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小学校高学年のキュート系名誉娘
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風に舞うフリルと、少しだけ日焼けした肌がまぶしかった。
1993年の夏、その街には「名誉娘」という制度があった。毎年、街でいちばんキュートな女の子が選ばれ、彼女は一年間、街の広告塔として活動する。今年の「名誉娘」は、小学6年生の女の子だった。彼女の名前は、水沢ひなた。
ひなたは、いつものように図書館前の広場で風船を配っていた。レースのフリルがあしらわれた白いワンピースに、同じく白いリボンを飾った麦わら帽子。足元はストラップシューズで、その全てが太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。その可愛らしさは、まるで絵本から飛び出してきた妖精のようだった。
そんな彼女の前に、一人の大吾郎が立っていた。彼は「国民性調査員」と書かれた名刺を差し出し、「すみませんが、少しお時間をいただけますか?」と尋ねた。彼のスーツは少しよれっとしていて、ネクタイも緩んでいる。ひなたには、その人が少し疲れているように見えた。
「えっと、なんの調査ですか?」
ひなたはきょとんとして問いかけた。彼女の大きな瞳が、きゅっと細められる。
「国民の幸福度について、です。たとえば、きみみたいに、フリルやリボンを身につけているときは、どんな気持ちになりますか?」
ひなたは質問に少し考え込み、そしてにっこりと微笑んだ。
「うれしい、です。だって、お母さんがわたしのこと考えて、一生懸命作ってくれた服だから。フリルやリボンがあるだけで、なんだか特別で、大切にされている気がするんです」
彼女はそう言って、ワンピースのフリルを指でつまんだ。その指先には、小さなリボンが揺れている。
「大切に、されている……」
大吾郎は小さな声でつぶやいた。彼は手元のメモに何かを書き込みながら、もう一つの質問を続けた。
「きみにとって、一番大切なものはなんですか?」
ひなたは一瞬、答えに迷った。風船、図書館、お母さん。たくさんのことが頭をよぎったが、最終的に彼女はまっすぐ前を見て答えた。
「この街です。わたし、名誉娘になってから、この街の人がみんな、わたしのことを知って、応援してくれるようになったんです。わたしが風船を配ると、みんなが笑顔になってくれる。それを見るのが、わたしの一番の幸せです」
彼女の言葉には、嘘偽りのない純粋な輝きがあった。その瞳は、この街の全ての人々を愛しているかのようだった。
大吾郎はメモをとる手を止め、彼女の顔をじっと見つめた。彼は、今までたくさんの街を訪れ、たくさんの人々に同じ質問をしてきた。だが、これほどまでにまっすぐで、心から湧き出たような答えを聞いたのは初めてだった。彼の心の中に、乾いたスポンジが水を吸い込むように、ひなたの言葉が染み渡っていくのを感じた。
「ありがとう。きみの答えは、とても大切なものだった」
彼はそう言って、深々と頭を下げた。ひなたは驚いて、「いえ、そんな……」と手を振ったが、大吾郎はもうすでに立ち去ろうとしていた。
その背中を見送りながら、ひなたは思った。あの人は、一体どんな「国民性」を探しているんだろう?
彼女は再び、手元の風船を見つめた。今日、この風船を手にする一人ひとりが、小さな笑顔になってくれることを願って。そして、その笑顔が、この街を、そして日本を、もっと素敵な場所に変えてくれることを信じて。
風は、ひなたの白いフリルを優しく揺らしていた。遠ざかる大吾郎の背中と、彼女の笑顔が、まぶしい夏の光の中に溶けていく。まるで、一枚の古い写真のように。
1993年の夏、その街には「名誉娘」という制度があった。毎年、街でいちばんキュートな女の子が選ばれ、彼女は一年間、街の広告塔として活動する。今年の「名誉娘」は、小学6年生の女の子だった。彼女の名前は、水沢ひなた。
ひなたは、いつものように図書館前の広場で風船を配っていた。レースのフリルがあしらわれた白いワンピースに、同じく白いリボンを飾った麦わら帽子。足元はストラップシューズで、その全てが太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。その可愛らしさは、まるで絵本から飛び出してきた妖精のようだった。
そんな彼女の前に、一人の大吾郎が立っていた。彼は「国民性調査員」と書かれた名刺を差し出し、「すみませんが、少しお時間をいただけますか?」と尋ねた。彼のスーツは少しよれっとしていて、ネクタイも緩んでいる。ひなたには、その人が少し疲れているように見えた。
「えっと、なんの調査ですか?」
ひなたはきょとんとして問いかけた。彼女の大きな瞳が、きゅっと細められる。
「国民の幸福度について、です。たとえば、きみみたいに、フリルやリボンを身につけているときは、どんな気持ちになりますか?」
ひなたは質問に少し考え込み、そしてにっこりと微笑んだ。
「うれしい、です。だって、お母さんがわたしのこと考えて、一生懸命作ってくれた服だから。フリルやリボンがあるだけで、なんだか特別で、大切にされている気がするんです」
彼女はそう言って、ワンピースのフリルを指でつまんだ。その指先には、小さなリボンが揺れている。
「大切に、されている……」
大吾郎は小さな声でつぶやいた。彼は手元のメモに何かを書き込みながら、もう一つの質問を続けた。
「きみにとって、一番大切なものはなんですか?」
ひなたは一瞬、答えに迷った。風船、図書館、お母さん。たくさんのことが頭をよぎったが、最終的に彼女はまっすぐ前を見て答えた。
「この街です。わたし、名誉娘になってから、この街の人がみんな、わたしのことを知って、応援してくれるようになったんです。わたしが風船を配ると、みんなが笑顔になってくれる。それを見るのが、わたしの一番の幸せです」
彼女の言葉には、嘘偽りのない純粋な輝きがあった。その瞳は、この街の全ての人々を愛しているかのようだった。
大吾郎はメモをとる手を止め、彼女の顔をじっと見つめた。彼は、今までたくさんの街を訪れ、たくさんの人々に同じ質問をしてきた。だが、これほどまでにまっすぐで、心から湧き出たような答えを聞いたのは初めてだった。彼の心の中に、乾いたスポンジが水を吸い込むように、ひなたの言葉が染み渡っていくのを感じた。
「ありがとう。きみの答えは、とても大切なものだった」
彼はそう言って、深々と頭を下げた。ひなたは驚いて、「いえ、そんな……」と手を振ったが、大吾郎はもうすでに立ち去ろうとしていた。
その背中を見送りながら、ひなたは思った。あの人は、一体どんな「国民性」を探しているんだろう?
彼女は再び、手元の風船を見つめた。今日、この風船を手にする一人ひとりが、小さな笑顔になってくれることを願って。そして、その笑顔が、この街を、そして日本を、もっと素敵な場所に変えてくれることを信じて。
風は、ひなたの白いフリルを優しく揺らしていた。遠ざかる大吾郎の背中と、彼女の笑顔が、まぶしい夏の光の中に溶けていく。まるで、一枚の古い写真のように。
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