好きなんて、ウソつき。

春茶

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第一章

太陽くん

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やっとお昼時間。

「未菜お弁当一緒に食べよ」

「あっうん!ちょっと待ってね」

ガサガサ。

あれ?

ガサガサ。

うそでしょ。

ガサガサッ!

ないない。
お弁当がなあああい!!

「未菜?」

「ごめんっ、お弁当家に忘れてきちゃった…」

「ええ?なら早く売店行かないと売り切れちゃうよ」

「まだ残ってるかなぁ…。ミユ先にお弁当食べてていいから!」

「了解」

あーもう!!

朝は何かと慌ててたからお弁当持ってくるの忘れたんだ…。
もー、ほんとついてないよ今日は!

長い廊下をバタバタと全速力で走る。

…………。


「おばさん。ここ、売店だよね?」

「ふんっ」

「ふ、ふんっ?」

腕を組み顔をそむけるおばちゃん。
ここの売店のおばちゃんは日によって機嫌が悪い時がある。

…どうやら今日は機嫌が悪いらしい。

「ふんっじゃなくてさぁ、まだお昼休憩に入ってから五分しか経ってないのにお弁当もないし…このサンドイッチしかないの?」

「ふんふんっ!」

「…えっと、メロンパンとプリンあります?」

「ぷんぷん」

話になんねぇ…!

「おばちゃん!売店なんだからもっとたくさん用意してくれなきゃ遅れてきた人達が買えないでしょ!」

と、自分勝手な発言をする始末。

……はぁ。
おばちゃんにあたったって仕方ないよね。
あたしのバカ。
寝坊してお弁当忘れるなんて。
せめて美味しいお弁当食べたら今日のことなんてぜーんぶ水に流せたかもしれない。

……仕方ない。

今日は何も買わないで昼食抜こう。
まぁ、最近お腹周り気になってきたし?
…丁度いいや。

とりあえず自動販売機でいちごミルクを買って屋上へ向かった。

ここの学校の屋上は、基本生徒達は立ち入り禁止になってる。

だからってさ
みんなが美味しそうに食べてる中お腹鳴らして黙って見てるのなんて嫌だもん。

ミユには一応連絡入れてっと。

手慣れた手つきで屋上のドアを開けた。


「っ……きーもちい!」


ドアを開けた瞬間フワっとあたしを包んだ暖かい春の風。
雲一つない晴天の青空。

それと同時に視界に入った明るい栗色の髪。

春色の風で揺れる白いワイシャツから覗く綺麗な手。

両腕で上半身を支え、空を見上げるように座っているその人は綺麗なその景色に溶け込んでいて。
まるで映画のワンシーンの様だった。

「…きれい」

「ん?」

ふいに彼が振り向いてハッとした。

「あっ、すいません!つい心の声が」

自然と漏れた独り言に慌てて自分の口をふさいだ。
彼は首だけで振り返りあたしを見る。

うわー…綺麗な目だなぁ。

まるで奥まで見透かされるような。
ビー玉みたいな瞳に、吸い込まれるように見とれていた。

するとフリーズしていた彼の瞳孔が開く。

「うおっ!びっくりしたぁ!」

「え、あ!ごめんなさい!」 

「いやいや!ただびっくりしただけ。ここに人来ると思ってなかったからさ」

それはお互い様です…。
だってここは立ち入り禁止なんだから。

「あたしも人がいると思わなかったからびっくりした…」

「ははっ。あ、こっち座る?今日はすごい眺めがいいよ」

「え?」

「ほら、はやく来てっ」

無邪気な顔で手を引かれて
戸惑いながらも彼の隣に腰をおろした。

「ほらっ。どーよ」

彼につられて空を見上げる。
今日は雲一つない快晴だ。

いい感じと言われても、彼のいい感じとはどういうものなのか。

「んー…確かに晴天だけど。いつもと変わらないような…」

「ダメだなぁ。よーく見て、じーっと見てたら星が見える!」

「えー?星なんかないですよ」

「あるある!あ!ほら、向こうの雲とかさ、鳥の形に見えない?」

「とりー?見えない見えない」

「見えっから!」

彼が子供のように無邪気に笑うからあたしもつられて微笑んだ。
人懐っこいのか、子供っぽいのか。
初対面のあたしの手を引いて、こんな屈託のない笑顔を見せるのだからきっと心の綺麗な子なんだと思う。

よく笑う。

それが彼の第一印象。











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