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若手美魔女の魅力的な後輩との素敵な日常風景
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午後二時の光が、縁側に敷いた藤色の座布団に斜めの模様をつけていた。
古びた木造の平屋。廊下の床板が少し鳴ると、彼女は細い指先でそっとリボンを結び直した。淡い桃色のブラウスに白いスカート、そして首元の、あのリボン。春の風が開け放した障子から吹き抜け、彼女の髪をふわりと揺らした。
「先輩、また風がいたずらしてます」
そう言って彼女が笑うと、私は応えるようにお茶を差し出した。深く煎った焙じ茶の香ばしい香りが、緩やかにふたりの間を満たす。
私は四十歳。三十五で会社を辞め、退職金で手に入れたこの家に引っ越してきた。誰もが首をかしげたが、私は静かな生活を望んだ。
彼女は、美魔女業界で名を馳せ始めた新進の人物。年齢は――尋ねたことはないが、少なくとも私より上だ。だが、"後輩"である。なぜなら「貞操の塾」に、五年前に自ら入門してきたのだから。
「先輩、最近、塾の掲示板にまた質問が増えましたよ。ほら、"貞操って時代遅れですか?"って」
彼女は茶菓子のきなこを、慎重に指で払いつつ口に運ぶ。微かに笑うその横顔に、私は言葉を選びながら返す。
「それでも、誰かが"守るに足るもの"として考える限り、残っていくんじゃないか。言葉だけでなく、姿勢として」
「姿勢、か……。先輩って、ほんとに、真面目」
「それを"鈍感"とも言う」
「……そうね」
沈黙が落ちる。けれど、それは気まずさとは違った。床に落ちる光が少し傾いたことに、二人とも気づいていた。
彼女はときどき、「わからなくなる」と言う。
自分の何を求めて、美魔女という立場を選んだのか。なぜ貞操という概念に惹かれたのか。そもそも、"美"とは誰のために在るものなのか。
私は答えない。代わりに、庭の南天に水をやるだけだ。けれど彼女は、それを見て少しだけ安心したような顔をする。
「ねえ先輩、わたし、きっと恋をしてたと思うの」
唐突にそう言った彼女は、まっすぐこちらを見た。
「でも、その相手には、それが“重い”って言われたの。悪い意味でね」
「……それは、"強く望んだ"ってことだと思うよ」
「でも、叶わなかったの」
「叶わなかったってことは、消えることではない」
リボンが、ほどけていた。
彼女はふとそれに気づき、笑った。
「ほどけるくらいで、ちょうどいいのよね、リボンって」
私は頷いた。「結び直せばいい」
「でも、先輩、あなたは……誰に結んでもらってるの?」
私の心臓が一瞬だけ強く跳ねた。その問いは、まるで深い湖に投げ込まれた小石のようだった。音もなく波紋が広がり、自分の中の奥底を、ゆっくりと撫でていった。
「……いないよ。誰も」
その日の夕暮れ、彼女は帰り際にこう言った。
「先輩。リボンってね、ただの飾りじゃないの」
「うん?」
「それは、ほどけたとき、誰かが気づいてくれること――その優しさの証なんだって、昔、祖母が言ってたの」
「……それは、いい言葉だな」
「じゃあ、次に来るときは、あえて結ばずに来てみようかしら」
「それは困るな。生徒としての礼儀だろ?」
「そう? 先輩、見逃さないんでしょう?」
私は答えなかった。
三月の終わり。
彼女は結ばずに現れた。髪はいつもより伸びていて、首元にあったはずのリボンは、スカートのポケットからひらひらと覗いていた。
「先輩、今日は……風がないわ」
「そうだな」
私は彼女の正面に座り、少しだけ躊躇しながら、リボンを指で取った。彼女は黙って目を閉じている。
それがどういう意味なのか、誰よりも、私たち自身が分かっていた。
けれど、私は、結ばない。
それは彼女自身が選ぶべきことで、私が選んではいけないから。
私はただ、リボンをそっと畳んで、彼女の掌に戻した。
「……ありがとう」
その声に、少しだけ震えがあった。
春が来る。
私たちはきっと、それぞれの場所で、自分の美しさと向き合いながら歩いていく。何も交わさず、何も壊さず、それでも、何かが残るような、そんな時間がここにはあった。
古びた木造の平屋。廊下の床板が少し鳴ると、彼女は細い指先でそっとリボンを結び直した。淡い桃色のブラウスに白いスカート、そして首元の、あのリボン。春の風が開け放した障子から吹き抜け、彼女の髪をふわりと揺らした。
「先輩、また風がいたずらしてます」
そう言って彼女が笑うと、私は応えるようにお茶を差し出した。深く煎った焙じ茶の香ばしい香りが、緩やかにふたりの間を満たす。
私は四十歳。三十五で会社を辞め、退職金で手に入れたこの家に引っ越してきた。誰もが首をかしげたが、私は静かな生活を望んだ。
彼女は、美魔女業界で名を馳せ始めた新進の人物。年齢は――尋ねたことはないが、少なくとも私より上だ。だが、"後輩"である。なぜなら「貞操の塾」に、五年前に自ら入門してきたのだから。
「先輩、最近、塾の掲示板にまた質問が増えましたよ。ほら、"貞操って時代遅れですか?"って」
彼女は茶菓子のきなこを、慎重に指で払いつつ口に運ぶ。微かに笑うその横顔に、私は言葉を選びながら返す。
「それでも、誰かが"守るに足るもの"として考える限り、残っていくんじゃないか。言葉だけでなく、姿勢として」
「姿勢、か……。先輩って、ほんとに、真面目」
「それを"鈍感"とも言う」
「……そうね」
沈黙が落ちる。けれど、それは気まずさとは違った。床に落ちる光が少し傾いたことに、二人とも気づいていた。
彼女はときどき、「わからなくなる」と言う。
自分の何を求めて、美魔女という立場を選んだのか。なぜ貞操という概念に惹かれたのか。そもそも、"美"とは誰のために在るものなのか。
私は答えない。代わりに、庭の南天に水をやるだけだ。けれど彼女は、それを見て少しだけ安心したような顔をする。
「ねえ先輩、わたし、きっと恋をしてたと思うの」
唐突にそう言った彼女は、まっすぐこちらを見た。
「でも、その相手には、それが“重い”って言われたの。悪い意味でね」
「……それは、"強く望んだ"ってことだと思うよ」
「でも、叶わなかったの」
「叶わなかったってことは、消えることではない」
リボンが、ほどけていた。
彼女はふとそれに気づき、笑った。
「ほどけるくらいで、ちょうどいいのよね、リボンって」
私は頷いた。「結び直せばいい」
「でも、先輩、あなたは……誰に結んでもらってるの?」
私の心臓が一瞬だけ強く跳ねた。その問いは、まるで深い湖に投げ込まれた小石のようだった。音もなく波紋が広がり、自分の中の奥底を、ゆっくりと撫でていった。
「……いないよ。誰も」
その日の夕暮れ、彼女は帰り際にこう言った。
「先輩。リボンってね、ただの飾りじゃないの」
「うん?」
「それは、ほどけたとき、誰かが気づいてくれること――その優しさの証なんだって、昔、祖母が言ってたの」
「……それは、いい言葉だな」
「じゃあ、次に来るときは、あえて結ばずに来てみようかしら」
「それは困るな。生徒としての礼儀だろ?」
「そう? 先輩、見逃さないんでしょう?」
私は答えなかった。
三月の終わり。
彼女は結ばずに現れた。髪はいつもより伸びていて、首元にあったはずのリボンは、スカートのポケットからひらひらと覗いていた。
「先輩、今日は……風がないわ」
「そうだな」
私は彼女の正面に座り、少しだけ躊躇しながら、リボンを指で取った。彼女は黙って目を閉じている。
それがどういう意味なのか、誰よりも、私たち自身が分かっていた。
けれど、私は、結ばない。
それは彼女自身が選ぶべきことで、私が選んではいけないから。
私はただ、リボンをそっと畳んで、彼女の掌に戻した。
「……ありがとう」
その声に、少しだけ震えがあった。
春が来る。
私たちはきっと、それぞれの場所で、自分の美しさと向き合いながら歩いていく。何も交わさず、何も壊さず、それでも、何かが残るような、そんな時間がここにはあった。
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