円環の蛇 破壊と再生の神印(ギフト)

小狐丸

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三十八話 旅は道連れ

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 二重防壁の内壁と外壁の間には、段々畑を作った。川からの水路を畑に引くのは現実的ではないので、その分井戸を多めに掘った。地下水脈が豊富だったのは幸運だったな。

 バルスタン氏族に合流した、ローグさんの妻マーサさんの出身部族とも上手くいっているようだ。
 空白地帯最大の蛮族は、ほぼ壊滅したとみてもいいだろう。同数の蛮族が攻めて来ても、要塞化したこの村? 村じゃないな、城塞都市は跳ね返すだろう。そこに、ベルグとポーラが造った良質の武器と防具が有れば、滅多な事はないだろうしね。

「さて、そろそろ行こうか?」
「御意」
「はい」
「オウ」

 そう、僕達の役目も終わって、そろそろ旅立とうとアグニ、ヴァルナ、インドラに声をかける。

「シグお兄ちゃん! 抱っこ!」

 トテトテと駆けて来たルカが僕に飛びついて来たのを抱きとめる。

「セレネも大丈夫?」
「ええ、準備は万端よ」

 セレネが馬に変化したファニールを連れて来た。

『シグかルカは俺に乗れよ。セレネでも許してやるよ』
「まあまあ、あとでルカと乗るから」

 相変わらず寂しがりやのファニールは、とうとうセレネでもいいから背中に乗れと言いだした。

 そこに馬車を取りに行っていたベルグとポーラが戻って来た。

「乗ってくれ!」
「待ってぇーー!」

 僕達が馬車に乗り込もうとした時、大きな荷物を抱えたレイラさんが駆けて来るのが見えた。

「どうしたんですか?」
「ハァ、ハァ、ハァ、バルスタン氏族を代表して、この度のご恩をお返しする為に、シグフリート様のお側で仕えさせていただきます」
「「ええっ!?」」

 僕とセレネの驚く声が重なる。

「それについては俺から説明させてください」

 そこにローグさんと奥さんのマーサさん、それとバルスタン氏族全員が見送りに来てくれた。

「シグ殿、我等バルスタン氏族は、シグ殿を旗頭にこの空白地帯にしっかりとした足場を固める事を決めた。そこでレイラをシグ殿の従者として使って欲しい」
「よく言った! 坊を頭に仰ぐとはヤルじゃねぇか!」
「うむ、主人に仕える者同士、ローグ殿達とは仲良くやれそうじゃ」
「シグ様の配下に収まる決心をした事は褒めてあげます。私達が旅から戻るまで、この地で力をつけなさい」
「えっ、ええ!?」

 ローグさんからの突然の宣言を、インドラやアグニ、ヴァルナまでが褒めそやす。
 僕はこの歳まで人とまともに接してこなかった引き篭もりなのに……

「シグ殿、難しく考える必要はないんじゃ。シグ殿は儂らの担ぐ御輿に乗っているだけでいいんじゃ」
「……ん、あとのサポートは周りのみんなに任せて」

 ベルグとポーラまで肯定するに至り、反論ができなくなる。

「蛮族も遊牧民は、この肌の色で空白地帯に生きるしかなかった。だがこの地から変えていけると……シグ殿の旗の元ならくだらない世間の常識を変えていけると信じている」
「「よく言った!」」

 ローグさんが熱く語るのを、アグニとインドラが褒め称え、ヴァルナもウンウンと頷いている。

「シグ君、良いんじゃない。シグ君も、この後バルスタン氏族が蛮族に侵略されない様に、ここまで集落を強化したんでしょう。生き難い世の中なのは、亜人狩りに狙われる私やベルグ達も同じだもの。シグ君の元でくだらない差別に晒される事なく生きたいと思うローグさん達の気持ちはよく分かるわ」
「でも、世間知らずの僕にそんな事を言われても……」

 セレネまでがローグさん寄りの意見を言うけど、僕は人との関わりよりも龍やスパルトイとの暮らしが長かった、世間を知らないガキなんだけど……



 結局、レイラさんの同行を了承する事になった。

 大陸に混沌をもたらす積りはない。だけど空白地帯に、肌の色や神印で差別されない場所を築くのは良いかもしれない。
 ガーランド帝国が大陸統一を目指すなら、何処かで必ずぶつかるのだから。しっかりとした地盤は必要だと思った。

 それに僕はもうローグさんやマーサさん、レイラさんと知り合ってしまった。この後、バルスタン氏族が何処かの国に攻め滅ぼされるなんて許容出来そうにない。

「分かったよローグさん。レイラさんもよろしくね」
「ローグとお呼び下さい」
「私の事もレイラとお呼び下さい」

 年上のローグさんとレイラさんを、呼び捨てにするのは抵抗があるけど、ここは従った方がいいかな。

「うん、ローグにレイラだね。ローグ、僕達はローゼン王国から、出来れば自治都市群を周って戻って来るよ。それまでここの護りを頼むよ」
「お任せ下さい。蛮族など跳ね返してみせます」

 僕達は、この先空白地帯を横断し、砂漠地帯を抜けローゼン王国に入る予定だ。そこから先は自治都市群へ行きたいのだけど、ティムガット王国を経由しないと行けないので、今の所未定だ。

 何故ならティムガット王国は、ガーランド帝国と同じ人族中心の国で、獣人族の扱いはあまり良くないらしい。エルフは西にローゼン王国、ドワーフは北東にヴェルデ王国と接している関係もあって、それ程でもないが、獣人族は虐げられているとセレネが言う。

 流石にルカに嫌な思いをさせたくないので、ティムガット王国に入国するという選択肢はない。

 まぁ自治都市群は無理そうなら諦めよう。そこまで無理して行きたい訳でもないからね。ただ、僕は世界を見たいだけだから。

「じゃあレイラは馬車に荷物を載せて乗り込んで」
「はい!」

 レイラさんが大きな荷物をベルグに手伝ってもらい馬車に載せると、そのまま馬車へと乗り込んだ。

『シグは俺に乗れよな』
「分かったよ」

 僕はルカをファニールに乗せてその後ろに跨る。

「一年以内には一度戻って来るよ」
「お気をつけて。レイラも励めよ」
「分かってるわよ」

 僕達はバルスタン氏族の集落……いや、もう城塞都市だな。を出発して東へと向かう。

 このまま空白地帯を北東方向へ横断し、ローゼン王国とカラル王国の間に広がる砂漠地帯を途中まで進む。
 これはセレネの提案したルートで、空白地帯側のローゼン王国の国境は入国が難しいらしい。蛮族の侵入を警戒する為だろうから、まぁ当然だと思う。
 そこで途中まで砂漠地帯を東進し、適当な所で南下してローゼン王国へ入国する予定だ。

 バルスタン氏族総出の見送りは、僕達が見えなくなるまで続いた。

主人アルジよ。人と関わるのも悪くないであろう?」
「うん、そうだね」

 ローグ達バルスタン氏族も僕を旗頭にするのは、当然打算があるだろう。
 アグニ達スパルトイという破格の戦力、ファニールという反則的な龍の存在。力あるモノの傘下に入り庇護を受けたいと思うのは当たり前だろう。
 でもそれを差し引いても、僕にとってローグ達バルスタン氏族の人達は護りたい人達に違いない。

「うん?」
「……すぅ~、すぅ~……」

 ルカの可愛い寝息が聞こえて来る。静かだと思ったら、いつの間にかファニールに乗りながら僕を背もたれにして寝てしまったみたいだ。

 ルカの為にもちゃんとした地盤を固めるのは大事だと改めて思った。

 空白地帯から始めよう。



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