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幸せになりましょう

トゥーロン王国の長い一日が始まりました

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さすがに王城へ馬車ごと突入させる訳にもいかないので、さっくりと馬車は私の「無限収納」の中へ。
でも、カヌレとブリュレを残していくのも不安だし、連れて行きたいんだけど・・・堀の渡し板がなくなっている。

「誰よ!勝手にここの板を外して行ったのは?リュシアン?セヴラン?」

私に名前を呼ばれた二人はフルフルと頭を左右に振って否定する。
むむむむ、他に誰かがこんな所を通っていたのかしら?

「お嬢、飛べよ。カヌレとブリュレもこれぐらいだったら跳躍できるし」

リュシアンがサラッと凄いことを言いましたよ?

「そう?結構・・・幅があると思うけど?」

カヌレとブリュレが飛べたとしても、私は無理だし・・・向こうで涙目でブルブルしているセヴランも無理だと思います。

「リュシアン。時間がもったいないですから、貴方がカヌレに乗ってください。あ、セヴランも忘れずに」

「あいよー」

「ヴィーは私と一緒にブリュレに乗りましょう。あとは・・・ルネとリオネルですね」

ふむと腕を組むアルベールに、リオネルに絶賛嫌がられているカミーユさんが明るい声で提案する。

「いいよー。ルネとリオネルは僕が乗せていくよー」

「どうやって?」

ルネとリオネルを両脇に抱えて飛ぶの?
私の疑問に答えるように、カミーユさんはその姿をスルスルと変えていく。
大きな白虎の姿に。

「なんと!」

まだ戦闘にもなっていないし、そもそも王城内では目立たない行動をするつもりだったのに、白虎って・・・めちゃくちゃ目立つんですけど?
しかし、ルネとリオネルはキャッキャッとはしゃいで、カミーユさんの大きな背中にいそいそと跨っている。
あ、カミーユさんめ、リオネルへのご機嫌取りに白虎に変化したな?
アルベールも痛そうにこめかみを押さえて「行きますか」と、私の体をブリュレに乗せる。

堀は無事に越えることができました・・・馬に乗って。
私とセヴランの絶叫とともに。
あー、怖かった!

城出をするときに塞いでいった城壁の前に立って、ちょっとセンチメンタルな気分の私。

「早く壊して中に入ろうぜ、お嬢」

ちっ!リュシアンめ。
情緒が欠落してんじゃないの?

「はいはい。とっと壊しますよ!ちょっと離れていてね。・・・『破壊ブロークン』・・・これでいい?」

私の日本語呪文一言で城壁はパラパラと崩れ、以前の穴どころか城壁の一角ごとあっさりと崩れ落ちた。

「・・・ヴィーさん。壊し過ぎでは?」

セヴランが震える声をだすけど、いいんじゃない?ヴィクトル兄様が王様になったら城壁を見直して造り直してもらうわ。

「さて、王宮を目指して行きますか」

リュシアンを先頭にアルベールと私、セヴランとルネ、白虎カミーユさんに乗ったままのリオネル、カヌレとブリュレで壊した城壁を踏み越える。

「・・・あちこちで始まってるみたい」

右左といろんな所から喧噪が聞こえてくる。

まず、私たち亜人奴隷解放軍は正面突破で王城の敷地内に入っているはず。
モルガン様の高笑いが聞こえるようだわ。
王城内に入ったら、まず本隊は先に潜入していた冒険者ギルドのギルドマスターロドリスさんと合流。
ロドリスさんたちは、少しずつ王城内に亜人たちを潜入させていたので、衛兵や使用人の中に味方がいる。
その味方を知らないで攻撃しちゃうとアレだからね、情報交換して、亜人奴隷解放軍の印の腕章をお互い身に付けることにした。
赤地に金色の星が刺繍された腕章だから、一目でヴィクトル兄様の軍ってわかるようになっているのよ。
私たちも全員身に付けます!

「・・・カヌレとブリュレにも付けるのですか?」

アルベールの呆れた声が耳に痛いけど、しょうがないでしょ?

「だって、この子たち絶対に敵を蹴散らすわよ?味方でーすってアピールしておかないと魔獣馬として討伐されちゃうじゃない」

ロドリスさん率いる亜人たちの中にはリュシアンのように血の気が多くて単純な奴がいるに違いない!

「ん?なんかお嬢・・・俺の悪口言ったか?」

「ううん。何も言ってないよ?」

きゅるるんとした瞳で潔白を訴えたのに、びよーんと頬を引っ張られた!なんでよっ!

ロドリスさんたちと合流したあとの亜人奴隷解放軍は、二手に分かれるのよ。








「本当にそんな少人数で行かれるのですか?」

「ああ」

俺は、亜人奴隷解放軍の印となる腕章を左腕に付け、剣をベルトに差し、手袋を嵌める。
こちらを心配そうに見る冒険者ギルドのギルドマスターロドリスと、ここまで同行してきたモルガン翁に微笑んでみせた。

「大丈夫だ。ユベールとエロイーズ如きに遅れは取らない」

「それは・・・そうでしょうが・・・。周りにどれだけの兵がいるのか、わからんのですよ?」

ロドリスたち先に潜入していた者の情報で、だいたいの騎士や衛兵の配置はわかった。
しかし、ザンマルタン侯爵が連れてきた私兵だけは、把握しきれなかった。

「ザンマルタンの奴はかなりの数の騎士を連れていましたが、ここ数日リシュリュー辺境伯軍の旗を見て逃げ出した兵もいます。ユベールとエロイーズについてはどちらかが王位に即けば甘い汁が吸えると侍っている者も多くまだかなりの兵が・・・」

「だが、ザンマルタンのとこの奴らだけじゃろ?そんな者は兵とは呼べん」

モルガン翁が椅子に座ると、ガシャンと鎧が金属音を立てる

「王都の騎士もレベルが下げったモンじゃ。ちぃっとも楽しめん、弱すぎてな」

ハハハハと周りのリシュリュー辺境伯の騎士たちが笑う。

「軍の編成と兵の強化もしなくてはならないか・・・」

正直、王位に即いてもやらなければならないことが山盛りで、今からげっそりとした気分だ。

「まずは、一つ一つ片付けいきましょう」

ロドリスがポンと肩を叩いて労ってくれる。
そうだ、まずは一つ目。

「ユベールとエロイーズ、ザンマルタンの捕縛だな」

俺は剣の柄に握り、仲間の顔を一人一人見回す。

「・・・いいのか?イザック?」

イザックは、ロドリスの右腕となって市井で動いていたミゲルの息子だ。
元冒険者で剣の腕も魔法の強さも頼りになるが・・・彼を連れて行ってしまうとこちらの戦に弊害が出るのでは?

「いいんですよ。ここには親父がいますし、ギルドにはオーブリーがいます。俺も最後ぐらいは好きに動きたいんで」

ニカッと笑うイザックだが、言っている内容は少々物騒だ。

「頼むぞ。ユーグ!」

「はい!いつでも行けます!」

俺とともに王宮の・・・たぶん玉座が置かれている謁見の間にいるだろうユベールとエロイーズを捕らえに行くのは、従者のユーグと友のイザック、そしてリシュリュー辺境伯から借りた十人の騎士。

「ベルナールも・・・いいのか?」

「ええ。こちらにいても役には立ちそうにもないので」

まるで、これから夜会にでも行くような涼し気な佇まいでベルナールは騎士から剣を受け取っている。

モルガン翁とロドリス率いる隊が王城の制圧。
俺はユベールとエロイーズ、ザンマルタンの捕縛。

今日で、トゥーロン王国の未来が決まる!



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