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第103話 FoolsFesta 始動!

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 萬度のアジトにある地下室・・・、ここはヤミ・イーシャの研究室である。
所狭しと怪しげな機械・器具が並んでいる。

「ふんふん・・・。こんな感じかなぁ」
ヤミが複数の試験官の液体をフラスコへと移しガラス棒で攪拌する。
その様子をじっと見ているのは・・・、孫である。

「完成シタノカ? ヤミ?」
孫の顔に邪悪な笑みが浮かんだ。

「やっほぅ~。出来たよ、孫」
怪しげな色の液体の入ったフラスコを嬉しそうに見つめるヤミ。

「バルビツール酸系(向精神薬)から作った超強力睡眠薬だよ~。これ飲んじゃったら永遠に起きないかもね~。ボク、知~らないっとぉ」
瞳をキラキラと輝かせて嗤うヤミ。

「しかもぉ、無味無臭。ボクの最高傑作だよぉ」
そう言ってフラスコを孫の顔へと近づける。

「ナルホド、何ノ匂イモシナイナ」
「試しに飲んでみるぅ?」
悪戯っぽく笑うヤミ。

「冗談デモ笑エナイナ」
孫が不機嫌そうに突っ返す。

「ねぇ、孫? 今回はボクが直々に届けちゃってもいいかなぁ?」
「オ前ガ?」
「だって、【ムーラン・ルージュ】の見納めになるかも知れないしさぁ。一度は直接見ておきたいかなぁって」
「フンッ! 好キニシロッ!」
「わぁーぉっ! サンキュー、孫」



この後、孫は駆との再交渉へと出向く事を決めたのであった。



Trrr Trrr

早瀬コンツェルン総帥室のインターホンが鳴った。

「何だ?」
「お電話が入っております」
「・・・、誰からだ?」
「孫様と・・・」
ついに待っていた時が訪れたのだ。

将一郎と駆は互いに顔を見合わせ、大きく頷く。
そして、駆が受話器を上げた。

「やぁ、孫大人(ターレン)・・・。やっと連絡をくれましたね」
「ホウ・・・。大人ト言ウトハ・・・」
「目上の方に対する礼儀と伺いまして・・・」
「フンッ! マァ良イガ・・・」
「ご連絡を頂く前にDmazonの決済機構は変更しておきましたよ・・・。自動融資付きに・・・」
「準備ガ良イナ」
「せっかく大儲けするチャンスなんですから」
「俺ガ何ヲ売ロウトシテイルカ知ッテル筈ダガ・・・」
「えぇ、以前に横浜でお聞きしましたからね・・・。究極のダイエット薬でしょう?」
「Dmazonデ何処マデ捌ケル?」
「日本国内ならどこでも、海外ならFaDaxとも提携してますから・・・」
「分カッタ・・・」
「それと・・・」
「何ダ?」
「【ダイナマイト・ガールズ】のお勧め商品紹介の件ですよ。あるテレビ局と話が付きましたよ。大層、乗り気です」
「ソウカ・・・。イツノ間ニカ、逞シク成ッタヨウダナ」
孫の声に笑いが混じって来たのが感じられる。

「俺も成長したんですよ・・・。色々とありましたからね」
「ソウカ・・・。マァ良イ」
「どうです? メシでも食いませんか、赤坂 花の井あたりで・・・」
「時間ト場所ハ・・・。〇月×日 19:00に横浜 大成金飯店ダ」
「中華街か・・・」
「何ダ・・・。不都合デモ有ルノカ?」
探りを入れ値踏みしているような言い方である。

「いや、問題ない。料理はそちらで手配して下さい、後はこっちで払いますよ」
「オ前ニモ届ク商品ヲ見セテヤロウ」
「それは、楽しみです」
「・・・。デハ・・・、ナ」
通話が切れたのを確認し、駆も受話器を置く。
全身からドッと汗が噴き出て来る。

「あれで良かったのかな・・・」
「うむ、相手の懐に入らねば孫も信用はすまい。これが最良だっただろう」
「ふっ・・・」
「どうした?」
「いや・・・、親父に褒められたのっていつ以来だったかなって・・・」
「駆・・・」
「大丈夫だよ。絶対にやり遂げてみせるさ」
(奈美さんの為にも・・・)
そして、この事は飛鳥井・隼人を通じて関係各署へと通達されていった。


この時、もしヤミが孫の近くにいれば簡単に場所を決めずにいたかも知れない。
しかし孫には焦りもあり一気にケリをつけてしまいたいとの思いもあった。


「〇月×日 19:00・・・。アイドル甲子園の決勝と同じか・・・」
将一郎からの連絡を受け、飛鳥井が隼人達を集めていた。

「届く商品と言うからには・・・」
「まだ国内には持ち込んでいないという事か・・・」
「大友君・・・」
早乙女が武蔵を呼ぶ。

「海岸線は君に頼む事になるな」
「任せておいてください」
「大成金飯店への突入は竜馬の指揮で」
「はいっ!」
「各公道封鎖は隼人君の指揮下だな。二月会の事も・・・」
「そうですね。それと、神奈川県警にも協力要請を・・・」
「それは、私からしておこう」
飛鳥井が言う。

(アイドル甲子園の決勝と同刻か・・・。アキちゃん・・・)
竜馬の胸に去来したのは一抹の不安だったろうか・・・



二月会本部では、隼人が萬度の拠点リストを如月へと手渡している。

「横浜を中心とした萬度のアジトと思われる場所のリストだ」
「結構あるな・・・」
「出来るか?」
「出来るかじゃねぇ。やるんだよっ!」
二月会の組員達が各地の親分たちにその場所を伝えていく。


「〇月×日 19:00です。担当は〇〇市の△△ビルっ!」
「分かった、任せとけ。一歩も出れねえようにしてやるぜっ!」
同じような会話が関東各地で夜遅くまで続いた。

(・・・)
様子を見ていた如月が会長室へと戻り電話を架ける。

「はい・・・」
「橘か?」
「ゆかりって呼んでくれても良いけど・・・」
「質(タチ)の悪い冗談だ」
「ふふっ、それで何?」
「すまねえが・・・。〇月×日は、一日自由にさせて貰う」
「アイドル甲子園の決勝の日よね・・・」
ゆかりに歩み寄り、ミネルヴァが手を差し出した。
黙って受話器を渡すゆかり。

「夏生・・・」
「ミ・・・ッ!」
「萬度を壊滅させるチャンスだ・・・。しっかりと役目を果たして来い」
「な・・・、何でそれを・・・?」
「儂は何でも知っておるのだよ・・・」
そう言ってミネルヴァは受話器をゆかりに返す。

「さて、そろそろ潮時かな・・・。弾?」
立ち上がる弾を見るミネルヴァ。

「その日は・・・。俺も自由にさせて貰う・・・」
「なっ・・・、勝手なっ!」
思わずゆかりが叫ぶ。

「構わん・・・」
「えっ!?」
「しっかりと最後を見届けて来い・・・」
「それと・・・」
「何でしょうか?」
「アイドル甲子園の決勝戦は我々も見に行く事としよう」
「分かりました。では、手配を・・・」
「丁度よい余興になるか・・・」
ニヤリと笑うミネルヴァであった。


そして、数日後・・・

アイドル甲子園の決勝と日を同じくして、『FoolsFesta』も開始される事になったのである。
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