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閉ざされた街
22 出発
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「本当に気を付けておくれよ! ヤバイと思ったら直ぐにここに戻っていいからね!」
「おいら・・・怪物に襲われた時に何でこんな目に遭わきゃならないんだって、神様を疑ってしまったんだけど・・・ダレスさんや司祭様達に助けられたことで・・・おいらにその資格があるかわからないけど、司祭様はもちろん、ダレスさんやミシャさんの無事を神様に真剣に祈ります!」
ダレス達の出発を知ったエイラとノード達が〝白百合亭〟の外に出て二人を見送りの言葉を送る。既に辺りは夜の気配が完全に消えて、朝の眩しい光が彼らを照らしてした。
「ああ、もちろんだ。それにノード、誰でも多少の迷いはある、気にするな。ユラント神は許してくれるだろう。俺達とアルディアの無事を神に祈ってくれ!」
彼らと知り合ったのは昨日のことだが、命を救われた二人はまるでダレスを旧来の知人のように扱い、彼もそれに真摯に応じる。
特にノードの告白には笑顔で答え、アルディアの代理として一時の不信を許す。
ダレス自身はユラント神を信仰していないが、主敵である魔族はユラント神への信仰心でハミルに縛り付けているのである。ノードが信仰心を取り戻すことは、例え僅かでも敵の力を削ぐことと同意だった。
「では、行って来る!」
「じゃあな、ノード! 絶対、アルディア様を連れて戻るからな、待っていてくれ!」
「ああ、ダレスさん! 街を捜索するなら、私も一緒に連れて行ってください! 妻の安否が心配なんです!」
ダレスが別れを告げ、ミシャもノードに手を振りながら別れを惜しむ言葉を送ったところで〝白百合亭〟から突如一人の男が現れてダレスに懇願する。その人物はハミル近くの街道で山賊から助け出したクロットだった。
正直に言えば、ダレスは彼の存在を忘れていた。そもそもハミルの中にも連れて来たくはなかったし、昨夜の襲撃とアルディアのことで、そんな余裕はなかったのである。
「駄目だ! 悪いがあんたの面倒を見る余裕はない! ここで大人しく待っていろ!」
そんな事情もあり、ダレスは間髪を入れずに拒否を伝える。家族の安否が気になるクロットには同情するが、今はそれどころではない。魔族と対決するにはアルディアの力は不可欠であるし、何よりミシャだけでなく、ダレスにとってもアルディアは大きな存在となっている。彼女のことが最優先だった。
「じゃ、邪魔は決して致しません。私はお二人の後ろを付いていくだけで良いのです! お願いします! 私にはこれまでの貯えがあります。それでお礼はしますから!」
断られたクロットだが、今度は金銭での条件を付けて食い縋(すが)った。
『そう言えば、こいつは商人だったな・・・』
ダレスは嫌らしいほどしつこい彼の行動によってその素性を思い出す。
商人は自身では何も生み出さず、農民が育てた農作物、職人が作った道具等を買い求め、他所の土地で転売することで利益を得る者達のことである。
商品を流通させる役割はあるものの、原価を知らない者には元値の倍どころか十倍にふっかることも珍しいことではなく、詐欺師と悪徳商人の差は極めて曖昧と言えた。
もちろん、商人にはクロットのように山賊に襲われる等のリスクもあり、原価の十倍さえも適性と言える場合もある。
だが、それでもダレス達がこれから行なおうとしているのは、自身を囮にして窮地を救った仲間の捜索であり、最終的にはハミル救出に繋がる行動である。
それを小麦の買い付けのように、相手を上手く丸め込んで条件を飲まそうとするクロットのやり方は極めて不快といえた。
「しつこいぞ! この役立たずのくそ親父! なんなら、その舌を切り取ってやろうか?!」
「そうだよ! この二人に貴重な時間を使わせるんじゃない! それにここにはあんた以外にも、家族の安否が気になって仕方がない者達がいるんだよ! 皆、それを我慢して黙々と作業しているんじゃないか!」
ダレスほど我慢強くないミシャが、癇癪を起してクロットに怒りぶつける。利き手である右手は小剣の柄を掴んでおり、本気で彼の舌を切り落としかねない勢いだ。
更にミシャとは馬が合わないはずのエイラもそれに同調し、空気を読めない商人を激しく非難する。
「・・・す、すいません」
二人の女性から詰られたクロットは流石に分が悪いと判断したのか、小柄な身体を更に縮ませるとそれだけを口にする。だが、完全に納得したわけではなく姑息な妥協からの行動のように見える。
「・・・あの男を自由にするな。このことをエイラにも伝えてくれ・・・」
ミシャとエイラがクロットとやり合っている間にダレスはノードに小声で警告を授ける。
妻の心配をしているようで明らかに打算的な判断を下せるクロットに、ダレスは不信感を抱いたのである。迷惑ではあったが、舌くらいならやるから連れて行って欲しいと懇願された方がまだその行動原理に納得が出来る。
クロットの胸の内には意図的に隠している〝何か〟がありそうだった。
「わ、わかったよ!」
ノードも今のやり取りでクロットがどこか普通でないことを感じたのか、快諾し大きく頷いた。
「では、行って来る!」
クロットのことは気掛かりであったが、今はアルディアが最優先だ。ダレスは仕切り直すと、いよいよ捜索を開始した。
「おいら・・・怪物に襲われた時に何でこんな目に遭わきゃならないんだって、神様を疑ってしまったんだけど・・・ダレスさんや司祭様達に助けられたことで・・・おいらにその資格があるかわからないけど、司祭様はもちろん、ダレスさんやミシャさんの無事を神様に真剣に祈ります!」
ダレス達の出発を知ったエイラとノード達が〝白百合亭〟の外に出て二人を見送りの言葉を送る。既に辺りは夜の気配が完全に消えて、朝の眩しい光が彼らを照らしてした。
「ああ、もちろんだ。それにノード、誰でも多少の迷いはある、気にするな。ユラント神は許してくれるだろう。俺達とアルディアの無事を神に祈ってくれ!」
彼らと知り合ったのは昨日のことだが、命を救われた二人はまるでダレスを旧来の知人のように扱い、彼もそれに真摯に応じる。
特にノードの告白には笑顔で答え、アルディアの代理として一時の不信を許す。
ダレス自身はユラント神を信仰していないが、主敵である魔族はユラント神への信仰心でハミルに縛り付けているのである。ノードが信仰心を取り戻すことは、例え僅かでも敵の力を削ぐことと同意だった。
「では、行って来る!」
「じゃあな、ノード! 絶対、アルディア様を連れて戻るからな、待っていてくれ!」
「ああ、ダレスさん! 街を捜索するなら、私も一緒に連れて行ってください! 妻の安否が心配なんです!」
ダレスが別れを告げ、ミシャもノードに手を振りながら別れを惜しむ言葉を送ったところで〝白百合亭〟から突如一人の男が現れてダレスに懇願する。その人物はハミル近くの街道で山賊から助け出したクロットだった。
正直に言えば、ダレスは彼の存在を忘れていた。そもそもハミルの中にも連れて来たくはなかったし、昨夜の襲撃とアルディアのことで、そんな余裕はなかったのである。
「駄目だ! 悪いがあんたの面倒を見る余裕はない! ここで大人しく待っていろ!」
そんな事情もあり、ダレスは間髪を入れずに拒否を伝える。家族の安否が気になるクロットには同情するが、今はそれどころではない。魔族と対決するにはアルディアの力は不可欠であるし、何よりミシャだけでなく、ダレスにとってもアルディアは大きな存在となっている。彼女のことが最優先だった。
「じゃ、邪魔は決して致しません。私はお二人の後ろを付いていくだけで良いのです! お願いします! 私にはこれまでの貯えがあります。それでお礼はしますから!」
断られたクロットだが、今度は金銭での条件を付けて食い縋(すが)った。
『そう言えば、こいつは商人だったな・・・』
ダレスは嫌らしいほどしつこい彼の行動によってその素性を思い出す。
商人は自身では何も生み出さず、農民が育てた農作物、職人が作った道具等を買い求め、他所の土地で転売することで利益を得る者達のことである。
商品を流通させる役割はあるものの、原価を知らない者には元値の倍どころか十倍にふっかることも珍しいことではなく、詐欺師と悪徳商人の差は極めて曖昧と言えた。
もちろん、商人にはクロットのように山賊に襲われる等のリスクもあり、原価の十倍さえも適性と言える場合もある。
だが、それでもダレス達がこれから行なおうとしているのは、自身を囮にして窮地を救った仲間の捜索であり、最終的にはハミル救出に繋がる行動である。
それを小麦の買い付けのように、相手を上手く丸め込んで条件を飲まそうとするクロットのやり方は極めて不快といえた。
「しつこいぞ! この役立たずのくそ親父! なんなら、その舌を切り取ってやろうか?!」
「そうだよ! この二人に貴重な時間を使わせるんじゃない! それにここにはあんた以外にも、家族の安否が気になって仕方がない者達がいるんだよ! 皆、それを我慢して黙々と作業しているんじゃないか!」
ダレスほど我慢強くないミシャが、癇癪を起してクロットに怒りぶつける。利き手である右手は小剣の柄を掴んでおり、本気で彼の舌を切り落としかねない勢いだ。
更にミシャとは馬が合わないはずのエイラもそれに同調し、空気を読めない商人を激しく非難する。
「・・・す、すいません」
二人の女性から詰られたクロットは流石に分が悪いと判断したのか、小柄な身体を更に縮ませるとそれだけを口にする。だが、完全に納得したわけではなく姑息な妥協からの行動のように見える。
「・・・あの男を自由にするな。このことをエイラにも伝えてくれ・・・」
ミシャとエイラがクロットとやり合っている間にダレスはノードに小声で警告を授ける。
妻の心配をしているようで明らかに打算的な判断を下せるクロットに、ダレスは不信感を抱いたのである。迷惑ではあったが、舌くらいならやるから連れて行って欲しいと懇願された方がまだその行動原理に納得が出来る。
クロットの胸の内には意図的に隠している〝何か〟がありそうだった。
「わ、わかったよ!」
ノードも今のやり取りでクロットがどこか普通でないことを感じたのか、快諾し大きく頷いた。
「では、行って来る!」
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