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高校生の魅力的な先輩との素敵な日常風景
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春の光が柔らかく差し込む午後、風がレースのカーテンをふわりと揺らした。
私は台所の片隅で、古いアルミポットに湯を沸かしている。静けさに溶け込むような小さな音。ピシ、と湯がたぎる音が聞こえたとき、彼女はすでに私の部屋の前にいた。
「おじゃま、してもいいですか?」
戸を開けた瞬間、花びらのようなスカートの裾が揺れた。
制服の上に羽織った白いカーディガン。その胸元のリボンは、薄桃色の桜色。彼女の声は、春の空気とよく似ていた。
「お茶を入れたところだよ」
私はカップを二つ用意した。リタイアして十年近く経った身にとって、こういう静かな時間はご褒美のようなものだ。けれど、彼女の来訪だけは、少しばかり緊張を呼ぶ。
なぜなら彼女は、「塾の先輩」だった。
「ここのお茶、好きなんです。少しだけ渋いのに、ちゃんと甘みが残ってて……」
「俺に甘みが?」
「……ないかも」
そう言って彼女は、楽しそうに笑う。その笑顔は眩しくて、触れてはならないようなものだった。
話題は、最近読んだ小説のことや、学校での出来事。クラスの女子がリボンの色で派閥を作っていること、塾の思い出、苦手な先生。
私は相槌を打ち、少しばかり皮肉を返した。それだけで彼女は嬉しそうに頷き、まるで褒められた子供のように、頬を染めた。
「……ねえ、」
ふと、彼女は声を低くした。
「もし、もしも……私が、もっと大人だったら、どう思いますか?」
「どう、とは?」
「たとえば私が、二十歳だったら。あなたと並んで歩いても、誰も変な目で見ない。そういうの、だったら……」
私は一瞬だけ、彼女の眼を見た。
そこには、依存の色と、知りたいという探求の炎が同居していた。
私は、春の風のような声で言った。
「だけど、君は今、十七で。俺は、四十。たとえ誰も何も言わなくても……自分に嘘をつくことになるよ」
彼女は黙った。静寂が、ふたりの間を満たしていく。
それでも私は続けた。
「たぶん、君の好奇心は本物だ。でも、その好奇心が誰かを傷つけたら、それはもう好奇心じゃない。……傷、になる」
彼女はゆっくりと、紅茶に視線を落とし、そして言った。
「……大人ですね、やっぱり」
彼女の言葉には、悲しみはなかった。少しの悔しさと、少しの尊敬。それは、胸がきゅっと締めつけられるほど、まっすぐだった。
私は微笑みを返した。
「俺も昔は、誰かのこと、守れるような人間じゃなかったよ。今こうしているのは……ただの結果論さ」
その日、彼女はリボンをほどいて、畳の上に丁寧に置いた。
そして、手帳を一冊、私の前に置いた。中にはびっしりと文字が綴られていた。思考、迷い、そして……私への手紙のような詩。
「書いてたんです、ずっと。私が、どんなふうにあなたを見ていたか。どんなふうに世界を考えていたか」
「ありがとう。でも……これは君自身のものだ。だから、置いていかなくていい」
彼女は少しだけ、笑って言った。
「違うんです。これは、私が自分で決めるための“卒業証書”みたいなものだから」
私は手帳を受け取った。指先が少しだけ触れた。熱いものが伝わってきて、私は少しだけ目を逸らした。
彼女は立ち上がった。リボンを髪に結び直し、最後にくるりと振り返った。
「また来てもいいですか?」
「もちろん。でも、今度は“塾の先輩”としてじゃなく、“高校生の君”として来てくれたら嬉しい」
その言葉に、彼女は笑った。
「……やっぱり、大人ですね」
春の陽射しが、リボンを照らしていた。
それは桜色にきらめきながら、彼女の背中にやさしく溶け込んでいった。
——あの午後、私たちは確かに、「不適切ではない未来」を選んだ。
リボンの先にある、小さくて尊い春のような希望を信じながら。
私は台所の片隅で、古いアルミポットに湯を沸かしている。静けさに溶け込むような小さな音。ピシ、と湯がたぎる音が聞こえたとき、彼女はすでに私の部屋の前にいた。
「おじゃま、してもいいですか?」
戸を開けた瞬間、花びらのようなスカートの裾が揺れた。
制服の上に羽織った白いカーディガン。その胸元のリボンは、薄桃色の桜色。彼女の声は、春の空気とよく似ていた。
「お茶を入れたところだよ」
私はカップを二つ用意した。リタイアして十年近く経った身にとって、こういう静かな時間はご褒美のようなものだ。けれど、彼女の来訪だけは、少しばかり緊張を呼ぶ。
なぜなら彼女は、「塾の先輩」だった。
「ここのお茶、好きなんです。少しだけ渋いのに、ちゃんと甘みが残ってて……」
「俺に甘みが?」
「……ないかも」
そう言って彼女は、楽しそうに笑う。その笑顔は眩しくて、触れてはならないようなものだった。
話題は、最近読んだ小説のことや、学校での出来事。クラスの女子がリボンの色で派閥を作っていること、塾の思い出、苦手な先生。
私は相槌を打ち、少しばかり皮肉を返した。それだけで彼女は嬉しそうに頷き、まるで褒められた子供のように、頬を染めた。
「……ねえ、」
ふと、彼女は声を低くした。
「もし、もしも……私が、もっと大人だったら、どう思いますか?」
「どう、とは?」
「たとえば私が、二十歳だったら。あなたと並んで歩いても、誰も変な目で見ない。そういうの、だったら……」
私は一瞬だけ、彼女の眼を見た。
そこには、依存の色と、知りたいという探求の炎が同居していた。
私は、春の風のような声で言った。
「だけど、君は今、十七で。俺は、四十。たとえ誰も何も言わなくても……自分に嘘をつくことになるよ」
彼女は黙った。静寂が、ふたりの間を満たしていく。
それでも私は続けた。
「たぶん、君の好奇心は本物だ。でも、その好奇心が誰かを傷つけたら、それはもう好奇心じゃない。……傷、になる」
彼女はゆっくりと、紅茶に視線を落とし、そして言った。
「……大人ですね、やっぱり」
彼女の言葉には、悲しみはなかった。少しの悔しさと、少しの尊敬。それは、胸がきゅっと締めつけられるほど、まっすぐだった。
私は微笑みを返した。
「俺も昔は、誰かのこと、守れるような人間じゃなかったよ。今こうしているのは……ただの結果論さ」
その日、彼女はリボンをほどいて、畳の上に丁寧に置いた。
そして、手帳を一冊、私の前に置いた。中にはびっしりと文字が綴られていた。思考、迷い、そして……私への手紙のような詩。
「書いてたんです、ずっと。私が、どんなふうにあなたを見ていたか。どんなふうに世界を考えていたか」
「ありがとう。でも……これは君自身のものだ。だから、置いていかなくていい」
彼女は少しだけ、笑って言った。
「違うんです。これは、私が自分で決めるための“卒業証書”みたいなものだから」
私は手帳を受け取った。指先が少しだけ触れた。熱いものが伝わってきて、私は少しだけ目を逸らした。
彼女は立ち上がった。リボンを髪に結び直し、最後にくるりと振り返った。
「また来てもいいですか?」
「もちろん。でも、今度は“塾の先輩”としてじゃなく、“高校生の君”として来てくれたら嬉しい」
その言葉に、彼女は笑った。
「……やっぱり、大人ですね」
春の陽射しが、リボンを照らしていた。
それは桜色にきらめきながら、彼女の背中にやさしく溶け込んでいった。
——あの午後、私たちは確かに、「不適切ではない未来」を選んだ。
リボンの先にある、小さくて尊い春のような希望を信じながら。
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