異世界立志伝

小狐丸

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決断

 俺とバスターク辺境伯は、静かに、だけど精力的に動き出した。

 それは、今まで通りの領内開発であり、貿易の促進だったりしたので、国王派や貴族派の注目が集まる事はなかった。

 ただ、ドラーク伯爵領とバスターク辺境伯領への移民や流民の流入が、以前にも増して増加している事に気がついた者も居たが、わざわざ大量の移民や流民を受け入れる、バスターク辺境伯やドラーク伯爵をバカにする事はあっても、その本当の意味を理解する貴族は少なかった。一部の貴族は、バスターク辺境伯領やドラーク伯爵領の国力が上がり、軍の増強がなされている事に気が付き、警戒する者も居たが、大部分の貴族達は、不都合な事実に目を向けなかった。
 彼等の領地ではスラムが広がり、街の景観の悪化、領民との衝突、治安の悪化に悩まされていたのだから、そのスラムが縮小する事は、自分達が何もせずに、問題が解決するようなものだから。
 スラムに住む人間は税金を納めない。領主にとっては、邪魔でしかない存在だった。もともとスラムの住民も、近隣の農村や町で、税金が払えなくなったり、飢饉で生きれなくなって流れてきた元領民なのだが。
 それが最近、急激に拡大していたスラムが、縮小傾向にあるとの報告を受けた領主達は、単純にそれを喜んだ。治安維持の為の経費も削減出来るのだから、自分で何もせずに問題が解決に向かっていても、不思議には思わなかった。そこに俺達、中立派が関係しているとは思わなかっただろう。

 それが、俺やバスターク辺境伯の思惑通りの事であっても。

 ドラーク伯爵領とバスターク辺境伯領は、帝国との戦争で、チラーノス辺境伯領を割譲されて、新たな領地の開発で、人は幾らでも必要だった。
 もともと俺の領地は、手付かずで開発可能な未開地が多くある。それこそ仕事は山ほどあるんだ。
 そこで俺と義父で、国王派や貴族派の領地から、スラムの住民をスカウトし、密かに俺たちの領地へと移住させたんだ。
 ただ、スラムの住民全てを受け入れる訳にはいかない。犯罪者を受け入れないのは当然として、なかには間者が紛れ込んでいる場合もあるからだ。

 俺達は慎重に、少しづつ領民を増やしていく。

 他の領地と違い、ドラーク伯爵領とバスターク辺境伯領を合わせれば、数万の領民を受け入れたとしても、財政、食糧共にまだまだ余裕があった。

 領地を治める貴族にとって、領民は財産でもある。それ故、領民の流出など普通なら許されない筈なのだが、大量に増え続けた、税金を納めないスラムの住民の把握は難しかった。当然、村や町では、税金が払えない領民に対して、奴隷に落としたりするのだが、数少ない役人では対応しきれなかった。
 その結果、多くの領民がバスターク辺境伯領やドラーク伯爵領へ流出する事になるのだが、その事に気がつくのはずっと後の事になる。
 バスターク辺境伯領とドラーク伯爵領には、ゴンドワナ帝国やローラシア王国からの流民も多く流れて来ていたので、王国派や貴族派の領地持ち貴族達が、自領の領民と区別出来る筈もなく、それ以前に、自領のスラムが縮小していることを喜びはしても、その結果、領民の人口が減少して、国力が落ちていることに気がつかなかった。

 そして、俺の領地と義父の領地、俺達との交易で好景気な、他の中立派貴族達の領地は、少しづつ力を貯めていく。

 今頃、義父は王弟とその周辺と接触している。

 同時に誠意を持って王に諫言をしている。

 俺達の諫言を、王が真摯に受け止めて、サーメイヤ王国が、故バージェス王の頃の様に成れば良し、王弟が国を憂い、立ち上がるのならそれも良い。どちらでもなく、只々、サーメイヤ王国が傾くのを座して待つと言うのなら、俺達は最後の手段に出なきゃいけなくなるだろう。

 王の、王弟の、俺達の決断しなければならない時は、そう遠くはない。

 その時の為に、俺達は力を貯めこむ。

 土木魔法で、猛スピードで領地を開発し続ける。

 中立派の領地との街道を整備して、交易を加速する。

 王、王弟、俺達の決断が、この国にとって、最善である事を祈りながら。




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