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閉ざされた街
20 アルディアの願い
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「はぁ・・・はぁ・・・」
呼吸をするのも意識しなければならない状況でありながらも、ダレスは武器を振るい続けていた。十体目を倒してからは数えるのを止めて、押し寄せる敵と無心に戦い続けている。
当初は防衛線を張れるだけの広さがあった階段前の広場も、今では怪物達の遺骸で埋まり足の踏み場もない。既にミシャは階段に上がり、そこからダレス達の援護と死角を突こうとする敵への牽制を務めていた。
「アルディア様! 右手から四体接近しています!」
「ええ! ダレスさん、ミシャ! 眼を!」
ミシャの警告に従いアルディアはこの戦いで何度目かの〝ホーリーライト〟を発動する。仲間の亡骸を乗り越えて広場に現れた新手の敵は、魔法の光に焼かれて動きを止める。その怯んだ敵に対してダレスは確実にトドメを刺した。
彼らの戦い方は互いの連携も完璧で、戦術としても極めて有効と思われた。だが、いかんせん敵の数が多すぎる。
疲労の蓄積と床に転がる死体によって動きが制限され、このままでは仲間内の連携が取れなくなり、各個撃破されるのは目に見えていた。
『そろそろ限界か・・・だが・・・』
ダレスは自身に秘めた〝力〟をここで解放するべきか悩む。可能ならば、復活した魔族本体との対決まで温存させたいのである。瀬戸際に立たされていた。
「おりゃりゃぁぁぁ!」
「退け! アルディア! 孤立するぞ!」
雄叫びを上げてメイスを振るうアルディアにダレスは警告を告げる。この状況で衰えない戦意と無尽蔵の体力は賞賛に値するが、迫りくる敵を迎え撃つために彼女はやや突出し過ぎていた。
戦闘直後ならばこの距離感でも互いにカバーし合えたが、今は敵の死体で足場が悪く、動きが鈍くなっている。目の前の敵に集中するアルディアにはダレスほど豊富な経験はない。その状況変化に対応出来ていなかった。
「おのれ!!」
自身の戦線を上げることによってアルディアを孤立から救おうとしたダレスだが、悪態と共に足を止める。彼の邪魔をするように新たな敵が立ち塞がったのである。
「アルディア様!!」
続いてミシャの悲鳴が広場を震わせる。孤立したアルディアを目掛けて怪物の多くが一斉に襲い掛かったのだ。如何に怪力が自慢の彼女でも背後を含めた四方から襲われれば対処は出来ない。そのまま質量に物を言わせて倒されてしまうだろう。
『(父なるユラント神よ! 再びあなたの光を!)』
アルディア救出に向かうため、目の前の敵に必死に剣を振るうダレスの耳に〝神代の言語〟の祈りが届く。元より並の人間には理解出来ぬ神の言葉だが、その祈りには一切の動揺も焦りも存在しなかった。
囲まれて窮地に陥ったアルディアだが、彼女自身は至って冷静であり、この場で最も効果的な反撃方法〝ホーリーライト〟で敵を迎え撃った。
つまり彼女は奇声を上げて力任せにメイスを振るいながらも、その心は常にユラント神への信仰を忘れていないということらしい。
いずれにしても至近距離で〝ホーリーライト〟を浴びた怪物達は勢いを失ってその場に崩れ落ちる。それをアルディアは纏めてメイスで薙ぎ払った。
「やるな!!」
その光景にダレスは素直に賞賛を口にする。彼からすれば経験不足な面があるものの、アルディアの実力はあらゆる点で人間の域を超えていた。
だが、そんな圧倒的な実力を示したアルディアに怯むことなく、新たな敵が群がり始める。まるで彼らの標的は彼女であるかのようだ。
「おるりゃあぁぁ!! ダレスさん! 私が囮となって敵を外に連れ出します! あなたとミシャは皆さんを護って下さい!」
自身を狙う敵の行動を逆手に取ったのだろう。アルディアは行く手を遮ろうとする敵にメイスを叩き込むと、広場から外に繋がる廊下に向って一人で突進を開始する。
邪魔する敵はその怪力で薙ぎ倒し、自らが作った死骸をモノとせずに突き進んで行く。
「馬鹿! 止めろ!! 死ぬつもりか!!」
「アルディア様! お止め下さい!!」
ダレスとミシャが悲痛な声を上げるが、アルディアは彼らの制止の言葉に答えことなく、笑みを浮かべた一瞥を最後に残して広場から姿を消す。
そして、彼女の後をまるで蜜に誘惑された蟻のように多数の怪物達が追って行くのだった。
「くそったれが!!」
アルディアに破滅とも思える判断をさせてしまった自分の不甲斐なさに耐えながら、ダレスは残った敵に剣を振るう。
直ぐにでもアルディアを追いたかったが、未だ少数の敵が存在していたし、二階に上がる階段の護りを放棄するわけにはいかない。それはエイラやノード達を見捨てるのと同じことだ。
「・・・ミシャ! ここで戦おう! それが彼女の願いだ!」
アルディアと〝白百合亭〟の生存者二十数人の命を天秤に掛ける究極の選択にダレスは結論を下した。
アルディアは自身の命を賭けて生存者を護ることを選んだ。ダレスはこれまで彼女のことを冗談交じりに〝脳筋聖女〟と表現していたが、脳筋は脳筋でも本物の聖女だと確信する。
ダレスは断腸の思いで聖女の願いを聞き届けたのである。
「・・・ああ!! なんてことに!!」
ダレスとは違い、ミシャには微塵の迷いもなかったのだろう。いつの間にか階段から飛び降りており、アルディアが消えた廊下に向って走りだそうとしていた。そこをダレスに止められた形となり、嗚咽にも似た絶叫を漏らす。
ダレスとしては、自身の判断をミシャに強制させるつもりはなかった。彼女はアルディアへの個人的な主従関係によって今回の魔族討伐に参加しているのである。ミシャにとってはアルディアが全てなのだ。
それでもミシャはダレスが伝えるアルディアの願いの意味を思い出して踏み留まった。
「くそったれ!」
一瞬の戸惑いの後にミシャは身を翻すと、敵の一体に泣きながら小剣で攻撃を仕掛ける。彼女もまたアルディアの願いを、心が引き裂かれる思いで受け入れたのだった。
呼吸をするのも意識しなければならない状況でありながらも、ダレスは武器を振るい続けていた。十体目を倒してからは数えるのを止めて、押し寄せる敵と無心に戦い続けている。
当初は防衛線を張れるだけの広さがあった階段前の広場も、今では怪物達の遺骸で埋まり足の踏み場もない。既にミシャは階段に上がり、そこからダレス達の援護と死角を突こうとする敵への牽制を務めていた。
「アルディア様! 右手から四体接近しています!」
「ええ! ダレスさん、ミシャ! 眼を!」
ミシャの警告に従いアルディアはこの戦いで何度目かの〝ホーリーライト〟を発動する。仲間の亡骸を乗り越えて広場に現れた新手の敵は、魔法の光に焼かれて動きを止める。その怯んだ敵に対してダレスは確実にトドメを刺した。
彼らの戦い方は互いの連携も完璧で、戦術としても極めて有効と思われた。だが、いかんせん敵の数が多すぎる。
疲労の蓄積と床に転がる死体によって動きが制限され、このままでは仲間内の連携が取れなくなり、各個撃破されるのは目に見えていた。
『そろそろ限界か・・・だが・・・』
ダレスは自身に秘めた〝力〟をここで解放するべきか悩む。可能ならば、復活した魔族本体との対決まで温存させたいのである。瀬戸際に立たされていた。
「おりゃりゃぁぁぁ!」
「退け! アルディア! 孤立するぞ!」
雄叫びを上げてメイスを振るうアルディアにダレスは警告を告げる。この状況で衰えない戦意と無尽蔵の体力は賞賛に値するが、迫りくる敵を迎え撃つために彼女はやや突出し過ぎていた。
戦闘直後ならばこの距離感でも互いにカバーし合えたが、今は敵の死体で足場が悪く、動きが鈍くなっている。目の前の敵に集中するアルディアにはダレスほど豊富な経験はない。その状況変化に対応出来ていなかった。
「おのれ!!」
自身の戦線を上げることによってアルディアを孤立から救おうとしたダレスだが、悪態と共に足を止める。彼の邪魔をするように新たな敵が立ち塞がったのである。
「アルディア様!!」
続いてミシャの悲鳴が広場を震わせる。孤立したアルディアを目掛けて怪物の多くが一斉に襲い掛かったのだ。如何に怪力が自慢の彼女でも背後を含めた四方から襲われれば対処は出来ない。そのまま質量に物を言わせて倒されてしまうだろう。
『(父なるユラント神よ! 再びあなたの光を!)』
アルディア救出に向かうため、目の前の敵に必死に剣を振るうダレスの耳に〝神代の言語〟の祈りが届く。元より並の人間には理解出来ぬ神の言葉だが、その祈りには一切の動揺も焦りも存在しなかった。
囲まれて窮地に陥ったアルディアだが、彼女自身は至って冷静であり、この場で最も効果的な反撃方法〝ホーリーライト〟で敵を迎え撃った。
つまり彼女は奇声を上げて力任せにメイスを振るいながらも、その心は常にユラント神への信仰を忘れていないということらしい。
いずれにしても至近距離で〝ホーリーライト〟を浴びた怪物達は勢いを失ってその場に崩れ落ちる。それをアルディアは纏めてメイスで薙ぎ払った。
「やるな!!」
その光景にダレスは素直に賞賛を口にする。彼からすれば経験不足な面があるものの、アルディアの実力はあらゆる点で人間の域を超えていた。
だが、そんな圧倒的な実力を示したアルディアに怯むことなく、新たな敵が群がり始める。まるで彼らの標的は彼女であるかのようだ。
「おるりゃあぁぁ!! ダレスさん! 私が囮となって敵を外に連れ出します! あなたとミシャは皆さんを護って下さい!」
自身を狙う敵の行動を逆手に取ったのだろう。アルディアは行く手を遮ろうとする敵にメイスを叩き込むと、広場から外に繋がる廊下に向って一人で突進を開始する。
邪魔する敵はその怪力で薙ぎ倒し、自らが作った死骸をモノとせずに突き進んで行く。
「馬鹿! 止めろ!! 死ぬつもりか!!」
「アルディア様! お止め下さい!!」
ダレスとミシャが悲痛な声を上げるが、アルディアは彼らの制止の言葉に答えことなく、笑みを浮かべた一瞥を最後に残して広場から姿を消す。
そして、彼女の後をまるで蜜に誘惑された蟻のように多数の怪物達が追って行くのだった。
「くそったれが!!」
アルディアに破滅とも思える判断をさせてしまった自分の不甲斐なさに耐えながら、ダレスは残った敵に剣を振るう。
直ぐにでもアルディアを追いたかったが、未だ少数の敵が存在していたし、二階に上がる階段の護りを放棄するわけにはいかない。それはエイラやノード達を見捨てるのと同じことだ。
「・・・ミシャ! ここで戦おう! それが彼女の願いだ!」
アルディアと〝白百合亭〟の生存者二十数人の命を天秤に掛ける究極の選択にダレスは結論を下した。
アルディアは自身の命を賭けて生存者を護ることを選んだ。ダレスはこれまで彼女のことを冗談交じりに〝脳筋聖女〟と表現していたが、脳筋は脳筋でも本物の聖女だと確信する。
ダレスは断腸の思いで聖女の願いを聞き届けたのである。
「・・・ああ!! なんてことに!!」
ダレスとは違い、ミシャには微塵の迷いもなかったのだろう。いつの間にか階段から飛び降りており、アルディアが消えた廊下に向って走りだそうとしていた。そこをダレスに止められた形となり、嗚咽にも似た絶叫を漏らす。
ダレスとしては、自身の判断をミシャに強制させるつもりはなかった。彼女はアルディアへの個人的な主従関係によって今回の魔族討伐に参加しているのである。ミシャにとってはアルディアが全てなのだ。
それでもミシャはダレスが伝えるアルディアの願いの意味を思い出して踏み留まった。
「くそったれ!」
一瞬の戸惑いの後にミシャは身を翻すと、敵の一体に泣きながら小剣で攻撃を仕掛ける。彼女もまたアルディアの願いを、心が引き裂かれる思いで受け入れたのだった。
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