好きなんて、ウソつき。

春茶

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第四章

言えない答え

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「ねぇ、どこいくの?」

「…」

「ねぇってばっ」

振り向いたとおもったらいきなり手首を掴まれて壁に押さえつけられた。

「きゃ…」

「腹立つんだよ」

「え?」

「あんな奴らに触られたとか…見られただけでも気狂いそうなのに」

「え…?いっ…」

つかまれている手に力が加わり少しだけ痛い。
だけど、今にも泣きそうな彼の顔を見たら手首の痛みよりも胸が痛んだ。

関村でも、こんな顔するんだ。
…初めて見た。

「俺、いままで女に本気になったことないから付き合う意味とか好きとか…正直わかんねぇ。誰かに必要とされたらそのまま受け入れてきたんだ」

さっきとはまるで別人みたいに、優しくあたしを抱きしめる関村が壊れそうなくらい弱々しくて。
抱きしめ返すことすら出来ず、ただ彼の体温を感じていた。

「だけど、お前はちがった。こんなに心かき乱されたの初めてだよ。だから正直、お前への接し方も扱い方もわかんねぇ」

「…っ」

「でも俺の女にしたい。俺だけのお前でいて欲しい」

「関村っ…」

「もう一回だけ、チャンスくれないか?」

ー…あぁ。
この日をどれほど待っていたか。
あたしだって、こんなにあんたのことが大好きだよ。
忘れることなんてできなくて、誰よりもあんたを見つめてた。
何されてもあんたなら
本気で好きになったあんただから許してしまう薄情な自分がいる。

だけど、どうしてかな。

「…離して」

「未菜?」

「あたし…戻る」

今は太陽の顔が頭からはなれないの。
あの人はなにも悪いことなんてしてない。
いつだって元気付けようと、あたしを笑わせてくれようと一生懸命で。
今日だってこんなことになるなんて予想してるはずもなくて、それなのにいきなり殴られて独り置いてきてしまったことがなによりも辛かった。

前のときみたいに声をかけれないまま、彼のあんな悲しい顔なんて、見たくなかった。

「戻るって…どこに?」

「…太陽のところ」

「なんで?…俺よりあいつがいいのか」

そうじゃない。

「俺だけなのか…?お前のこと想ってるのは」

ちがうよ、関村。

「なんか言えよ…」

「違うんだよぉ…」

伝えるのが下手くそでほんと嫌になる。
本当は好きって言いたい。
あたしにとっては夢のような話だよ。
でも…そうなったら太陽は?
いつだって自分より相手のことを優先する優しい人だから、今も公園に一人ぼっちで自分を責めているに違いない。
自分でも自分の気持ちが分からなくて何も言えず、ただ泣いているなんて
こんなの目の前の彼を困らせるだけなのに。

「なんで、泣くんだよ」

「ごめん…」

「…そうだよな。さんざん傷つけたもんな。今更好きなんて都合のいい話だよな」

「…っ」

「…行けよ」

あたしはただ、涙をふいて太陽の元へ走ることしかできなかった。

「太陽?…太陽!」

公園の中、名前を呼んでも返事はない。
周りを見渡しながら、彼を探した。

「あ…」

消えそうな暗い蛍光灯に照らされた横顔。

ベンチに腰をかけている彼はまるで抜け殻のように動かない。

「…太陽」

彼の前に立つと、ゆっくりと顔を上げてあたしに力無く微笑んだ。
目の下は紫色に腫れ上がっていて、口には血が滲んでいる。

「痛いよね…ちょっとまってて」

クシャクシャのハンカチを公園の水道水で濡らして、太陽の口元にそっと当てた。
ゆっくり動いた彼の手が、頬に触れているあたしの手を包み込む。

「…未菜ごめんな。俺の不注意で怖い目に合わせて。…怖かったよな。なんにもしてあげられなくて…ほんとに俺最低だ」

「ううんっ…太陽は悪くないよ。自分の身を守れないあたしのせいでもあるから」

「未菜は女の子なんだからそれがあたりまえなんだよ。そのために男の俺がいるのに」

今にも泣きそうな彼になんて声をかけたらいいのだろう。
触れている手が温かくて、喉の奥から熱い何かが込み上げてくる。

「情けねぇなぁ…。あいつの言われた通り女一人守れねぇなんて情けないよ。なんでいつも思い通りにいかないのかな…」

「太陽…」

「俺、未菜を好きな気持ちは誰にも負けない。…だけどこんな目に遭わせて好きなんて…言う資格ないよな」

胸が苦しい。
あたしだけじゃなくてきっと太陽も…関村も。

「っ…」

「未菜…?」

「あたしわかんないよ…っ。2人のこと傷つけてばっかりじゃん。なのになんで…」

泣くことしかできない弱虫。
この傷も元はと言えば全部あたしのせいなのに。
どうして太陽も、関村も、こんなどうしようもないあたしを好きになってくれるの? 
不意に苦しそうな関村の顔が浮かぶ。
もしもあの時
あたしも好きだと答えていたら
今度は泣かないで、彼と楽しく過ごしていられたのだろうか。
…今更後悔してる自分がいる。
頭の隅には悲しい顔をした太陽がいて
彼を悲しませたく無い気持ちから関村に本当のことを言えなかった。

それなのに今、太陽の腕の中であいつのことを考えながら泣いてるなんて…あたし本当に最低な女だ。
今更後悔しても、もう遅いのに。
あたしが選んだことなのに。
それなのに…どうして関村の顔が頭から離れないの。

「…帰ろう。」

そう切なく微笑む彼にあたしは頷くことしか出来なくて。
彼の少し後ろから、悲しげな背中を見つめることしかできなかった。
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