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美魔女見習いの魅力的な娘との素敵な日常風景C
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1993年、10月の終わり。
空気に少しだけ、冬の予感が混じり始めていた。
大吾郎は、今年40歳。
春に会社を辞めてからというもの、生活は驚くほど静かだった。
その静けさに馴染みつつあったある日、妻の遥(はるか)が実家に帰ると言い出した。
理由は「父の誕生日」。丸一日だけ家を空けるという。
そして残されたのが、彼の義理の娘――
「ポプリ、変えてもいいかしら?」
キッチンの戸棚から袋を取り出しながら、彼女は言った。
37歳、美魔女見習い、自称“家庭内仮管理人”。
名前は佐伯 光音(こうね)。遥の連れ子であり、大吾郎にとっては法的には娘、社会的には姉のような存在、
そして――情緒的には、なんとも定義しづらい人物だった。
「母の趣味、ちょっと重たくない? ラベンダーばかりで」
光音は、新しいポプリを布袋に詰めながら言った。
それはローズとシダーウッドのブレンドで、遥とは違う香りだった。
「ポプリって、記憶の成分を詰めた箱みたいなものでしょ。
だったら、今日は**“私たちの午後”を記録しておきたい**の」
大吾郎は、何も言わなかった。
ただ、ラジカセにカセットを入れた。
B面に切り替えて、再生ボタンを押す。
そこから流れたのは、静かなピアノ曲。
タイトルは忘れた。けれど、遥が好きで繰り返しかけていたものだ。
「やっぱり、止めよ」
光音が立ち上がり、停止ボタンを押す。
「音って、空気を閉じ込めるのよ。私が入る余地がない」
そう言って、彼女は自分のバッグから一本のテープを取り出す。
「こっちは、私の選曲。録音、今日の朝。
寝起きで声がガラガラだけど、“母がいない日用”として保存してたの。どう?」
テープから流れ出したのは、彼女の声だった。
歌ではなかった。
読み上げているのは、日記のような何か。
「今日は10月28日。母が出かけると知って、心がざわつく。
私は正直、母のいない家が好きだ。音がよく響く。沈黙がよく返ってくる。
それに……私だけが見つめられていると、錯覚できるから」
「光音」
「なに?」
「これ、誰のために読んでる?」
「それは……あなたの耳に入った時点で、あなたのため、ってことになる」
しばらく、無音が流れた。
ポプリの香りが、部屋に広がっていく。
「ねえ、大吾郎さん」
「……ああ」
「どうして“お義父さん”って、私に呼ばせないの?」
「……そのほうが、自然だったから。お前もそう呼ばなかったし」
「“自然”って言葉、好きになれない。
今だって、自然にふたりきりだし。
“わざとらしい運命”の方が、まだ大吾郎実な感じする」
彼女は録音テープを止め、ボタンを巻き戻す。
その手つきは、どこかお祈りに似ていた。
「私が“娘”じゃなかったら、どうしてた?」
「たらればを語ると、現実が壊れる」
「じゃあ、私が“娘”でなくなるには、何を壊せばいい?」
大吾郎は何も答えなかった。
ただ、部屋の隅で鳴っていた時計の音が、一秒ごとに重くなっていく。
光音は立ち上がり、香りの袋をドアノブにかけながら言った。
「ポプリって、しばらく置くと、香りがなじむのよ。
今日の午後の空気も、もうすぐ“私たちの記憶”になる。
だから……次にこれを嗅いだとき、あなたが何を思い出すのか、楽しみにしてる」
ドアの向こうに彼女が消えたあとも、大吾郎はしばらく動けなかった。
室内には、ラベンダーではない――ローズとシダーの香りだけが、静かに残っていた。
空気に少しだけ、冬の予感が混じり始めていた。
大吾郎は、今年40歳。
春に会社を辞めてからというもの、生活は驚くほど静かだった。
その静けさに馴染みつつあったある日、妻の遥(はるか)が実家に帰ると言い出した。
理由は「父の誕生日」。丸一日だけ家を空けるという。
そして残されたのが、彼の義理の娘――
「ポプリ、変えてもいいかしら?」
キッチンの戸棚から袋を取り出しながら、彼女は言った。
37歳、美魔女見習い、自称“家庭内仮管理人”。
名前は佐伯 光音(こうね)。遥の連れ子であり、大吾郎にとっては法的には娘、社会的には姉のような存在、
そして――情緒的には、なんとも定義しづらい人物だった。
「母の趣味、ちょっと重たくない? ラベンダーばかりで」
光音は、新しいポプリを布袋に詰めながら言った。
それはローズとシダーウッドのブレンドで、遥とは違う香りだった。
「ポプリって、記憶の成分を詰めた箱みたいなものでしょ。
だったら、今日は**“私たちの午後”を記録しておきたい**の」
大吾郎は、何も言わなかった。
ただ、ラジカセにカセットを入れた。
B面に切り替えて、再生ボタンを押す。
そこから流れたのは、静かなピアノ曲。
タイトルは忘れた。けれど、遥が好きで繰り返しかけていたものだ。
「やっぱり、止めよ」
光音が立ち上がり、停止ボタンを押す。
「音って、空気を閉じ込めるのよ。私が入る余地がない」
そう言って、彼女は自分のバッグから一本のテープを取り出す。
「こっちは、私の選曲。録音、今日の朝。
寝起きで声がガラガラだけど、“母がいない日用”として保存してたの。どう?」
テープから流れ出したのは、彼女の声だった。
歌ではなかった。
読み上げているのは、日記のような何か。
「今日は10月28日。母が出かけると知って、心がざわつく。
私は正直、母のいない家が好きだ。音がよく響く。沈黙がよく返ってくる。
それに……私だけが見つめられていると、錯覚できるから」
「光音」
「なに?」
「これ、誰のために読んでる?」
「それは……あなたの耳に入った時点で、あなたのため、ってことになる」
しばらく、無音が流れた。
ポプリの香りが、部屋に広がっていく。
「ねえ、大吾郎さん」
「……ああ」
「どうして“お義父さん”って、私に呼ばせないの?」
「……そのほうが、自然だったから。お前もそう呼ばなかったし」
「“自然”って言葉、好きになれない。
今だって、自然にふたりきりだし。
“わざとらしい運命”の方が、まだ大吾郎実な感じする」
彼女は録音テープを止め、ボタンを巻き戻す。
その手つきは、どこかお祈りに似ていた。
「私が“娘”じゃなかったら、どうしてた?」
「たらればを語ると、現実が壊れる」
「じゃあ、私が“娘”でなくなるには、何を壊せばいい?」
大吾郎は何も答えなかった。
ただ、部屋の隅で鳴っていた時計の音が、一秒ごとに重くなっていく。
光音は立ち上がり、香りの袋をドアノブにかけながら言った。
「ポプリって、しばらく置くと、香りがなじむのよ。
今日の午後の空気も、もうすぐ“私たちの記憶”になる。
だから……次にこれを嗅いだとき、あなたが何を思い出すのか、楽しみにしてる」
ドアの向こうに彼女が消えたあとも、大吾郎はしばらく動けなかった。
室内には、ラベンダーではない――ローズとシダーの香りだけが、静かに残っていた。
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