知らぬは本人(バカ)ばかりなり

関日向海

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ダンスパーティーでの断罪劇……?

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「メアリー!今ここで貴様との婚約を破棄し、新たにチェリー・ルミナス子爵令嬢との婚約を宣言する!」


あーあ、言っちゃったよあのバカ。
私は大きく息を吐いた。







今日は生徒会主催のダンスパーティの日。

煌びやかな照明と舞台、広々としたダンスホールの至る所に色とりどりの華やかなドレスを身に纏った女子生徒達と、彼女達をエスコートする礼装の男子生徒達。
テーブルに所狭しと並ぶ料理にスイーツ。

学校行事というよりも、もはや夜会と変わらないレベルだ。
これを予算をやりくりして調達するまでが大変だったのだが、喜んでくれれば苦労も報われるというもの。

あくまでも学校行事なので行事らしく学院長が開会の挨拶をして、さぁファーストダンスを……と楽団に合図を送ろうとした、まさにその瞬間。


「ちょっと待ったーーー!!」


と叫んで、バタバタと舞台前に設けられた階段を駆け上がり、それまで学院長がいた場所を占拠したのが、あのバカ(本日2度目)とふわふわのストロベリーピンクの髪を靡かせた女子生徒。

シャンデリアから注がれる光を浴びて、無駄にキラキラしてるよピンク頭が。
着ているドレスもストロベリーピンクってどんだけ好きなのよピンクが。

そりゃ参加者全員の注目を浴びるでしょ。
それから何を言い出すかと思えば、婚約破棄宣言とか。

本当、常日頃からバカだバカだと思っていたけれど、バカの行動力を甘くみていたわ。

私の黒歴史がまたひとつ、増えてしまった。





申し遅れました。
私、メアリー・スペンサーはパリピッピ王国の伯爵令嬢です。

そして私に婚約破棄を宣言したあのバカ(本日3度目)はロラン・クライシス侯爵令息。

金髪碧眼で甘いマスクのいわゆるイケメンなんですが、とにかく頭の中が空っぽ。

叩けばいい音が鳴るんじゃないのかしらってくらいで、学力も毎回最下位争いをしているところからお察しください。

なのに侯爵令息としてのプライドはチョモランマよりも高い。

どう教育すればこうなるのやら。

この調子だと侯爵家の教育係は給料ドロボーって噂が流れちゃうけれど、大丈夫なのかしら?

そんな彼と婚約したのは私の黒歴史でしかないのですが、父伯爵とクライシス侯爵は事業提携していたため、両家の結びつきをさらに強くするための婚約。

いわゆる政略的な婚約です。

その理由すらわからないから、こんな恥晒しな事をやらかすんですけどね、あのバカ(本日4度目)は。

お陰様でこの数ヶ月の努力が水の泡なんだけど、どうしてくれましょう。

それにあのピンク頭の方にはとある噂があるんだけど、知ってて婚約するつもりなのかしら。
それは追々聞くとして、まずは舞台から降りていただきましょう。

皆さんにご迷惑をおかけしますからね。


「その話は別室で承ります。後の進行が遅れますから、さっさとそこから降りてくださいませんか?」
「断る!」
「……理由をお聞かせいただけますか?」
「決まっているだろう!ここにいる全員に証人になってもらうためだ!貴様の事だ、別室に行ったらそのまま放置するだろうが!」


ああ、そこは分かっているんですね。
あまりにも話が通じないので、何度か放置した事を根に持っているみたいですね。

それでも最初の3度くらいは私を待っている間に自分が怒っていた理由を忘れてしまっていたのだから、その程度の事だったんでしょう。
自業自得なのに恨まれる意味が分かりません。

それでもバカはバカなりに脳みそを絞っているようです。実に浅はかですが。

「ロランさまぁ頑張って!」
「心配いらないよチェリー。すぐにあの女と別れて君を婚約者にするからね」
「嬉しい!ロランさま!」

猫撫で声で甘えるピンク頭の髪に口づけるあのバカ(本日5度目)
あんな至近距離にいて、本当に気づいていないのかしら。

周りの紳士淑女(のひよこ)達も笑いを堪えていらっしゃるのに。
知らぬは本人バカばかりというところね。


「それで、婚約破棄の理由を聞かせてくださいませんか」
「俺はこのチェリーと真実の愛を貫く!」

真実の愛、ねぇ……。

どこからそんな難しい言葉を仕入れてきたのか。まぁ100%ピンク頭さんからですわね。

貴族の結婚には必ずしも「恋」は必要ありません。なぜなら家と家との繋がりを重視するからです。

それに対して「愛」は双方の歩み寄りの結果であり、時間をかけて育んでいくもの。

始めは政略結婚であっても、愛情ある家庭を築いている家もあるのです。
うちの両親みたいにね。

だから、あのバカ(本日6度目)とも時間をかけて愛を育てていこうと思っていたんですよ。
つい、先程までは。

そんな気持ちも婚約破棄宣言で吹っ飛びましたけど。

「それに!貴様はチェリーをいじめていたそうではないか!?そんな冷たい女を侯爵家に入れる訳にはいかない!!」

ドヤ顔で言い切ってますよ。

ピンク頭もぶんぶん首を縦に振ってますが。あら、髪の毛が不自然に上下しまくっていますけれど、指摘した方がよいのでしょうか。

ピンク頭さんの顔が半分見えなくなっているのに、あのバカ(本日7度目)は全く気づいておりませんね。

「証拠は?」
「チェリーから聞いた!」
「それだけ?」
「それだけだ!」

冤罪を被せる気ならせめて証言する人を雇うとか、物的証拠を作るとか……そんな知恵もないか。なんといっても脳みそ空っぽですから。

もうね、だんだん付き合うのが面倒くさくなってきました。
楽団の指揮者さんも困っていますし、舞台袖に下がった学院長もため息ついてますし。

そろそろお終いにいたしましょうか。



「まったくもって見苦しいね」

ため息混じりの声がすぐ近くで聞こえてきたので、私は驚きました。

いつの間にか私の隣に並ぶように立っていたのは、ジョルジュ・スタークス公爵令息。
パリピッピ王家の血も入っている、名門公爵家の御子息です。

王家に代々受け継がれるプラチナブロンドの髪をかき上げる仕草も実に様になる。
非の打ち所のない美丈夫。

今日も白を基調とした礼服をそれはそれは見事に着こなし、女子生徒達のハートを鷲掴みにしております。

私達の年代には王族の方がいらっしゃらないので、ジョルジュ様が身分の上では最高位なのです。
もっとも、ご本人は身分に関しては無頓着なんですが。

「騒ぎを解決できずに申し訳ありません、会長」

私はジョルジュ様に頭を下げて、事態を収束できない事を謝罪します。
ちなみにジョルジュ様は生徒会会長で私が副会長です。

「いや、副会長は悪くない。それにしても話を聞いているとあまりにも低俗すぎてね……」

まぁ普通に考えたらあんな言い分が通るはずもありません。
壇上のふたりの頭がおかしいだけだと、本人達以外は全員理解しているのです。

「キャー!ジョルジュさまぁ!どうしてその女の隣にいるんですか?あたしをいじめた性悪なのに!」

ピンク頭がキンキンと喚いています。
先程はまでの猫撫で声はどこいったのでしょうか?
そして相変わらずピンクの髪が上下左右に動きまくってるけど、本当にそのままでいいのでしょうか?

「副会長はここ数ヶ月、今日のダンスパーティーの準備に昼夜問わず駆り出されていたんだ。いじめをする隙間すらなかった」
「どうしてわかるんですかぁ?見てたんですか?」
「僕を始めとした生徒会メンバーが常にひとりは一緒だったからね。ちゃんと調書も作ってあるし、なんなら見せてもいいよ」
「そんな訳ない!あたしはいじめられたんだー!」

ついにピンク頭が地団駄踏み始めましたよ。
さすがのあのバカ(本日8度目)もどう対処していいのかオロオロしています。
すると。

「あっ……?!」
「ち、チェリー?!」


きゃああああああ!!という悲鳴をあげながらピンク頭が壇上から転げ落ちていきます。
地団駄踏んでる内に足を滑らせたんでしょうね。
そして1番下まで落ち、ようやく止まりました。
あまりの急展開に誰も動けません。
駆け寄って手を差し伸べようとする人もいません。
あのバカ(本日9度目)すら動こうとしませんからね。
ピンク頭さん、こんな時に助けてくれるお友達すらいなかったんですねぇ。

「もう……!ひとりくらい助けてくれてもいいじゃないのよ!!」

ガバっと起き上がったピンク頭……が、無い。


「ぷっ……ちょっと、あなた……うくく……」

もう我慢できません。

淑女として人前で笑ってはいけないと頭では理解していても、込み上げるものを抑えきれず、声が漏れてしまいました。

「何よ!ちょっと階段から落ちただけじゃないの!」
「そうじゃなくて……頭……」
「頭……って、え?!」

ピンク頭、私の言いたい事に気付いたのか、両手を自分の頭に当てておりますよ。

ない!ない!と喚きながら。

可愛らしいストロベリーピンクの髪はありません。あるのはお団子にした茶色の髪。

そう。
彼女ご自慢のストロベリーピンクの髪はヅラだったのです!!

階段から転がっていく途中ですっ飛んでいったようです。

地毛の割には不自然にキラキラしているとか、時々前髪の位置が変わってるとか、トイレの鏡に向かってブツブツ言いながら髪をいじっていたとか、色々噂は聞いていましたけど、みんなスルーしていたのでした。

ピンク頭さんも、まさかこんな場所で秘密を暴露されるとは思ってもいなかったでしょう。

元ピンク頭さんは「私のピンクー!どこ行ったのー?!」と叫びながら、走っていってしまわれましたわ。

彼女が去った会場内はというと。

「ヅラが飛んで……飛んで……あはははは!」

ひとりが笑いだしたのをきっかけに大爆笑に包まれたのです。
それまで堪えていたものが一斉に噴き出された感じですかね。


笑い声が小さくなっていくのに気がついたジョルジュ様は、パンパン!と手を叩きました。

「さて、みんな気がすむまで笑ったかい?それではプログラムに戻ろうじゃないか。指揮者、音楽を!」

ジョルジュ様の合図に指揮者も顔を引き締め、タクトを振り上げると、美しい和音が奏でられます。

それを合図に紳士淑女(のひよこ)たちはダンスホールに歩を進めます。

「副会長、僕と一曲踊っていただけませんか?」
「もちろんです、会長」

ジョルジュ様が差し出した手に私のそれを重ね、ダンスの輪に加わります。

出だしは躓きましたが、うるさい人はご退場しましたし、ここから楽しめばいいんですよね。

この日のためにドレスを新調したのが無駄にならなくて何よりです。

それからはトラブルもなく、ダンスパーティーはつつがなく進みました。

そしてただひとり、あのバカ(本日10度目)だけは何が起こったか理解できず、パーティーが終わるまで呆然と壇上に立ち尽くしていたのでした。





で、結局、私の婚約はどうなるのかしら?


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