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十三話 カペラの街
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白い兎耳がピクピク動き、毛布の中の小さな身体がゴソゴソと動く。
「……う、う~ん」
カペラの街に辿り着き、宿屋にチェックインしてルカをベッドに寝かせ、明日からの予定を考えていると、ベッドに寝ていたルカが起きだしたみたいだ。
ムクリと上半身を起こしてキョロキョロと部屋を見渡し、僕を見つけて安心したように笑顔になる。
「お兄ちゃん!」
「目が覚めた? そろそろ夕食の時間だから食べに行こうか」
僕に飛びついて抱きつくルカを受け止める。
「……お兄ちゃん、ここはどこ? 骸骨さん達はどこに行ったの?」
「ルカが寝ている間に街に着いたんだ。ここは宿屋の二階だよ。骸骨さんってアグニ達の事だね。街の中でアグニ達が居たら、街の人が怖がってパニックになるからね。三人はお休みしてるんだよ。さあ、ご飯を食べに行こう」
ルカを抱いて階段を下りると、宿屋の女将さんに声を掛けられた。
「おや、お兄さん夕食だね。空いてる席に座っておくれ。今日のおススメは、オークの塩漬け肉の煮込み、キャベツの酢漬け添えだよ」
「ルカ、食べられない物はある?」
「うーん、分かんない」
ルカに好き嫌いがあるか聞いたけど、そもそも好き嫌い出来る環境に育っていなかったんだろう。煮込みなら柔らかいだろうから大丈夫かな。
「じゃあおススメを二つと、果実水を二つお願いします」
「はいよ!」
テーブルに置かれたバスケットに入った柔らかい白パンを、ルカは不思議そうに見ている。
「食べていいんだよ」
「…………わぁー! 柔らかーい! お兄ちゃん! このパン柔らかくて美味しいよ!」
パンを一つ手に取って、ちぎってその柔らかさに驚き、小さな口に入れて、その美味しさに感激の声を上げるルカ。
「はい、塩漬けオーク肉の煮込みだよ」
「ありがとうございます」
運ばれてきた料理に釘付けのルカ。
「どうぞ、食べてごらん」
「うん…………うわぁ! 美味しーい!」
一口食べて、余程美味しかったのか、ルカは夢中で食べ続ける。
「おっ、これは美味しいな」
オーク肉は柔らかく煮込まれているし、キャベツの酢漬けもサッパリして美味しい。塩を振って焼くだけの僕のは料理って言えないな。
やっぱりちゃんとした料理は美味しいな。是非とも料理ができる仲間を見つけたい。
ルカは白パンとオーク肉の煮込みを口に頬張り、果実水で流し込むでいる。その小さな体のどこに入るのか、見ていて気持ちいい食べっぷりだ。
「ふぅわぁ、ルカ、もうお腹いっぱい。お兄ちゃん抱っこ」
「ハイハイ」
ルカを抱いて階段を上り、部屋へと戻るとルカをベッドに寝かせる。
「浄化」
自分とルカに、浄化魔法をかけた頃には、ルカはスヤスヤ可愛い寝息を立てていた。
「まだまだ体力が回復していないんだな」
(欠損を再生した事も関係があるんですよね)
(うん、再生は自分の体力を使って回復するからね)
僕の中からヴァルナの声が聞こえた。アグニ達は、送還されて僕の中に居ても警戒は解かない。常に僕を護っていてくれる。イグニートの事を過保護だと言えないくらいだ。
カペラの街で滞在して十日、ルカの体力も回復して、骨と皮だった身体も幼児らしくふっくらとしてきた。
その間、僕はルカの服や小物、日用品を買ったり、食料や調味料をストック用に買い足したりして過ごしていた。
それ以外にも、この大陸の情勢の調査も始めた。
先ず、良い思い出は少ない僕の祖国であるガーランド帝国は、大陸の北に広大な土地を治める軍事国家。この大陸に在る国の中で、ダントツに広大な面積を誇るが、その半分は小麦が育てられない寒冷地で、その為常に南へと侵略戦争を仕掛けている迷惑な国だ。
国民のほとんどが人族で、それ以外の獣人族やエルフ、ドワーフを亜人と蔑むのは、他の国と変わらない。
大陸中央のカラル王国。ここは大陸に在る国の中で、最も古い歴史のある国で、軍事国家ティムガット王国と同盟を結び、北のガーランド帝国に対抗している。
北のガーランド帝国と国境を接するのは、カラル王国とティムガット王国、それとここバルディア王国、ヴェルデ王国の四ヶ国。この内のヴェルデ王国は、高く険しい山脈で隔てられているので、実質は三ヶ国になる。接している国境線の長さが1番長いのがカラル王国で、次にティムガット王国なので、ガーランド帝国は、この二ヶ国と常に緊張状態にある。
ティムガット王国の東側、ヴェルデ王国の南側には自治都市群が広がり、都市同士が連合を組んでいる。
バルディア王国もガーランド帝国と国境を接しているが、そのほとんどが龍の墓場を中心とした森なので、防衛ラインが短く脅威としては、カラル王国やティムガット王国程ではない。
バルディア王国の南東、カラル王国とは砂漠を挟んで南に位置するのがローゼン王国。
ローゼン王国は、東側をティムガット王国と接していて、ティムガット王国と今は停戦中であるが、潜在敵国である。
そしてバルディア王国の南側に、少数部族や蛮族が縄張りとする土地が広がっている。この蛮族と呼ばれるのが厄介な奴らで、バルディア王国やローゼン王国で略奪行為を繰り返している。しかも蛮族は精強で知られ、両国の騎士団も大きな被害を出している。
さて、ここで大事なのが、多種族国家なのは、バルディア王国とローゼン王国、ヴェルデ王国の三ヶ国だという事。北側と西側を山脈に囲まれたヴェルデ王国は、鉱山が多い土地柄かドワーフが非常に多いが、国王は人族の国だ。ローゼン王国は逆に、エルフとダークエルフが強い発言権を持つ国らしい。
(だが多種族国家だと言っても、差別がない訳じゃないぞ)
(分かってるよアグニ。凡庸だけど数だけは多い人族は、選民思想に取り憑かれているからね)
(選民思想と言えば、ローゼン王国も主体となっているのはエルフとダークエルフですよ。人族の割合は半数だったと思います)
僕がどこかに拠点を構えるとなったら、ルカを差別から守らないといけないからね。その為の情報収集は大切だ。
(坊、バルディア王国はもう少し調べた方がいいんじゃないか?)
(だね。バルディア王国は、もともと少数部族が多かったとイグニートが言ってたから、僕達と友好的な街や村があるかもね)
アグニ達と相談して、今出来る事と言えば、バルディア王国の色々な街で情報収集するしかないという事に落ち着いた。
「……う、う~ん」
カペラの街に辿り着き、宿屋にチェックインしてルカをベッドに寝かせ、明日からの予定を考えていると、ベッドに寝ていたルカが起きだしたみたいだ。
ムクリと上半身を起こしてキョロキョロと部屋を見渡し、僕を見つけて安心したように笑顔になる。
「お兄ちゃん!」
「目が覚めた? そろそろ夕食の時間だから食べに行こうか」
僕に飛びついて抱きつくルカを受け止める。
「……お兄ちゃん、ここはどこ? 骸骨さん達はどこに行ったの?」
「ルカが寝ている間に街に着いたんだ。ここは宿屋の二階だよ。骸骨さんってアグニ達の事だね。街の中でアグニ達が居たら、街の人が怖がってパニックになるからね。三人はお休みしてるんだよ。さあ、ご飯を食べに行こう」
ルカを抱いて階段を下りると、宿屋の女将さんに声を掛けられた。
「おや、お兄さん夕食だね。空いてる席に座っておくれ。今日のおススメは、オークの塩漬け肉の煮込み、キャベツの酢漬け添えだよ」
「ルカ、食べられない物はある?」
「うーん、分かんない」
ルカに好き嫌いがあるか聞いたけど、そもそも好き嫌い出来る環境に育っていなかったんだろう。煮込みなら柔らかいだろうから大丈夫かな。
「じゃあおススメを二つと、果実水を二つお願いします」
「はいよ!」
テーブルに置かれたバスケットに入った柔らかい白パンを、ルカは不思議そうに見ている。
「食べていいんだよ」
「…………わぁー! 柔らかーい! お兄ちゃん! このパン柔らかくて美味しいよ!」
パンを一つ手に取って、ちぎってその柔らかさに驚き、小さな口に入れて、その美味しさに感激の声を上げるルカ。
「はい、塩漬けオーク肉の煮込みだよ」
「ありがとうございます」
運ばれてきた料理に釘付けのルカ。
「どうぞ、食べてごらん」
「うん…………うわぁ! 美味しーい!」
一口食べて、余程美味しかったのか、ルカは夢中で食べ続ける。
「おっ、これは美味しいな」
オーク肉は柔らかく煮込まれているし、キャベツの酢漬けもサッパリして美味しい。塩を振って焼くだけの僕のは料理って言えないな。
やっぱりちゃんとした料理は美味しいな。是非とも料理ができる仲間を見つけたい。
ルカは白パンとオーク肉の煮込みを口に頬張り、果実水で流し込むでいる。その小さな体のどこに入るのか、見ていて気持ちいい食べっぷりだ。
「ふぅわぁ、ルカ、もうお腹いっぱい。お兄ちゃん抱っこ」
「ハイハイ」
ルカを抱いて階段を上り、部屋へと戻るとルカをベッドに寝かせる。
「浄化」
自分とルカに、浄化魔法をかけた頃には、ルカはスヤスヤ可愛い寝息を立てていた。
「まだまだ体力が回復していないんだな」
(欠損を再生した事も関係があるんですよね)
(うん、再生は自分の体力を使って回復するからね)
僕の中からヴァルナの声が聞こえた。アグニ達は、送還されて僕の中に居ても警戒は解かない。常に僕を護っていてくれる。イグニートの事を過保護だと言えないくらいだ。
カペラの街で滞在して十日、ルカの体力も回復して、骨と皮だった身体も幼児らしくふっくらとしてきた。
その間、僕はルカの服や小物、日用品を買ったり、食料や調味料をストック用に買い足したりして過ごしていた。
それ以外にも、この大陸の情勢の調査も始めた。
先ず、良い思い出は少ない僕の祖国であるガーランド帝国は、大陸の北に広大な土地を治める軍事国家。この大陸に在る国の中で、ダントツに広大な面積を誇るが、その半分は小麦が育てられない寒冷地で、その為常に南へと侵略戦争を仕掛けている迷惑な国だ。
国民のほとんどが人族で、それ以外の獣人族やエルフ、ドワーフを亜人と蔑むのは、他の国と変わらない。
大陸中央のカラル王国。ここは大陸に在る国の中で、最も古い歴史のある国で、軍事国家ティムガット王国と同盟を結び、北のガーランド帝国に対抗している。
北のガーランド帝国と国境を接するのは、カラル王国とティムガット王国、それとここバルディア王国、ヴェルデ王国の四ヶ国。この内のヴェルデ王国は、高く険しい山脈で隔てられているので、実質は三ヶ国になる。接している国境線の長さが1番長いのがカラル王国で、次にティムガット王国なので、ガーランド帝国は、この二ヶ国と常に緊張状態にある。
ティムガット王国の東側、ヴェルデ王国の南側には自治都市群が広がり、都市同士が連合を組んでいる。
バルディア王国もガーランド帝国と国境を接しているが、そのほとんどが龍の墓場を中心とした森なので、防衛ラインが短く脅威としては、カラル王国やティムガット王国程ではない。
バルディア王国の南東、カラル王国とは砂漠を挟んで南に位置するのがローゼン王国。
ローゼン王国は、東側をティムガット王国と接していて、ティムガット王国と今は停戦中であるが、潜在敵国である。
そしてバルディア王国の南側に、少数部族や蛮族が縄張りとする土地が広がっている。この蛮族と呼ばれるのが厄介な奴らで、バルディア王国やローゼン王国で略奪行為を繰り返している。しかも蛮族は精強で知られ、両国の騎士団も大きな被害を出している。
さて、ここで大事なのが、多種族国家なのは、バルディア王国とローゼン王国、ヴェルデ王国の三ヶ国だという事。北側と西側を山脈に囲まれたヴェルデ王国は、鉱山が多い土地柄かドワーフが非常に多いが、国王は人族の国だ。ローゼン王国は逆に、エルフとダークエルフが強い発言権を持つ国らしい。
(だが多種族国家だと言っても、差別がない訳じゃないぞ)
(分かってるよアグニ。凡庸だけど数だけは多い人族は、選民思想に取り憑かれているからね)
(選民思想と言えば、ローゼン王国も主体となっているのはエルフとダークエルフですよ。人族の割合は半数だったと思います)
僕がどこかに拠点を構えるとなったら、ルカを差別から守らないといけないからね。その為の情報収集は大切だ。
(坊、バルディア王国はもう少し調べた方がいいんじゃないか?)
(だね。バルディア王国は、もともと少数部族が多かったとイグニートが言ってたから、僕達と友好的な街や村があるかもね)
アグニ達と相談して、今出来る事と言えば、バルディア王国の色々な街で情報収集するしかないという事に落ち着いた。
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