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閉ざされた街

14 生存者

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 ハミルの南側は商売に従事する者達が住む区画だったのだろう。外周を辿る通りには様々な商店が連なっていた。
 軒の下には扱う商品の名や屋号を示した様々な看板が下げられており、かつての街の繁栄を思い起こさせる。
 だが、街の内部に入るにつれて徐々に破壊された家屋や建物が目立ち始め、悲劇の証拠でもある血痕も増えていった。城門の周辺では被害が少ないと感じていたが、どうやら希望的観測だったようである。
 そんな光景に不安を募らせながらダレスとアルディアは、荒れ果てた通りを足早に通り抜けて行く。
 既にミシャ達の姿は見えないが、主人に過度な敬意、あるいは愛情を寄せる彼女がアルディアを見捨てるはずがないので、近くまで行けば彼女の方から見つけてくれるはずだった。
 何しろ、二人が装備している鎖帷子は走る度に〝チャリチャリ〟と独特の金属音を辺りに響かせているのだ。
 
「ミシャか?!」
 アルディアを先行させ、その後に続いていたダレスは通りに繋がる辻の先に動く存在を見る。直ぐに彼から隠れるように奥へと消えたが、衣服を纏った小柄な人間であるのは間違いなかった。
「・・・誰?!」
 ダレスの問い掛けに隠れた人物が建物の影から顔を突き出す。それは年の頃、十二歳ほどの少年だ。怯えきった表情をしており、顔色そのものも悪い。
「俺達は王都カレードから来た! お前は街の生き残りだな! 助けに来たぞ!」
 ミシャではなかったが、少年を見つけたダレスは励ますように味方であることを伝える。半ば強制的に魔族討伐に加わったダレスではあるが、その少年のやつれた姿はあまりにも痛々しかったのである。労わずにいられなかった。
「ほ、本当ですか?! うう・・・」
 ダレスの言葉に少年はその場で泣き崩れる。よほど過酷な六日間を生きながらえてきたのだろう。
「とりあえず・・・水を飲むか?」
 ダレスは涙を流す少年の背中を擦りながら水袋を差し出す。何か食物も与えたかったが、まずは水分の補給からである。
「あ、ありがとうございます!」
「ああ、待て! 今はそれくらいにしておけ!」
 水袋を受け取った少年は、中身を一気に飲み干そうとするのでダレスは程々で止めさせる。飲み水にも困っていたようだが、何事も限度があるのだ。
「は、はい・・・」
「ダレスさん! 彼は生存者ですね! 少年・・・怪我や体調がおかしいようなことはありませんか? あれば遠慮なく申し出てください!」
 その頃には事態を察したアルディアも引き返しており、少年に怪我の有無を問い掛ける。
「だ、大丈夫です・・・腹が減っている以外には・・・」
「よし、動けるのなら一緒に来い。お前には聞きたいことがあるし、安全と思われる場所に着いたら何か食わせてやるぞ!」
「はい! お、お願いします!」
 ダレスの問い掛けに少年は希望を見つけたように喜色を浮かべて返答する。
「では、アルディアは続いて先頭を頼む。少年・・・そう言えば名前を聞いていなかったな。俺はダレスで、彼女はアルディアだ。お前の名前は?」
「お、おいらはノードって言います!」
「なら、ノードはアルディアの次の二番目だ。最後尾は俺が務める! 行こう!」
「ええ!」
「はい!」
 ダレスは二人に指示を与えると、ミシャ達との合流するために再び動き出す。

「アルディア様! ご無事で!」
 新たな怪物の襲撃に備えて万全の体勢を整えながら街中を移動していたダレス達だが、ノードとの遭遇から十分も経たない内にミシャとの再会を果たす。
 予想どおり、彼女の方からダレス達を迎えに来た形となった。隠密行動にはそぐわない鎖帷子の数少ない利点と言えるだろう。
「あなたも無事で何よりです!」
「彼はノード、生存者だ。・・・クロットは置いて来たようだが、身を隠せるような場所は見つかったのか?」
 主従の再会を喜ぶ二人、特にアルディアの右手を自身の両手で包み込みながら喜びの笑みを浮かべるミシャにダレスはノードを紹介し、与えていた任務の成否を問い掛ける。
「む・・・当たり前だ。アルディア様、ご案内しましょう!」
 アルディアとの再会に水を差されたミシャは不機嫌さを隠す様子なくダレスに答える。ノードの存在も気にはなっているようだが、彼女は優先順位を取り違うことはなかった。踵(きびす)を返すと、発見したと思われる安全な場所へと誘導を開始した。
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