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第91話 古の武将 降臨

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「【Konamon18】と【ムーラン・ルージュ】、双方の舞台が終了致しました」
ステージ中心に三波が立ち、両チームがその左右へと別れ立った。

「それでは、会場の皆様っ! 投票ボタンっ!?」
三波が投票を求めたその時・・・

バチッ! バチバチッ!!

会場の全ての照明が一気に落ち、周囲は暗闇に包まれる。

「きゃーっ!」
「真っ暗じゃん!」
「どーなってんだよっ!?」
観客達が騒ぎ出す。
舞台に上がっていたアキ達もひな達も一歩も動けない。


「何やってんだっ! 早く予備の照明を付けろ・・・?」
何かが胸元を通り過ぎたような違和感を感じる三橋。
恐る恐る持っていたライターを着火すると・・・

「な・・・。なにぃ・・・?」
ライターの火に照らし出されたものは、ついさっきまで三橋が首からぶら下げていた筈のお守りが真っ二つに切り裂かれて足元に落ちていたのだ。
全身の毛穴から体の水分が全て吹き出すような汗をかき、ガタガタと震える三橋。

「い・・・っ、一体・・・。何が起きてるんだ・・・」


客席に居た晶の耳がキーンという異音を捉えた。

「やはり・・・。大阪城の時と同じか・・・」
「何を言ってる晶。これは只の整備不良・・・。直ぐに復旧する」
「お神酒・・・。暗闇に乗じて変な所を触るなよ」
「・・・、なっ!?」
「冗談だ・・・。それより、よく見ておけ。これから起こる事を・・・」
いつの間にか晶の手には水晶の数珠が握られている。

「ふんっ!下らんっ! 霊など俺は信じんっ! この停電も・・・、??」
「いよいよ始まるか・・・。今度はしっかりと見届けてやるっ!」
「おいっ! 晶っ!?」



その頃、西京大学病院で中継を観ていた萌にも異変が起きていた。
中継画面が真っ暗になると同時に激しい耳鳴りが萌を襲う。

(え・・・、何? 頭が割れるように痛い・・・)
意識を失った萌、まるで魂が体から抜け出したようだった。



再び、会場――

アキ達もひな達も激しい耳鳴りと頭痛に襲われバタバタと倒れ込む。

「温水・・・っ!」
駆け寄ろうとした葵も途中で意識を失った・・・
いや、この会場にいる全ての者が・・・


「ノウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマンッ!」
晶が中咒真言を唱える。
そして・・・、時間が止まった。


観客がバタバタと倒れ意識を失う中、まだ意識を保っている二人が居る。
不動院晶そして、不動院神酒である。

「お神酒よ、これを見てもまだ認めないのか?」
晶は右手の人差し指と中指を左手の掌に収め『不動明王手印』を結んでいる。

「しばらくは私の結界で持たせるが・・・」
「何が、結界だ、これは一種の集団催眠に過ぎん。あまりに熱狂し過ぎた上に閉ざされた空間での酸素不足、急な停電による心理的圧迫が作用しただけだ」
神酒は全く晶の言葉を受け入れようとしない。

「まぁ、良い・・・。しばらく見ていれば分かるだろう」
「下らない手品・・・、その種を見切ってやろう」
晶と神酒の視線が暗闇の中、舞台へと向けられる。



(ここは、何処じゃ・・・)
フラフラとしながら立ち上がる影がある。

(皆・・・。何処に・・・)
立ち上がったのはアキである。

「やはり、あの娘が中心か・・・」
「何を言っている?」
「よく見て見ろ、あの影に浮かび上がる者を・・・」
「・・・、いゃ、そんな馬鹿な・・・。私は認めん」
少し暗闇に目が慣れた事もあり、晶と神酒は辛うじて人影の動く様を見られるようになっていた。


「姫、ご無事か?」
アキの脇から立ち上がったのは、七瀬である。

「おぉ、昌幸殿か・・・」
その時である。

(いよいよ始まったか・・・)
晶は両手で組んだ手印に力を込める。


アキの背後に『三つ葉葵』の家紋、そして戦国の姫の姿が浮かび上がった。

「千姫様、ご無事で何より・・・」
七瀬の背後には、『六文連戦』の家紋と武将の姿。

「真田殿・・・」
七瀬が振り向いた先には、『剣片喰』の家紋と武将を後背にした優奈の姿がある。

「おう、宇喜多殿か」
「秀家殿、大儀である」
七瀬に続いてアキが話しかける。

そして次々と・・・

『竹に雀』の紋、上杉景勝・涼香
『丸に十の字』の紋、島津義弘・圭
『九曜』の紋、石田三成・汐音
『丸に違い鎌』の紋、小早川秀秋・穂波
が次々と立ち上がる。

そして、『五本骨扇に月丸』の紋が現れた。

「おお、佐竹殿か・・・。如何なされた?」
「憑代がここにおらぬのでな・・・。些か遅れ申した」
病院で気を失っている萌の事である。
「義宣殿、大儀じゃ」
「姫様も・・・」
千姫を中心として、7人の武将達が円陣を組むように傅いた。
「じゃが・・・」
圭・島津義弘が反対側の舞台上へと視線を走らせる。

「おぬしらか・・・」
汐音・石田三成が言葉を繋いだ。
その視線の先には、5人の影が・・・


『一文字に三つ星』の紋をひな
『久留子(くるす)紋』の紋をめい
『向かい蝶』の紋をしずく
『三つ柏』の紋をうらら
『祇園守紋』の紋をかえで


それぞれが武将の影を纏っている。

「毛利輝元・小西行長・大谷吉継・島左近・立花宗重か・・・」
汐音が懐かしそうに呟く。


「そなた達に問いたい・・・」
ひな・毛利輝元が口を開いた。

「何故に、徳川の姫に使えるのだ?」
しずく・大谷吉継続が続く。

「石田治部、答えよっ!」
うらら・島左近も続いた。

「あの戦、何の為のものであったかっ!」
「控えよっ、千姫様の御前であるぞっ!」
七瀬・真田昌幸が一喝する。

「関ケ原にも来れなんだ者が何をっ!」
めい・小西行長が声を荒げる。

正に一触即発であった。

その時・・・

「待たれよっ!」
透き通った声で皆の動きを止めた者がいた。
涼香・上杉景勝である。

「ここにおられる千姫様は、織田・豊臣・徳川の全ての御血筋と知っての狼藉かっ!」
「そうであれば・・・」
「我らとて黙ってはおれん」
優奈・宇喜多秀家とここに実体の無い萌・佐竹義宣が歩み出る。

「・・・、皆。静まりあれ」
アキ・千姫の言葉に従う七瀬・真田昌幸達。


「輝元殿、お聞き下さらぬか?」
「何を?」
「ここな者達がなぜ、わらわに付き従ったのか・・・を」
「・・・、聞こうか。」
アキ・千姫が遠くを見つめ語り出す。


元和二年(一六一六年)、関ケ原の合戦より16年後・・・
江戸城内にて徳川家康が逝去した。
その時に残した書き付けがある。


『齢18の時に家紋の痣を持った8人の女が集まる時、我が徳川家に対して災いをもたらすであろう』努々(ゆめゆめ)忘るるなかれ』

あれから400年強、なぜ今になって自分達がここに集ったのか。
それは、徳川家康の復活が引き金となっていたのである。


江戸幕府の開闢は日本の開国を遅らせ結果、現在の混沌とした国家を生み出してしまった。
もし、新たに徳川幕府再興の意を持つものが現れればそれを何としても防がねばならないのだ。
千姫は語り掛ける、同じ西側の軍勢として徳川率いる東軍と対峙したのは何の為だったのかと・・・
いずれ家康による独裁幕府が作られる事を防ごうとしたのでは無かったのかと・・・


「じゃが・・・。今はそれどころではない・・・、輝元殿・・・」
「・・・?」
「この日の本の国が危ないのじゃ」
「なっ・・・、なんと?」
「世界の中、悪しき心を持つ国の者が暗躍しておる」
「過去の因縁に囚われてはおられぬ・・・か?」
かえで・立花宗茂が考え込む。

「我ら、千姫様の下に徳川と異敵からこの国を守る」
圭・島津義弘が声を高める。

「そなた達の気持ちも分からぬではない。だが・・・、ここは退いてくれぬか」
汐音・石田三成の言葉に悩む、ひな・毛利輝元達。

「手を貸して欲しいとは、言わぬ。ただ、わらわの祖父の過ちを繰り返さぬ事と、この国を護る為に今は退いてくれぬか・・・」

黙ったままの時間が流れる。


「その言葉、偽りはありませぬな・・・」
ひな・毛利輝元が口を開いた。

「天地神明に誓って」
「千姫様、御武運を・・・」
ひな・毛利輝元の顔に笑みが浮かぶ。


(そろそろか・・・)
手印を解いた晶が水晶の数珠を持った。

「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマンッ! 喝っ!!」
火界咒を唱えた晶の目がカッと見開かれる。


アキ達の体からほのかな光が舞うように現れ、上空へと昇って行く。

「あ・・・、晶・・・。今のは・・・?」
「どうだ、手品の種は見つかったか? お神酒」
「気のせい・・・。白昼夢だ・・・」
神酒を見て軽く笑う晶だった。

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