異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸

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第一章

二十五話 婿養子、春を満喫する

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 春の陽気に丘は色とりどりの花が咲き乱れ、僕達の目を楽しませてくれている。

 今日は皆んなで敷物を敷いて、外でお弁当を食べようとプチハイキングだ。家のすぐ近くだけどな。

「はい、パパ、あげる」
「わぁ、ありがとう佐那」
「つぎは、ママのつくるね」

 佐那が僕に、花の輪っかを作ってくれた。皐月の分も作るとお義母さんとお花を摘みに行った。

「良い天気だね、修ちゃん」
「ああ、寒くもなく暑くもない、丁度いい気温だな」

 皐月が水筒からお茶を淹れて手渡す。それを受け取って一口飲んで、丘を駆け抜ける気持ちいい風に、本当に良い場所を見つけたと思う。

「こうなると、お花見したいわね」
「ああ、桜の木は是非欲しいな。原種でも何でもいいから探してみるか。探すならこの季節が丁度いいしな」

 異世界に来ても、やっぱり僕らは日本人なのか、春となると桜の花が見たいと思ってしまう。

「桜か、花見酒……悪くないな」

 一人手酌でお酒を飲んでいたお義父さんも、花見酒というワードに心惹かれたみたいだ。

「修二君、明日から暫くフーガを貸してくれんか?」
「えっと、お義父さんが桜の木を探すんですか?」
「うむ、レベル上げを兼ねてな」
「あら、それでしたら私もご一緒してもいいわね」
「えっ!? お義母さんもですか!」
「ママ、できたよ!」

 お義父さんがフーガと桜の木を探しに行くと言うと、何とお義母さんが一緒に行くと言い出した。
 佐那は、皐月の分の花の冠を手渡し、皐月を感激させている。

 実は、お義母さんがレベル上げを目論む理由は分かっている。

 この世界に来た当初、気付いてなかったんだけど、僕と皐月を含めお義父さんやお義母さんも少しだけ若くなっていた。

 それは年齢にして十歳程度だけど、それが何処まで女神様のサービスなのか、この世界に来た途端18まで上がったレベルの所為なのか分からなかった。ただ、その後のお義父さんのレベルアップによる若返りは、僕や皐月が驚くほどだった。

 何せ今のお義父さんは、三十半ばに見えるのだから。

 そうなると黙っていられないのはお義母さんだ。もともと年齢よりも若く見えたお義母さんだけど、六歳上のお義父さんよりも年上に見られるのは、我慢できなかったみたいだ。

 今の時点で、お義父さんとお義母さんは、同じくらいの年齢に見えるから、気にする必要はないと思うけど、それを言ってはダメな事くらい分かっている。

 レベルアップによる若返りというか、正確には長寿命化なんだけど、これは家族皆んな積極的に取り入れる方向で決まっている。それはもう皐月やお義母さんの熱意の凄い事と言ったら……

「でも、お義母さんや皐月がこれからもレベル上げをするなら、防具は用意した方がいいですね」
「そうだな。頭の防具と胴鎧、あとは籠手も有った方がいいか」
「出来るだけ軽い方がいいですよね」

 一応、フーガも居るので、滅多な事はないだろうけど、備えておくに越した事はない。
 お義父さんと皐月とお義母さんの防具について、アレコレと話していると、皐月がそれに異を唱える。

「その前に、お父さんと修ちゃんの防具が先じゃないの?」

 その意見を聞いて、僕とお義父さんが顔を見合わせる。

「確かに」
「それもそうだな」

 皐月に指摘されてお義父さんと頷く。

 なまじ武器が神剣なんか持っている所為で、今まで死ぬかと思ったのは数回しかない。それもフーガと契約してからは一度もない。

 それだけに僕とお義父さんが森へと向かう時、ほとんど普段着に近い格好だった。

「修二君、防具は最低限で構わないよ」
「……ですね、分かりました」

 僕が造るんですね。はい、分かってましたよ。

 そこでどんな防具にするか考えてみる。

 僕もお義父さんも、多少重い鎧を装備しても問題ない身体能力がある。とはいえ、戦国時代の鎧兜は、いちいち装備するのも面倒だ。

 となると、今風に簡略化するか。

「ねえ皐月、この世界の防具ってどんな物か分かるかな?」
「えーと、確かキシャール様から頂いた本の中に、世界文化図鑑が有った筈……有った、これこれ」

 皐月の無限収納の中に有る各種様々な本の中に、この世界の防具の様子が分かる物がないか聞いてみると、皐月が無限収納の中を探り一冊の分厚い本を取り出した。

「世界文化図鑑か、本当にキシャール様には感謝だよな」
「そうよね。魔法関連や魔物図鑑から植物図鑑に調薬の本。本当に色々な本を入れておいてくれたんだものね」

 僕の無限収納には、様々な道具や工具類が主に入っていたが、皐月の無限収納の中には知識に関係するモノが多かった。

 皐月から本を受け取って、パラパラとめくるとこの世界で流通する防具の種類が、挿絵付きで載っていた。

 何となくそうだろうなとは思っていたけど、ファンタジー系のアニメに出てきそうな武器や防具だった。

 流石に派手な防具は無理だな。僕の精神がもたない。

「うん、どうした修二君」
「いや、これ見て下さいお義父さん」
「どれどれ、ふーむ、成る程のう。あまりこの世界の常識から外れた防具は不味そうだな」
「ええ、どちらにせよ最低限の部分を守る防具にするつもりでしたが、デザインはこの世界風に寄せる必要がありそうですね」

 この世界の防具の一つで騎士鎧などは金属製の全身鎧、形は中世ヨーロッパのモノとは違い、何故かアニメにでも出てきそうな鎧だ。他にも防御を重視する重戦士は、金属製の胸当てや籠手を装備するようだ。そして僕とお義父さんが選んだのは革鎧だった。

 革製の胴鎧に、金属で補強した籠手と脚甲で十分だとの意見で一致した。

「修二君、手にピッタリと馴染んで動きを阻害しないグローブも造れないかね」
「うーん、それは僕も欲しいですね。でも、多分皐月とお義母さんに手伝って貰わないと無理ですね」
「私は錬金術で素材の加工だね。任せて修ちゃん」
「私も革の加工はお手伝いしますよ」
「ありがとう皐月。ありがとうございますお義母さん」

 魔物素材を加工するのは、そのまま加工する方法もあるが、皐月の錬金にかかれば、鋼が魔鋼になったように、素材としての性能を上げてくれる。そこにお義母さんの裁縫スキルがあれば、革のグローブや鎧を造る時に助かるんだ。裁縫スキルの守備範囲が広くて良かった。

 僕が防具のデザインなどの諸々を考えていると、佐那がトコトコ駆け寄って来て僕に抱きつく。

「パパー、どうしたの?」
「ん、パパとお爺ちゃんの防具を考えてたんだよ」
「サナも! サナもぼうぐほしい!」

 佐那がぴょんぴょん跳ねて、防具を強請ってきた。多分、何でも僕の真似をしたいだけだと思うけど、流石に佐那には早いだろう。

「佐那には少ーし早いんじゃないかな」
「や! サナもパパとジイジといっしょがいいの!」
「ほぉほぉ、佐那はジイジと一緒が良いのか」
「うん!」
「修二君、佐那の分も頼むぞ」
「…………はい」
「わーい! わーい! パパとジイジといっしょ!」

 お義父さん、佐那に甘すぎると思う。

 まあ、佐那が魔物を討伐に行く訳じゃないから、ヒーローもののコスプレと同じノリだと思おう。

「分かっていると思うが、軽く動きやすくな」
「……はい」

 佐那が喜んでいるから良しとするか。

 現実逃避気味におにぎりを食べるのに集中する僕だった。



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