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第46話 渡、コクる

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「クソっ!」
アキと如月の関係を全く知らない渡は悶々とした日々を過ごしていたーー。

アキへの思いは募るが、どうしても如月の存在が頭から離れないのだ。
「どうして、あんなヤツとっ!」
如月が二月会の会長である事、そして如月と一緒の時のアキの笑顔・・・
「こうなったら・・・っ!」
渡は一つの決心をしたのだった。


「アキ・・・、ちょっと話があるんだけど・・・」
アキが一人になるチャンスを今か今かと待っていた渡にその機会が訪れ、やっとの思いで学園の中庭へと連れ出す事に成功した。

「うん。何?」
アキは素直に渡について行く。
その光景を目ざとく見つけた者がいた、七瀬である。

(渡・・・、まさか・・・。アキに・・・?)
焦りの色を顔に浮かべた七瀬がそっと後を追う。

そして、もう一人・・・

(うわっ、渡のヤツが告るかと思ったら、七瀬まで? もしかして、三角関係とか?)
七瀬の後を追ったのは、穂波であった。

陽光の差し込む中庭に置かれたベンチに渡とアキが並んで腰かける。
その二人を校舎の陰から見つめる七瀬、更に後方の木陰から成り行きを伺う穂波。


「渡、話ってなぁに?」
ニコニコと笑みを浮かべるアキ、立ち上がった渡が意を決したように話し出す。

「なぁ、アキ。あの如月って人だけど・・・」
「うん、良い人だよ」
アキの一言がこれまで抑えていた渡の感情の堰を切った。

「なんであんなヤツと付き合ってるんだ? アイツはヤクザだぞっ! 分かってんのかっ!?」
矢継ぎ早にアキを問い詰める渡、その時にアキの表情が一変した。

「何言ってんのっ! 如月さんの事は渡には関係無いじゃないっ!」
アキがこれほど感情的になる事は珍しい、それだけ触れて欲しくない事なのだと渡は邪推する。

そして・・・

「関係あんだよっ! 俺はアキが好きなんだからっ! 心配すんのは当然だろっ!」
一気に思いの丈をぶちまけ、ハァハァと息の上がる渡。

(おっとぉ、ついに本気で告りやがったかぁ?)
木陰から見ている穂波にまで渡の声ははっきりと聞こえていた。
そして、七瀬にも・・・

(やっばりそうだったんだ・・・。渡はアキが好き・・・だったんだ)
七瀬の頬に一筋の涙が流れる。

あの渋温泉での一件以来、どうしても微妙な距離が埋まらなかったが、七瀬は初めて会った時から渡の事をずっと思っていたのだ。


「渡が・・・、わたしを・・・。好き?」
突然の事にアキの思考回路はショートしてしまっていた。

渡のアキへの思いをはっきりと聞いてしまった七瀬は茫然と立ち尽くす。
(渡がアキを好きだって事は気付いてたけど・・・・。やっばり、七瀬も渡を・・・)
いたたまれない気持ちになった穂波もその場を動けなくなっていた。

「渡っ、違うのっ! 如月さんは・・・」
如月が実の父である事を言いかけるが、それを渡に言って良いものかを悩むアキ。

「何だよ、一体何だってんだよっ!」
(お父さん、ごめんなさい・・・。でも、誤解を解く為には・・・)
苛立つ渡を見てアキは真実を話す事を決めたのだった。

「渡、聞いて・・・。如月さんは、私のお父さんなの! やっと会えた本当のお父さんなの!」
一気に捲し立てて話し出すアキ。
心臓の鼓動が外に聞こえてしまいそうなくらいドキドキと脈打ってている。

「えっ・・・? お父さんって・・・?」
いつもクールな渡だが、この時ばかりは冷静さを失い呆然としている。

アキはこれまでの経緯を端的に語った。
アキが語り終えると・・・

「アキ、ごめん!」
渡がアキの前で深々と頭を下げる。

「すまない・・・。俺が早とちりして・・・」
「ううん、良いの。でも・・・」
「分かってる。如月さんの事は誰にも言わない。約束する」
「ありがとう・・・」
「でも、アキを好きなのはマジなんだ!」
一瞬、アキの表情が曇った。

「渡・・・、嬉しいけど・・・。わたし・・・。好きな人が・・・」
アキが顔を赤らめる。

その相手が竜馬である事は分かってる・・・

「知ってるよ。でも、俺は諦めない。きっと、アキを振り向かせてみせる」
渡らしい言葉である、アキも自然と笑顔になる。

だが、アキの赤い糸はいずれもつれてしまう事になる・・・



渡とアキの会話を聞き、ガックリと肩を落としてその場を離れる七瀬。

いたたまれなくなった穂波は、思わず七瀬に声を掛けてしまう。

「七瀬・・・。ごめん・・・、あち・・・。立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど・・・」
「ほ・・・、穂波さん・・・。あたし・・・、失恋しちゃったぁ・・・」
泣き笑いする七瀬の肩を穂波が優しく抱く。

「う・・・、ううぅぅぅっ・・・」
声を押し殺して泣く七瀬。

「七瀬、あんた・・・。良い女だよ・・・」
穂波の声が七瀬の耳に届く。

(惚れた相手が生きてるって、幸せなんだからね・・・)
穂波の心の言葉を聞けたのは、今は無き哲也だけだったであろうか。
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