円環の蛇 破壊と再生の神印(ギフト)

小狐丸

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二十七話 新たな大地へ

 ベルグとポーラが改造という範疇を超えた仕上がりの馬車に乗って帰って来た。流石の僕も、余りの変わり様に呆然としてしまう。

「……これは……凄いな」
「気に入ってくれたかシグ殿」
「……頑張ってみた」
「凄いよベルグ、ポーラ」

 ベルグとポーラが改造した馬車は、その外装だけじゃなく内装も素晴らしい出来だった。
 ベルグに各部の機能と付与された魔法の説明を受ける。

「シグお兄ちゃん凄いよ! 馬車がキレイになってる!」
「もう新品と同じじゃないのコレ」

 ルカがぴょんぴょん跳ねて喜んで、セレネさんは呆れ顔だ。

「これ程の仕事をして貰うと、タダじゃ悪いな。……えっと、何か適当な物は……」

 ベルグとポーラが喜びそうな物を、鞄の中を探すフリをして収納空間から探す。

「おっ、……これでいいかな」

 僕が取り出したのは龍の鱗と爪。

「ベルグとポーラなら有効に活用できるだろ?」
「こ、これは!」
「……お、お爺! これ! これ!」

 ガバッとベルグが僕の両手を握って来た。その目からは滂沱の涙を流している。ポーラも地味に感動に打ち震えていた。

「おっ、おおっ! ドウドウ、落ち着いてベルグ」

 まずったか。職人馬鹿のドワーフに龍の素材は早まったか。ベルグとポーラの興奮度合いが凄い。

「シグ殿! 儂等に何か打たせてくれ!」
「……何か装備を造りたい」
「いや、僕は剣も防具も今ので十分なんだけど……」

 ベルグとポーラの圧が凄い。

「僕の装備は少し考えさせてくれ。代わりにセレネさんの防具を造ってくれないかな」
「シグ君! 私の装備に龍の素材なんて!」

 現状、僕の装備は不足ないと思ったので、エルフの軽戦士らしく、簡単なグローブと革の胸当てしか装備していないセレネさんの物を造って貰おうと思った。彼女も僕の護るべき対象となったのだから。





 セレネさんの装備を造る話が、何故か僕達は港町パルミナを後にして、一路南へと馬車を走らせていた。

 原因はベルグが自分のマジックバッグの中を確認した事から始まる。



「なっ! ねえ! ねえぞ! ミスリルもアダマンタイトもストックがキレてやがる!」
「お爺のバカ! せっかく龍の素材で何か造れると思ったのに!」
「いや! ポーラがミスリルを無駄遣いしたんじゃねえか!」
「ちょっと、ちょっと、金属はこの町で買えないの?」

 喧嘩を始めたベルグとポーラを何とかなだめる。

「シグ殿、鉄や銅なら買えるだろうが、残念ながらミスリルやアダマンタイトは無理じゃ」
「……シグ様、魔法金属は手に入れるのが難しい。この国で手に入れられるか分からない」
「そうなんだ……」

 ポーラが泣きそうな顔で手に入れるのは難しいと言う。僕は、その辺りの知識を全く持ち合わせていない。何とかしてあげたいけど、どうしようか……

 するとベルグが真剣な表情で頭を下げた。

「シグ殿、頼む、鉱床で採掘させてくれんか?」
「鉱床で採掘ですか?」

 唐突すぎる話に頭にクエスチョンマークを沢山浮かべる僕に説明してくれた。
 ベルグの話によると、バルディア王国の南側には、遊牧民族の小部族が住む地があるらしい。ここがバルディア王国にも隣のローゼン王国にも併合されず、空白地帯となっているには理由があった。

「蛮族ですか?」
「そうじゃ。儂もあの土地でミスリルとアダマンタイトの鉱床を見つけた時には小躍りして喜んだもんじゃ。しかし、あの地には複数の蛮族共が幅を利かせておった」

 蛮族とは、牧畜や農業に従事するのではなく、バルディア王国やローゼン王国の国境付近の村や町を襲い、掠奪を生活の糧とする戦闘民族だそうだ。そう言えばベルグとポーラが蛮族に追われたとか言ってたな。

「多少数が多い程度の盗賊どもなら、儂とポーラは後れを取らんのじゃが……」
「……蛮族どもは精強な戦士。バルディア王国やローゼン王国の正規兵でも勝てない」

 他者から掠奪する事で糧を得ているだけあって、蛮族達はとても強いらしい。
 過去、バルディア王国やローゼン王国が、南の土地の領有を目指して軍を進めた事があったそうだが、神出鬼没且つ強兵揃いの蛮族達に、大きな被害を出して撤退したのだとか。

「真面目に暮らす部族も居るんじゃが……」
「……私がお爺と仲良くなった部族の人達は、皆んな温かい人達だった」
「無事で居てくれると良いがのう」
「…………」

 ベルグとポーラの話を聞いて、僕は南の空白地帯に行きたくなっていた。
 ルカの事は心配だけど、僕とアグニ達、今はファニールも居るから、余程のことがあったとしても大丈夫だろう。

 先ず、セレネさんと良い仲になったんだけど、エルフにとってのあの夜の事は、僕が思った以上に重いことだった。エルフは初めて契った相手と生涯添い遂げるらしい。当選、セレネさんは初めてだった。
 図らずもセレネさんとそういう関係になった僕だけど、僕なりに責任は取りたいと思っている。
 なら、パートナーの安全の確保は必須だろう。僕が創造で創れるなら、それに越したことはない。だけど僕一人では無理だ。
 そこでベルグとポーラの力を借りようと思う。

 もう一つの理由は、他者から奪い蹂躙する事を是とする蛮族の討伐だ。
 種族や部族には、それぞれ独自のルールや生き方があるだろう。だけど、それは他者を犠牲にしていい理由にはならない。
 僕自身が虐げられて育った幼少期を過ごした所為か、どうしても理不尽な暴力が許せない。
 そして、どこの国のものでもない空白地帯に、僕の拠点を築いてもいいんじゃないかと思ってしまった。一度思い付くと、なかなか良いアイデアだと思えてくる。

(空白地帯ならアグニ達が周りを気にする必要もないし、ファニールも本来の姿で居れるかもしれないな)

「ベルグの言う鉱床へ行ってみよう」
「おお! 忝い! 儂の忠誠をシグ殿に捧げよう!」
「……ありがとうシグ様」

 ドワーフの職人として、龍の素材を目にした以上、造りたい気持ちが抑えられないみたいだ。
 僕が空白地帯にある鉱床へ行く事を了承したのが、余程嬉しかったようだ。

 そんなこんなで、空白地帯行きが決定した僕達は、新しい馬車も完成したので、食料などを多めに購入すると、早速南へと出発した。

 宿の厩舎で退屈していたファニールの我慢の限界が近かったので、丁度良かったかもしれないな。



 パルミナを発ち、そろそろ国境付近に近付くにつれて、村や町を見なくなっていた。

「これも蛮族の影響かな?」
「ええ、バルディア王国でも国境付近の警備はしているみたいだけど、それでも被害は無くならないのよ」

 ルカはこの数日で、随分とセレネさんに懐く様になった。僕とセレネさんの関係が変わった事を、無意識に感じ取ったのかな。セレネさんもルカを自分の妹として接する様になった事もあるのかな。
 アグニが馭者をする馬車の中で、セレネさんと話している間も、以前なら僕の膝の上を離れなかったルカが、セレネさんの膝の上に居る時間も増えた。


 もうすぐ国境を越えるという時、ベルグが話し掛けてきた。

「セレネの嬢ちゃんの装備を造る事に不満はないんじゃが、シグ殿の装備を何か一つ打たせてくれんか?」
「僕の装備ですか?」

 現状で、思い付かない僕が考え込んでいると、インドラから提案してきた。

「なら坊、ファニールに騎乗しての戦闘を考えて、長柄の武器を頼んじゃどうだ?」
「長柄の武器か……」
『そうだ! シグは一通りの武器の扱いは訓練してるだろ、俺に乗りながら戦うなら長柄の武器が有利だぜ』

 馬車と並走するファニールも長柄武器を進めてくる。
 ベルグとポーラには、ファニールの正体を明かしているので、町を出た時点でファニールは普通に話している。

「確かに、それはアリかもな」
「それなら、私の分もお願いします」

 僕が長柄の武器を考えていると、ヴァルナが自分の分も欲しいと言う。

「アグニは大剣が、インドラは槍があるけど、ヴァルナは間合いの長い武器はないからね」
「主人よ、某達には騎獣が必要だと思うのだ」
「ああ、俺もそれは思った」
『俺はシグ専用だぞ』
「騎獣か……スパルトイのアグニ達を怖がらない騎獣を探してみるか」

 この世界には、馬以外にも馬車を引いたり騎乗する生き物がいる。それは馬に近い魔物だったり、大きな蜥蜴だったり、陸を走る事に特化した鳥の魔物だったりと。そういう騎獣を売り買いする商売もある。どうしても無理ならアンデッドの馬を召喚する手もある。

 騎獣の骨が有れば、ボーンモンスターを生み出すことは可能だ。ただ、スケルトンと同じ低位のアンデッド なので、アグニ達スパルトイに相応しいかと問われると首を横に振るだろう。

(龍の骨や牙を素材に、龍牙兵じゃなく龍牙馬を召喚出来ないかな)

 スパルトイの様な強力な魔物を複数召喚して契約するには、召喚者である僕の階位が高くないとダメだ。今の僕の階位なら、あとスパルトイを5体くらいは大丈夫だと思うけど……良さげな騎獣を確保出来なかったら考えよう。


 そして僕達は、道なき道を進み、空白地帯へと足を踏み入れた。






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