ねするんですか?」

「・・・そうだな。だが・・・俺は友にさえ裏切られる奴だ・・・。そんな俺が・・・神の力など」

扱えるわけがない。
幼いときから一緒だった奴に捨てられた。
冒険者としてパーティーを組んで、幾つもの死線を乗り越えた仲間に売られた。
そんな俺が・・・。

「あー、女々しい奴だな。いい加減に捨てろよっ、そんな奴ら。あんたに頼り切りで自分の力を磨くこともせずに自爆した奴らのことなんて、いつまでも引き摺っているな!」

アルベールのいつにない乱暴な物言いに、驚いてマジマジと奴の顔を見た。
なんで・・・、怒っているのか?

「貴方のパーティーがAランクを目指す程に強かったのは、貴方がいたからです。あの、ナタンの仲間のギャエルがそう言っていたでしょう?貴方が率いて、守ってきたから、貴方のパーティーは冒険者の口に上るほどに有名だったのです」

「俺が・・・?」

「貴方は、ヴィーと同じですね。自分のことではそうでもないのに、守るべき者のためには命すら捨てる。貴方の仲間は貴方を裏切った奴らですか?それとも、私たちですか?」

「アルベールたちに決まっている!俺の仲間は・・・。いや、最初からあいつらは仲間じゃなかったんだ・・・。俺の仲間は、いや、家族はあんた達だけだ」

そう、きっとあいつがハーフエルフの自分よりも種族的に劣っている奴に仲間になるように声を掛けていたときから、いや、孤児院で一緒だったときから気付いていたはずだ。
ただ、俺が見てなかっただけ、気付かないふりをしていただけ。
俺は、ひとりになるのが怖かったんだ・・・。
ふうーっと深く息を吐いて、顔を天に向ける。

「情けないな・・・俺は・・・」

「しょうがないですよ。貴方は狼。群れで生きる種族ですからね」

「はっ、獣人に獣の習性はないだろうがっ。でも、そうだな。俺は・・・俺の群れが欲しかったのかも」

ちょっと、恥ずかしい。
いい年して、俺ってヤツは。

「じゃあ、あとは一か八か。一発勝負にでましょうか?」

「はあ?」

「貴方は神狼族です。魔法能力を磨くこともなくただ剣術だけで高ランク冒険者まで上り詰めた。しかも足手まといの仲間を連れて。貴方は間違いなく神の一族を名乗る種族の血を引いてます。自分を信じなさい」

「アルベール・・・」

「そして、私を助けなさい。まあ。ヴィー特製のポーションを持ってますけどね」

バチンとウィンクをして、何を思ったのか服に付けていた防御の魔道具を外した。

「おいおい!」

アルベールは自分の体に旋風を纏いながら、敵に向かって走り出す。
その体に向かい敵の分銅鎖が集中して襲い掛かるのが、視界に映る。

「アルベール!!」

その瞬間、バチバチバチと破裂音が自分の体から湧き出でて・・・。
烈しい閃光に目が、轟く音に耳が、使い物にならなくなった。

・・・アルベール、このばかやろう!


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