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悪を倒しましょう
絶体絶命でした
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武器を失ったクリストフさんとヴァネッサ姉さんは上に行き、外で戦っている誰かから武器を調達しに戦線離脱。
アルベールの武器はレイピアだけで、当然攻撃しても壊れるだけと思われる。
リュシアンの大剣は壊れないと思うけど・・・なんせ幼馴染相手に本気で攻撃もできないだろうから・・・詰んだ。
私もガブリエルには一発殴ってやりたい気持ちはありありだけど、命のやりとりまではできそうもない。
手加減して拘束できる相手でもないのに、当の本人のガブリエルは現在魔力暴走中です。
つまり、あの膨大な魔力の量を吸い込んでおいて、扱いきれずに持て余している状態。
「アルベール・・・。魔力暴走ってどうやって止めるの?」
恐る恐る私が魔法の先生でもあるアルベールに質問してみる。
アルベールはとっても落ち着いた態度で、平坦な声で簡潔に応えてくれた。
「そりゃ、魔力が枯渇したら止まります。その前に大暴発しますけど」
だぁぁぁぁっー!
ダメじゃん、そんなの!
正直、ガブリエルの血液攻撃で地下室にかけていた防御魔法は無効化されて、壁際の棚や魔道具なんかは使いかけの蝋燭のような状態になっている。
天井に被害はないけど、奴の魔力が暴発したら・・・崩落しますよね?
「そうです。奴が魔力を手放したと同時に我々は生き埋めです」
だーかーらー、そういう話を淡々とするんじゃないわよっ、アルベールのバカ!
「ぐっ・・・。お嬢、大丈夫だ。こいつを止めて、みせる!」
リュシアンが掴まれた腕の痛みに眉を顰めながら、食いしばった口から言葉を漏らす。
リュシアンはガブリエルに掴まれた腕とは反対の手に大剣を持ち、グイッとガブリエルの体を抜き身の剣で押していた。
じわりじわりとガブリエルの胸から、剣で傷つけられ血が滲んでいく。
「リュシアン・・・」
「お嬢・・・。できたら、今の内に逃げてくれっ!」
ぐぐーっとさらに力を込めて剣を押し付けていくリュシアンの顔は、自分の苦痛以外のもので歪んでいた。
「ア、アルベール・・・」
どうしよう・・・私はここにいていいの?リュシアンの決意の邪魔をしてしまうかもしれない・・・。
「ヴィー、ここにいなさい。貴方がここから無事に逃げた瞬間、リュシアンの決意が鈍ります。そうなれば・・・」
私は自分の唇をクッと噛んだ。
アルベールの考えに賛成だわ。
きっと、リュシアンは守る存在がいなくなったら、ガブリエルへの思いに、情に負けてしまう。
そして、共に果ててもかまわないと諦めてしまう。
そんなの・・・、そんなの許さないんだから!
「でも・・・魔力暴走・・・どうしよう」
暴発しても大丈夫なように、ガブリエルの体を幾層もの障壁で囲ってしまう?むしろ、奴の体だけ外に放り出してしまう?
「・・・魔力が暴発する前に術者を・・・殺してしまえば。暴走していた魔力は自然に還ります」
アルベールの両目が眇められ、レイピアを持つ指がピクンと動いた。
そのアルベールの不穏な言葉が聞こえたリュシアンが叫ぶ。
「やめろ!エルフの爺が!早くお嬢を連れて外に行きやがれーっ!」
ガブリエルから目を離さずに、全身をブルブルと震えさせ、額に汗をびっしょりと浮かべたリュシアンが叫ぶと、ガブリエルの動きがピタッと止まった。
あんなに強く掴んでいたリュシアンの腕から、手を離した。
そして・・・ゆっくりとした動作でこちらを見る。
「ひいぃぃぃぃぃっ!だから、こっち見んな!」
こ―わーいー!
「・・・エルフ?」
ガブリエルの口から言葉が発せられた。
ガラガラのしわがれた声だったが・・・。
「うわっ!」
たちまち風の刃が無数に飛ばされ、例の溶解液と化した血液爆弾もビュンビュンと飛んできた。
心の中で絶叫しながら、幾度も幾度も防御魔法をかける私。
アルベールは器用にもレイピアに風魔法を纏わせて風の刃を弾いている。
「アルベール!」
リュシアンの切羽詰まった声に、アルベールへと顔を向けると、いつのまにか近寄ってきたのかガブリエルがアルベールに掴みかかろうとしていた。
「きゃーっ!」
こんなに近くに奴がいるのも怖いが、アルベールが襲われているのも怖い!
サッとガブリエルの体を避けると、アルベールはレイピアを逆手に構えて奴の背中を突く。
ザシッュ!
今度は弾かれることなく、レイピアが奴の背中を斬り裂いた。
「・・・エルフ・・・」
傷の痛みなと感じないのか、不気味な声で呟くとクルッとこちらを振り向き、再びアルベールに襲いかかる。
エルフ、エルフってなんなのよ!・・・と、待てよ?確かガブリエルはハーフエルフの自分にコンプレックスを持っていたとか・・・。
「もしかして・・・エルフ族のアルベールに嫉妬してんの?」
私は、ガブリエルの攻撃を紙一重で華麗に避けながら、浅くてもレイピアで傷を付けているアルベールを見て思う。
「ああ・・・たぶんな。まともな状態じゃないから、強い感情に支配されるんだろう。俺への憎しみと種族への憧れと・・・」
ガブリエルに掴まれていた腕を反対の手で押さえて、リュシアンが私の横に並ぶ。
「アルベールで拘束できると思う?」
私はリュシアンの顔を仰ぎ見て問う。
「いいや、難しいな。傷をいくら付けてもあいつは痛みを感じていない。血を出しても倒れることもない・・・。それに魔力暴発まで時間もないだろう」
そうなんだよねぇ・・・。
「それに・・・悪いが俺はアルベールに協力できない。爺・・・あいつの心臓を狙ってやがる」
そりゃ、アルベールとしては一番の安全策、魔力暴発する前に暴走している奴を殺してしまえを採用しているからね。
私は積極的に賛成している作戦ではないけど・・・反対もしていない。
だけど、やっぱりリュシアンはガブリエルを見捨てられないんだね。
リュシアンは私の頭をポンポンと優しく叩いて、ニカッと笑った。
「リュシアン?」
リュシアンは私から離れて、地下室にある階段と一番遠い角まで移動すると、深呼吸をひとつした。
え?まさか・・・。
「ガブリエル!お前が殺したいと憎んだリュシアンはここだ!神狼族のリュシアンはここにいる!」
地下室にリュシアンの声が響き渡ると、ガブリエルは動きをピタッと止めてキョロキョロと辺りを見回し始めた。
一瞬の出来事だった。
リュシアンを見つけたガブリエルが奇声を発しながら、リュシアンへと襲いかかるのと。
止めようとしたアルベールのレイピアが、なぜか弾かれて根元からポッキリと折れてしまうのと。
ガブリエルが胸から背中から流れ出た血液が噴き出して、リュシアンへと降り注ぐのと。
私はリュシアンへと防御魔法を重ねがけして。
両足に「身体強化」して、ガブリエルとリュシアンの間に走り込み、体を捻じ込むのと。
ガブリエルの真っ白い瞳に射貫かれ動けなくなり、リュシアンの胸を貫こうとしていた奴の右手が自分の胸へと伸ばされて・・・。
「お嬢ーっ!!」
「ヴィーーっ!!」
そのとき、忌まわしきビーストを製造していた地下室は、眩い光に包まれた。
アルベールの武器はレイピアだけで、当然攻撃しても壊れるだけと思われる。
リュシアンの大剣は壊れないと思うけど・・・なんせ幼馴染相手に本気で攻撃もできないだろうから・・・詰んだ。
私もガブリエルには一発殴ってやりたい気持ちはありありだけど、命のやりとりまではできそうもない。
手加減して拘束できる相手でもないのに、当の本人のガブリエルは現在魔力暴走中です。
つまり、あの膨大な魔力の量を吸い込んでおいて、扱いきれずに持て余している状態。
「アルベール・・・。魔力暴走ってどうやって止めるの?」
恐る恐る私が魔法の先生でもあるアルベールに質問してみる。
アルベールはとっても落ち着いた態度で、平坦な声で簡潔に応えてくれた。
「そりゃ、魔力が枯渇したら止まります。その前に大暴発しますけど」
だぁぁぁぁっー!
ダメじゃん、そんなの!
正直、ガブリエルの血液攻撃で地下室にかけていた防御魔法は無効化されて、壁際の棚や魔道具なんかは使いかけの蝋燭のような状態になっている。
天井に被害はないけど、奴の魔力が暴発したら・・・崩落しますよね?
「そうです。奴が魔力を手放したと同時に我々は生き埋めです」
だーかーらー、そういう話を淡々とするんじゃないわよっ、アルベールのバカ!
「ぐっ・・・。お嬢、大丈夫だ。こいつを止めて、みせる!」
リュシアンが掴まれた腕の痛みに眉を顰めながら、食いしばった口から言葉を漏らす。
リュシアンはガブリエルに掴まれた腕とは反対の手に大剣を持ち、グイッとガブリエルの体を抜き身の剣で押していた。
じわりじわりとガブリエルの胸から、剣で傷つけられ血が滲んでいく。
「リュシアン・・・」
「お嬢・・・。できたら、今の内に逃げてくれっ!」
ぐぐーっとさらに力を込めて剣を押し付けていくリュシアンの顔は、自分の苦痛以外のもので歪んでいた。
「ア、アルベール・・・」
どうしよう・・・私はここにいていいの?リュシアンの決意の邪魔をしてしまうかもしれない・・・。
「ヴィー、ここにいなさい。貴方がここから無事に逃げた瞬間、リュシアンの決意が鈍ります。そうなれば・・・」
私は自分の唇をクッと噛んだ。
アルベールの考えに賛成だわ。
きっと、リュシアンは守る存在がいなくなったら、ガブリエルへの思いに、情に負けてしまう。
そして、共に果ててもかまわないと諦めてしまう。
そんなの・・・、そんなの許さないんだから!
「でも・・・魔力暴走・・・どうしよう」
暴発しても大丈夫なように、ガブリエルの体を幾層もの障壁で囲ってしまう?むしろ、奴の体だけ外に放り出してしまう?
「・・・魔力が暴発する前に術者を・・・殺してしまえば。暴走していた魔力は自然に還ります」
アルベールの両目が眇められ、レイピアを持つ指がピクンと動いた。
そのアルベールの不穏な言葉が聞こえたリュシアンが叫ぶ。
「やめろ!エルフの爺が!早くお嬢を連れて外に行きやがれーっ!」
ガブリエルから目を離さずに、全身をブルブルと震えさせ、額に汗をびっしょりと浮かべたリュシアンが叫ぶと、ガブリエルの動きがピタッと止まった。
あんなに強く掴んでいたリュシアンの腕から、手を離した。
そして・・・ゆっくりとした動作でこちらを見る。
「ひいぃぃぃぃぃっ!だから、こっち見んな!」
こ―わーいー!
「・・・エルフ?」
ガブリエルの口から言葉が発せられた。
ガラガラのしわがれた声だったが・・・。
「うわっ!」
たちまち風の刃が無数に飛ばされ、例の溶解液と化した血液爆弾もビュンビュンと飛んできた。
心の中で絶叫しながら、幾度も幾度も防御魔法をかける私。
アルベールは器用にもレイピアに風魔法を纏わせて風の刃を弾いている。
「アルベール!」
リュシアンの切羽詰まった声に、アルベールへと顔を向けると、いつのまにか近寄ってきたのかガブリエルがアルベールに掴みかかろうとしていた。
「きゃーっ!」
こんなに近くに奴がいるのも怖いが、アルベールが襲われているのも怖い!
サッとガブリエルの体を避けると、アルベールはレイピアを逆手に構えて奴の背中を突く。
ザシッュ!
今度は弾かれることなく、レイピアが奴の背中を斬り裂いた。
「・・・エルフ・・・」
傷の痛みなと感じないのか、不気味な声で呟くとクルッとこちらを振り向き、再びアルベールに襲いかかる。
エルフ、エルフってなんなのよ!・・・と、待てよ?確かガブリエルはハーフエルフの自分にコンプレックスを持っていたとか・・・。
「もしかして・・・エルフ族のアルベールに嫉妬してんの?」
私は、ガブリエルの攻撃を紙一重で華麗に避けながら、浅くてもレイピアで傷を付けているアルベールを見て思う。
「ああ・・・たぶんな。まともな状態じゃないから、強い感情に支配されるんだろう。俺への憎しみと種族への憧れと・・・」
ガブリエルに掴まれていた腕を反対の手で押さえて、リュシアンが私の横に並ぶ。
「アルベールで拘束できると思う?」
私はリュシアンの顔を仰ぎ見て問う。
「いいや、難しいな。傷をいくら付けてもあいつは痛みを感じていない。血を出しても倒れることもない・・・。それに魔力暴発まで時間もないだろう」
そうなんだよねぇ・・・。
「それに・・・悪いが俺はアルベールに協力できない。爺・・・あいつの心臓を狙ってやがる」
そりゃ、アルベールとしては一番の安全策、魔力暴発する前に暴走している奴を殺してしまえを採用しているからね。
私は積極的に賛成している作戦ではないけど・・・反対もしていない。
だけど、やっぱりリュシアンはガブリエルを見捨てられないんだね。
リュシアンは私の頭をポンポンと優しく叩いて、ニカッと笑った。
「リュシアン?」
リュシアンは私から離れて、地下室にある階段と一番遠い角まで移動すると、深呼吸をひとつした。
え?まさか・・・。
「ガブリエル!お前が殺したいと憎んだリュシアンはここだ!神狼族のリュシアンはここにいる!」
地下室にリュシアンの声が響き渡ると、ガブリエルは動きをピタッと止めてキョロキョロと辺りを見回し始めた。
一瞬の出来事だった。
リュシアンを見つけたガブリエルが奇声を発しながら、リュシアンへと襲いかかるのと。
止めようとしたアルベールのレイピアが、なぜか弾かれて根元からポッキリと折れてしまうのと。
ガブリエルが胸から背中から流れ出た血液が噴き出して、リュシアンへと降り注ぐのと。
私はリュシアンへと防御魔法を重ねがけして。
両足に「身体強化」して、ガブリエルとリュシアンの間に走り込み、体を捻じ込むのと。
ガブリエルの真っ白い瞳に射貫かれ動けなくなり、リュシアンの胸を貫こうとしていた奴の右手が自分の胸へと伸ばされて・・・。
「お嬢ーっ!!」
「ヴィーーっ!!」
そのとき、忌まわしきビーストを製造していた地下室は、眩い光に包まれた。
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