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人助けをしましょう
見せたいものがありました
しおりを挟むとにかく、圧が凄い。
圧迫面接どころじゃないよ。
ギルドマスターをはじめとしたギルド職員の皆様は、殺気を纏い腕を組みナタンを睥睨している。
男爵家のブリジット様とエミール君は困ったような顔で周りをキョロキョロ。
そのふたりの脇をガッチリ守る古参の使用人たちは、歯を噛みしめてナタンを睨んでいる。
ローズさんとガストンさんたち町の人は、手に持った武器を掲げて殺る気マンマンだ。
部屋には入ってこないけど、本邸で働いていただろう使用人たちも、複雑な顔で様子を伺っている。
「・・・お前の仲間たちはギルドに敵対したとして捕縛した。すぐにアラスの冒険者ギルドに送り、そこでそれぞれが裁かれるが、ほとんどは奴隷落ちだ」
ビクリと肩が動くナタン。
「お前はギルドで裁かれるよりも重い、王都にて王の裁可を。爵位簒奪と・・・ラウル男爵の事故も調べ直されるだろう」
ラウル男爵は確か事故に遭って生死不明だけど、それもナタンの仕業なのか?
でもギルドマスターの言葉に、ナタンは青褪めた顔を上げて強く首を横に振った。
「ちがっ・・・。俺じゃない!俺はラウルに何もしていない!」
その否定の言葉は、町の人たちの反感を買ってしまう。
ガストンさんたちは武器を床に叩きつけ、ナタンを糾弾する声を上げる。
ナタンはそれに怯え、頭を腕で抱え込んでブルブルと震え出した。
「そもそも、お前は男爵位を継げる身分じゃないのに、何を目的でここに来たんだ。あんなに大勢のゴロツキ共を連れて」
ほとんどがギャエルのような冒険者崩れのチンピラだが、その内の何人かは殺人などの重犯罪を犯した手配犯がいたらしい。
「俺は・・・。俺の親父は英雄の・・・弟だ。男爵家の・・・一族だ。俺は・・・貴族だ・・・」
なんか・・・都合のいいことをブツブツ言い出したよ、こいつ。
そこへ、ずいっとローズさんが身を乗り出してきた。
そしてローズさんは語る。
英雄が生まれたその日のことを。
町の人も男爵家の使用人たちも、ギルド職員もローズさんの話を驚きで眼を大きく見開きながらも聞いた。
ナタンの父親と英雄初代ゴダール男爵は、血縁関係ではなかった事実を。
「うそ・・・だ」
あ、ナタンがその場に崩れ落ちた。
床に伏せるように蹲る。
「お前、知らなかったのか?あのな、仮にも男爵家を乗っ取るつもりならちゃんと調べろよ。王都か大きな神殿に行って貴族名鑑見ればわかるし、調べられただろう?」
ギルドマスター、ヤンは素に戻って気軽な口調でナタンをバカにした。
「・・・ううっ・・・、うっ・・・」
あーあ、泣き出しちゃったよ・・・。
ガストンさんたちも武器を鳴らすのを止めて、ナタンの様子にちょっと引いてる。
「エミール君を誘拐しようとしたのはアンタでしょ?」
その泣いているおっさんに追い打ちかけるのはアレだけども、ちゃんと事実は確認しておかないとね。
ナタンは涙と鼻水に汚れた顔を私に向けてこくんと頷く。
「・・・でも、隠れ家には来なかった。あいつらが裏切ったんだ!」
おおうっ、まだ激高する気力はあるのね。
そこへギルドマスターがズズイと私の体のまえに出て、もうひとつの罪を明らかにする。
それは、ゴロツキ共に閉鎖させていた街道に冒険者が通らなくなったせいであった弊害。
ゴブリンの繁殖による集落の形成。
みんながその話にゾゾーッと顔を青くした。
「そんな・・・じゃあ、あいつらは逃げたんじゃなくて・・・」
「ゴブリン共にやられたんですよ。エミール君は・・・必死に命がけで守ってくれる人がいたので、助かったのです」
アルベールが冷たく言い放つ。
そう・・・アンタが家族を盾に脅してエミール君を拐わせた幼いメイドが、贖罪のために命を懸けて守ったんだ。
ブリジット様は、メイドのしたことに気が付いているだろう。
自分の子供を拐ったのが誰なのか・・・。
でも、口を噤んでいてくれる。
「さあて、俺たちは捕まえた奴らをアラスの冒険者ギルドに護送する。・・・でもな、そうするとまたこの町が手薄になるんだよなぁ・・・」
ギルドマスター、ヤンはチラチラとアルベールに視線を送る。
あら、うちのアルベールがそんなもので動くわけがないのですよ。
案の定、しらーっとしているし。
「ナタンはどうするんだ?王都から使者が来るまでこの町の牢に入れておくのか?」
リュシアンが耳をヘタリと垂らしてギルドマスターに問いかける。
普通はギルドの牢に繋いでおくけど、この町にずっと捕まえておくと・・・ちょっと血の気の多い町民がやらかしそう。
「ん?いや、アラスの冒険者ギルドに送ったあとに別の町へ移送する。この町に置いておくと両方にとってよろしくないからな」
ギルドマスターも危惧するところは一緒だった。
もう、ナタンは泣くわ、鼻水を垂らすわ、顔は青ざめているわ、全身を恐怖でブルブルと震わしているわ、たいへんに鬱陶しい状態です。
さっさっと運んじゃおうよ。
エミール君、エリク君、お子様の教育にもよくないと思います。
しかし、そこへ意外な人から「待った」がかかった。
「男爵夫人?」
「あのう・・・。その方を連れて行く前に見て欲しい物があるんです。これは初代ゴダール男爵からのお約束事なんです」
ブリジット様がそおっと右手を上げて、申し出たこととは?
大広間の奥の扉から廊下に出る。
メンバーはナタンを縛った縄の端を握るギルドマスター、ヤン。
ブリジット様とエミール君と執事のお爺ちゃんとローズさんとガストンさん。
そして私とアルベールとリュシアン。
なんか、私たちは部外者の気がします。
でもブリジット様が「エミール君の恩人の冒険者の方もぜひご一緒に」って誘ってくださったので。
廊下を魔道具の灯りがぼやっと照らす。
両壁には絵画が飾られている。
「ここには、男爵家の肖像画を飾ってあるんです」
ふむふむ。
上品そうなご夫婦の絵とその隣にはその夫婦と小さな男の子の絵。
「たぶん前男爵夫婦とラウル男爵の幼い頃でしょう」
その隣には、ラウル男爵とブリジット様の並んだ絵。
その奥には英雄と称えられた初代ゴダール男爵が正装して剣を掲げた絵。
その向かいには奥様と英雄ふたりの絵と子供も入れた家族の絵。
ブリジット様は廊下の奥の扉に手をかける。
「見ていただきたいのは、この部屋の中にあります」
カチャリと音を立てて開いた部屋には、柔らかい陽光が注がれていた。
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